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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第9章 次のステージへ・・・
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第205話・カイト様ではありませんね?

あとたった一ヶ月で、今年も終わりです。

一年なんてあっという間ですね。

今年はあわただしい一年だったせいか、無性にそう感じます。


「ななな・・何を言っているんだよアリア! 俺は俺だよ!?」


引きつった笑みを顔に浮かべながらも、自分がカイトである事を必死で主張するカイト。

背後にいるヒカリの表情は、ここからでは見えないがきっと、驚愕きょうがくのものに包まれている事だろう。

しかし・・・

見た目は完璧だと、ダリアさんからのお墨付きもいただいている。

彼女の気配察知の能力などは、かなり高度なものだ。

俺同様、人間のアリアにバレるわけが・・・・


語弊ごへいがございましたわね。 確かにあなた様がカイト様本人である事は確証があるのですが・・・・何というかどこか違和感のようなものを感じるのです。」


「い、違和感?」


両方の手をグーパーさせるアリア。

まさかさっき俺の肩に手を置いたのは・・・


俺が考えている事を察したのか、アリアはにっこりと、俺にやわらかい微笑ほほえみを浮かべてきた。


「それだけではありませんわ。 私がヒカリに『グレーツクで何もなかったか』と聞いたとき、彼女はずいぶん慌てておりましたわ。 それにカイト様も、『国王陛下から召喚命令が来た』と分かったとき、かなり取り乱しておいででしたわよ?  必死でお隠ししていたようではありますが。」


ヤバい。

真面目な話、アリアが『何か』をつかみかけている!!

おかしい!

確かに俺たち二人の挙動不審な態度で『おかしい』といった感情は抱くかもしれない。

でも、『俺が俺じゃない』だなんて、少し触ったりしただけで、そうそう分かるものではないはずだ。

なぜそれを、アリアがつかみかけているの!??


「どうして、どうしてそれだけで・・・!!」


カイトの動揺に、さらに笑みに輝きが増すアリア。

彼女的には、彼のこの言葉だけで十分だった。

『どうして!?』

彼は何も考えず、ただ心で思った事を口に出したのだろう。

しかしその言葉は逆に言えば、『肯定』ととってもいい言葉でもある。

何もないのなら、ただ否定をすればよいだけなのだから。

『違和感』のようなものを感じたのは本当。

だがアリアとしては、鎌かけを行ったに過ぎない。

そうとは知らずにカイトは、勝手に自爆をした。

カイトの性格などを知り尽くした上での、鎌かけだったわけである。

まさかここまで、思い通りに動いてくれるとは考えていなかったが。

それを言ってしまえば、彼が可哀そう過ぎるので、オブラートに包んで話すことにする。


「そうですわね、はっきりと言ってしまえば、私の『カン』でございますわ。」


「『カン』・・・・・」


アリアからの思わぬ一言に、呆然とするカイト。

『カン』だけで見抜くなんて・・・

アリア、恐ろしい女性である。

カイトは、全身の血が抜かれるような感覚に陥った。


彼のそんな心境はいざ知らず。

「それと」と、言葉を付け加えるアリア。


「カイト様がお帰りになられた際、一瞬だけお姿が変わったように見えました。 ただの目の錯覚だったのかもしれませんが、カイト様は、何か知っているのでは? ヒカリも。」


流し目で、カイトとヒカリを交互に見るアリア。

やはりあれが、決定打だったようだ。

だがヒカリには、責任などは無い。

分かってはいた。

たぶんアリアは、気付くんじゃなかろうか・・と。

これも、ある種の俺の『カン』ってやつだ。

事実、そうなった。


「ヒカリ、『幻惑の魔法』を解いてくれ。」


「ええ!? でも一ヶ月は解いちゃダメだって・・・・」


ヒカリはカイトの思わぬ指示に、とまどいを隠せなかった。

だがそれをアリアの前で言った時点で、すべてはおしまいである。

アリアがカイトたちに向ける表情は、一層、険しいモノになった。

それで何も言ってこないのが、逆に恐怖心をき立てられる。


「良いんだ、アリアにこれを隠すのは、もともと無謀だったんだから・・・・」


「・・・・。」


一切ヒカリの方へは振り向かず、それだけを話すカイト。

ヒカリもアリアのことはひととなりに分かっていたので、反論はせずに顔をうつむかせる。

彼女もカイト同様、『隠すのは難しいのでは?』という漠然とした考えは持っていたのだ。

でもアリアにそのまま、起こったすべてを話すわけには行かないと聞いたので、少しでも役立ちたいと、こうしたのだ。

だが、一朝一夕の自分の魔法では、やはりダメだったようだ。

残念でしかない。


「じゃあお兄ちゃん、解くよ・・・?」


「・・・ああ・・・・・。」


カイトもこうなればと、覚悟を決めた。

アリアへの弁解の言葉などは、何も思い浮かんではいない。

だが隠しても、何もいいことはなさそうだ。

だから、アリアにはバラすのだ。

ルルアム、ごめん。


ヒカリが両手を振ると同時に、カイトへ掛かっていた『魔法』は、下のほうから溶けて行くようにして消えていった。

その中から現われた人物の姿に、アリアは言葉を失った。


「アリアごめん。 事情があって、こうなったんだ・・・。」


「お、お姉さま!?? なぜルルアムがここに・・・・!!」


距離をとり、警戒心を新たにするアリア。

険しかった表情が、より一層、険しくなる。

彼女は実際、鉄道工事中からルルアムとは、一度も会ってはいない。

取り乱すのも、当然の事と言えた。

だけど・・・


「出て行きなさいルルアム! カイト様をどこへやったのですか!??」


「ま、待てアリア!! 俺はルルアムに見えるけど、ルルアムじゃなくて・・・・ひいいいいい!!!???」


「お兄ちゃん!!!」


取り乱しすぎて、俺がカイトであることなど、彼女の理性から吹き飛んでしまったようだ。

アリアが部屋にあった剣を取り出し、俺へ向けてくる。

やはりもう少し、オブラートに包んで話したほうが良かっただろうか?

魔法を解く前に、話しておくとか。

鬼気迫る勢いのアリアを前に、カイトはあさっての方向へと思考を向けた。

今の彼女に何を話しても、無駄であろう。

嵐はただ、過ぎ去るのを待つしか方法はない。


「さあ早くカイト様の所在を話しなさい! そうすれば、命だけは助けてあげますわ!!」


「・・・・・・。」


「カイト殿様、何やら悲鳴が・・!! ・・・ああ。」


ガチャっという扉を開ける音共に、ダリアさんが部屋の中へ入ってきた。

先ほどの声を聞きつけて、駆けつけた様だ。

しかしすぐに、ルルアム姿の俺と、剣を構えるアリアの姿を見て、状況を理解した様子。

理解したなら、手を貸してくれ。

そんな面白いものを見るような顔はせずに。

今にも俺は、殺されてしまいそうなのだから。

文字通りの意味で。




救援は、無い。

この『嵐』は、当分、過ぎ去るような気配は無かった・・・・

カイト、命の危機です。


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