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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第9章 次のステージへ・・・
220/361

第208話・カイトの受難

お待たせしました。

208話になります。

少々用事で、更新が遅れました。


今俺の前には、マルーン色の髪に、茜色あかねいろの瞳を持つ、キレイな女性がいる。

その美貌びぼうは全身を包む、アリアのコーディネートによるシックな黒を基調としたドレスにより、際立って美しく見えた。


「キレイなものだな。」


「それはもう、私のお姉・・・元従姉ですから。」


鏡に映るのは、かつて貴族の間で『王都の華』と揶揄やゆされていた、ルルアムその人である。

この姿には、かなりの既視感を覚える。

初めて彼女と会ったときの服装が、まさにこんな感じであった。

あれから三年以上経つと言うのに、俺が『収納』してしまった当時と、なんら遜色が無い。

いや、むしろレベルアップしている気すらする。

あの時はそれどころでは無かったし、当時のルルアムは性格が恐ろしいほどゴミカスだったので何も感じなかったが、こうしてじっくり見る機会を設けられると、本当にキレイだ。

この女性は、やはり作業着なんかよりもドレスが似合う。

だが・・・・


俺が右手を上げると、鏡に映るルルアムも、右の手を上げる。

俺が頬を突っ張れば、鏡のルルアムも、同じ動きをする。

カイトは今さらながら、『現実』というモノを、突きつけられた。


「カイト様、何をしていらっしゃるのですか? ドレスにシワが寄ってしまいますわよ??」


「ああ、ごめん。 はあぁ・・・・・」


そう、鏡に映るルルアムは現在、俺なのだ。

もはや、ため息しか出ない。

今は現実から目をそむけたい事でいっぱいだ。

俺ってば、不幸の星の下にでも生まれついたのだろうか?


「カイト様、起きてしまった事は今さら、仕様がございませんわ。 あなたも夜分、ご苦労でした。 後の事は私が行いますので、休憩を取っていてください。」


「はい奥様、それでは失礼いたします。 大公様もどうか、お気を落とさずに・・・・」


俺をなぐさめつつ、ドレスの着付けを手伝ってくれた屋敷のメイドさんをねぎらうアリア。

一礼をして、部屋を退室していく屋敷のメイドさん。

彼女も今の俺の姿に終始、戸惑いを隠せない様子だった。

そりゃある日突然、仕えている主人(?)が入れ替わったりしたら、驚くよな。

しかも、悪い意味でよく知られている人間だし。

まあ、それはさておき。


「アリア、いくらなんでも準備には早過ぎないかい? 出発は明日の朝だろう??」


今の時間は、夜中の一時を少し回ったぐらい。

『バレ』やら説明やらで、いつの間にか深夜になってしまっていたのだ。

帰ってからというもの、俺はまだ、少しも休めてはいない。

昨日から寝不足なので、明日の王様に会うことも考慮して、少しでも休んでおきたかった。

だがアリアは、それを良しとしてくれない。


「カイト様、女性の支度というモノは、時間が掛かるものなのですよ? ドレスを着ただけでは、ただのピエロですわ。」


「ふうん?」


鏡の前に立つカイトの肩に手を置き、その背後から顔を覗かせるアリア。

その脇には、先ほどのメイドさんが用意した移動できる台がある。

その上には、オイルの入ったビンやくしなどがところ狭しと置かれている。

貴族女性の、必需品セットらしい。


「ルルアムと会ったのは、半年ほど前とおっしゃいましたね? その間、ルルアムには何もしなかったのですか??」


「まさか! アリアがいるのにそんな事するわけが無いじゃないか!!」


右手にヘアーオイルを、左手に柔らかなタオルを持ったアリアは、トンでもない事を聞いてきた。

そんな地球滅亡級に恐ろしい事、出来るはずがない。

必死に全身を使って、『否定』を表現するカイト。

一方のアリアも、カイトのこの切り替えしに目を丸くして、思わず苦笑を浮かべた。

何も自分は、そんな事を聞いているわけではない。

バカイトは、アリアの話を曲解してナナメ45度くらいから、オブラートにエロい事をぶちかました訳だ。

自爆よりある意味、ヒドイ。

『エロカイト』という二つ名が、今の彼にはふさわしいかもしれない。


「そうではございません。 こうして見れば、女性として分かるのですが、ルルアムの髪がだいぶいたんでいるのです。」


「髪が傷む?? さあ・・・・会ったら話すぐらいだったから、そこのところは何も・・・」


「・・・そうですか・・・・・・。」


てっきり会ったときに、そういったところはカイトが治しているものと踏んでいたアリアは、驚きを隠せず、彼にこうした質問を投げかけたのだ。

いや、これはそれより新しい時期のものだろうか??

どちらにせよ、『かつてのルルアム』をよく知るアリアには、この痛々しい彼女の姿は、思わず言葉を失ってしまうぐらい、衝撃的なものである事に違いは無かった。


「アリアでも、手入れは無理かい?」


「何をおっしゃいますのやら。 これ位、私の手に掛かれば造作もございませんわ。」


心配の声を上げるカイトに、胸を張ってそう宣言をするアリア。

手にあるヘアーオイルを、手に取るとルルアムの髪に、するりと彼女の手が入れられる。

こうして、髪にオイルを馴染ませていくのだ。

部屋いっぱいに、かぐわしい香りが広がる。


「カイト様、今ルルアムは、どんな方になっていますか?」


「んー、心がキレイさっぱりになったというか・・・優しくて思いやりがあって皆からも頼りにされているんだよ?」


「皆、でございますか。」


「そ、みんな。」


笑顔で前だけを見て質問に答えるカイト。

そんな彼の微妙な言い回しに、アリアは『ルルアムがグレーツク女王』だという自分の憶測を、固めた。

ちなみにカイトの言う『皆』とは、鉄道研究所のおっさんズの事である。

『守秘義務』(本当は存在すらしていない)の関係でアリアは、これ以上の質問はしてこなかった。

こうして、大いなる誤解が生じる形となってしまう。

そのことに、誰一人として気が付く者はいなかった。


「お兄ちゃん、いいな・・・・」


「ん?」


モノ欲しそうな顔を浮かべ、俺の横にヒカリが立つ。

どうやら俺の髪の手入れ風景が、彼女の目に留まったようだ。

彼女も一丁前に女性なんだなーと、感じさせられた。


「ヒカリにも、この後でやって差し上げますわ。 それまで待てますか?」


アリアの言葉に不精面から一転、輝くような笑顔を向けてくるヒカリ。

良かったな、ヒカリ。

心地よい、ゆっくりとした時間が、室内を流れていく。

こんなに落ち着けたのは、いつ振りであろうか?

・・・・ああ、そんな事を考えていたら『欲求』が・・・・・・


「ああ、アリアちょっといいかな? トイレ。」


「・・・・カイト様、行くなとは言いません。 ですが今のあなたは淑女しゅくじょでございます。 行くのならば『トイレ』ではなくせめて、『お手洗い』と言って下さいませ。」


あまりにストレートに『欲求』を言ってきたカイトを、そうたしなめるアリア。

彼女は、大いに呆れていた。

もう、なぜ『呆れた』のかを言う気にすらならない。

皆さんも外国へ行くときには、この辺りをご留意下さいとしか、言いようが無かった。

こういう際のストレートは、万国共通で嫌がられるので。

アリアから『許可』をもらったカイトは、『トイレだ、トイレ♪』とバカ丸出しで歌いながら、退室していく。

アリアの受難は、始まったばかりだ。





一方、意気揚々と部屋を後にしたカイトもすぐに、ある種の『受難』を浴びる事となった。

小腹がすいた関係で、屋敷の厨房へ向かうところだったノゾミだ。


「あれ、カイトどうしてルルちゃんの姿なの!?」


「・・・・よく俺だって、分かったな。」


ルルアムを見て、驚きの声を上げるノゾミ。

彼女は一目見ただけで、俺を『カイト』だと認識したようだった。

分かっていた事ではあるが、この屋敷には察しがいいヒトが、多すぎである。

明日、王宮へ行くのがメチャ怖い。


・・・今のうちに逃げちゃダメだろうか??

次回、ハラハラドキドキの王宮です。

カイトが自爆しない事を、祈ります・・・

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