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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第9章 次のステージへ・・・
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第206話・心の傷と誤解

これからも、頑張って行きます。

感想などがありましたら、どんどんお寄せ下さい!!

「カイト様、先ほどは取り乱してしまい、申し訳ございませんでした。 お怪我はございませんか?」


「うん、大丈夫だよ?」


私の前には、お姉・・・ルルアムがいます。

ヒカリたちからの説明によると、彼女・・いえ、彼はカイト様のようです。

さっぱり意味が分かりません。

まずは、状況を順を追って整理するとしましょう。


数時間前に屋敷に帰ってきたのは、カイト様の姿をしたカイト様でした。

言っている事が意味不明ですよね?

しかし彼には、違和感があったのです。

この複雑な気持ちをどう表現したものかは私でも、分かりかねます。

間違いなく彼なのに、変な感情が込みあがったと言うか・・・

所謂いわゆる『カン』と言うヤツです。


それを指摘した途端、カイト様は白状しました。

『偽装していた』と。

何かトラブルがあって姿が変わってしまい、私達に心配させまいと、ヒカリに魔法でいつもの姿に見えるようにしていたのだそうです。

いつもながらカイト様、やる事がスゴ過ぎですわ。

発想も、そしてそれを実行に移すことも。

ともあれ彼は、私のみならず屋敷の者に隠し事をしようとしていたわけです。

彼とは後で、じっくりお話させていただきましょう。

ヒカリの魔法が解けるまでの間、私は目を凝らしました。

一体彼は、どんな姿になってしまったと言うのか。

彼には日頃から、驚かされっ放しなので、そう滅多な事では私は驚きませんよ?


『!!???』


そうして解けた魔法の中から姿を現したのは、他でもない、お姉・・ルルアムでした。

どうして彼女がここにいるのか。

彼女は確か、身分が剥奪されて『奴隷』になってしまったはず。

すっかり気が動転してしまった私は、彼女がカイト様である事も忘れ、近くにあった剣を、構えました。

自分が何を口走ったのかは、よくは覚えておりません。

でも多分ですが、かなり彼に対し、失礼極まりない事を言ってしまったのだと思います。

事実として、彼女・・彼に対し剣を向けてしまったわけですし。


「さっきダリアさんが説明したとおり、グレーツクで事故があって、仏像の呪いで傍にいたルルアムと、体が入れ替わってしまったんだ。 隠そうとしてごめん。」


「いえ・・・私のこの反応を見越してのご対処でしたのね? お気遣い、まことにありがとうございます。」


ルルアムと言う女性。

彼女に私は、トラウマがあります。

初めて会ったのは、私がまだ、4歳の頃でした。

貴族家への挨拶に、父上と回っていたときに訪れた家の、ただ一人の娘でした。

そして彼女は、私の従姉いとこでもあります。

彼女は私に、多くのことを教えてくださいました。

世界で一番大切でしたし、尊敬していた人物でした。

しかしある日、私は彼女に殺されそうになったのです。


信じられませんでした。

彼女が私を殺そうとした事も。

彼女が私を利用しようと考えていたらしいことも。

あんなに優しかったのに。

だから私は当時、彼女から目を背けました。

心が壊れ、『別人』のようになってしまった彼女からも。

法廷で裁かれ、『奴隷』になってしまった彼女からも。

彼女は、お姉さまではないと、彼女によく似た別の人間であると、自分に言い聞かせ、壊れそうになる心をつなぎ止めました。

今でも一連の事件は、夢のように感じてしまいます。

あれは悪い夢だったのではないか。

本物の優しいお姉さまは、どこかにお隠れになっているのではないかと。


いつしかそれは、私の心の闇となり、奥底に深く沈んでしまいました。

どうやらカイト様には、それがお見通しだったようです。

事実今回、ルルアムの姿を見た私は、かなり取り乱してしまいました。

それを見通して、カイト様は私に隠そうとしたのでしょう。

私は彼に感謝こそすれ、怒りを覚える事などは全くありませんわ。

隠そうとした事は、少しいただけない部分もありますが。


「しかしカイト様、なぜグレーツクでルルアムと行動を共にしていたのですか? 彼女は身分を剥奪され、『奴隷落ち』したはずですが・・・」


問題はここです。

『傍にいたため入れ替わった』と言うなら、なぜ彼の傍に奴隷のはずのルルアムがいたのか。

そもそもなぜ、ルルアムがグレーツクに居るのか。

ご説明いただかなければ、腑に落ちません。


「鉄道建設のときに奴隷を買った事があったろう? その中に偶然、ルルアムが居たんだ。」


「ええ!??」


初耳です。

つまり彼女が、鉄道建設現場にいたと?

他の奴隷たちと共に、土まみれになって働いていたと??

かつてのルルアムを知る者として、とても想像ができませんが、王宮で最後に見た彼女の姿を思うと、あまりおかしくは無いのかもしれません。

それにしても、何という巡り会わせでしょうか。

『王都へ奴隷を買いに行ったら』偶然ルルアムも買っていた?

こんな偶然、普通はありえません。

あったとしたら、我々の間に、一体どんな縁があると言うのでしょうか??


はは~ん、分かりました。

分かりましたわよ、カイト様の思惑が。

あの時の『奴隷導入』は口実で、その本質は『ルルアム探索』だったのですね?

ルルアムの性格が様変わりしてしまった原因は、カイト様にあります。

彼はそれを気にしており、どこかでルルアムが奴隷落ちした話を聞いたのでしょう。

そして、それを保護する目的で、口実として奴隷をお買いになったのですね?

今までそんな事、気にも留めておりませんでしたわ。

私を出し抜くとは、さすがはカイト様でございます。


しかしカイト様は、私の考えに間違いがあるのか、頭を横に振ります。


「ルルアムと再会した時、彼女は奴隷生活の中で衰弱して、立つのもやっとな状態だったんだ。 俺にも怖気づいたままでね・・・」


「そうですか・・・・」


彼女にも、何らかの心の傷があるのでしょう。

そこは同情いたします。

一夜にして貴族令嬢から、奴隷ですからね。


「『何かしたい』と言うから、鉄道研究所に行かせたんだ。 そうしたら頑張ってくれてね。 実は今走っている列車の動力は、彼女の力が大きく関わっているんだ。」


「る、ルルアムがあの『機関車』をですか!??」


驚きです。

鉄道建設にたずさわっているとは思いましたが、まさか技術関連で携わっているとは。

あれは、カイト様がグレーツクから呼び寄せたドワーフたちだけの手によるものとばかり、思っていました。

まさかあれに、ルルアムの力添えがあったとは・・・

彼女は貴族時代、かなり優秀で頭も良かったです。

新しい情勢など、すぐに覚えて自分のモノにしてしまうのです。

それを考えると、おかしい事は無きにしもあらずではありますが・・・・

彼女はその能力を、自分にだけ使っていました。

それが普通だと言われ、当時の私は特に気にはしていませんでしたが、それを考えると今回の『機関車作りに貢献した』という報告は、目を見張るものがあります。

彼女が変わってしまった事は分かっていましたが、ここまでくれば本当に『別人』ですわ。


「今回はその関係で、彼女とは話をしていてさ。 そうしたらこんな事に・・・本当に隠そうとしていてごめん。」


「・・・・。」


ルルアムの姿のカイト様は、その存在を誇示するように手を大きく広げて、体を大きく見せます。

どこからどう見てもその姿は、すぐにルルアムと分かりますが、こうしてみると、おかしな点がちらほら・・・。

まあ、いいでしょう。

それよりも、さらに驚くべき事が分かりました。

今カイト様は、『ルルアムと話をしていた』とおっしゃいました。

今回カイト様がグレーツクを訪れたのは、かの国の『国王』と謁見えっけんするためであったはずです。

これでカイト様が私に、かたくなにグレーツク国王と会わせようとしなかった理由が、はっきりとしましたわ。

そして、カイト様が『奴隷解放』を、強く推した理由も。

そうです。


グレーツク国王は、他でもないルルアムなのです!!


間違いありません。

なぜそうなったのかは分かりませんが、カイト様の周りで何らかの力が働いて、彼女の地位が向上したのでしょう。

カイト様は混乱で、口を滑らせてしまったようですね。

誉められた事ではありませんが、良い事を知ることができました。

しかもどうやら、かの国の政治は、上手くいっているようです。

何も悪いニュースを聞かない事が、それを物語っています。

カイト様も、何らかの形で彼女を支える立場に就いているのでしょう。

ドワーフは義理堅い種族なので、未だ地震の事で、彼に良い感情を抱いているに違いありません。

まさに政治には、もってこいの人材ですわ。

さすがすぎて、私の感覚の方がマヒしてしまいます。


「そう、ですか・・・」


まあ、この話は後回しにいたしましょう。

考えても、頭痛がひどくなるだけです。

何よりもこれからは、現実から目を背けるのは、もうやめにしましょう。

昔のお姉さまは、もう居ないのです。

いいえ、昔のお姉さまは、私を利用しようとして邪魔になり、消そうとした欲にまみれた人間だったのです。

今の彼女は、一度奴隷落ちして民の痛みなどを知り、良き女王となったよう。

過去とはいい加減、決別しましょう。

これからはずっと、未来を見ていかなくては。

カイト様のように。


「カイト様、いつか・・・でかまいません。 ですから私に、ルルアムと一度、お話しする機会をください。」


「え、ルルアムと!? でも・・・」


「ルルアムが、私と会いたくないとおっしゃればそれでかまいませんわ。 もし、『叶うならば』で良いのです。」


まずは、一歩を踏み出したい。

そのために、彼女とのわだかまりを解消したいです。

叶わなければ、それはそれでかまいませんわ。

彼女にとっても『あの事件』は、思い出したくない過去でしょうし。


「いや、ルルアムもアリアと会いたそうにしていたよ。 アリアが会いたいなら、すぐに話は通すよ。 それで良い?」


「もちろんでございます。」


彼女とは、話が出来るようです。

しかも彼女は彼女で、私と会う事を希望しているよう。

どういう思惑で彼女が、私と会いたいと言っているのかは分かりませんが、それは嬉しい限りです。

カイト様がルルアムの姿と言う事は、今はルルアムはカイト様の姿のはず。

これならば話もしやすいでしょう。

今の私ではどうしても、ルルアムの姿を見ると怖気おじけづいてしまいますから・・・

現実、カイト様と分かっているのに目の前のルルアムの姿に、私は身震いが止まりません。

この機会に、彼女と話をするのが、得策と言えるでしょう。




何より、ルルアムの心に少し、確かめたい事が出来ましたしね。

誤解がまた一つ、増えてしまいました。

この先、どうなる事やら・・・

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