第203話・ミッション・イン・カイトブル
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私の瞳に映る、自分の姿。
私が目を覚ました際、最初に見たものが、それでした。
鏡に映るものではなく、実像の。
そしてダリア様に出していただいている、水鏡に映った今の己の姿。
黒目黒髪で、慈愛に満ちたカイト様の姿。
右手を動かせば、鏡に映った虚像も右手を動かします。
その瞬間、世にも恐ろしい事が起こってしまったのだと、直感しました。
どうやらカイト様と私は、入れ替わってしまったようです。
仏像との戦いで私が気を失っている最中に、『事故』が起きてしまったよう。
私を運んでいる最中に放たれ、うまく避けられなかった魔法が、私とカイト様に直撃し、誤作動を起こしたのだと、ダリア様に教えていただきました。
そんな時に寝ていた自分が、腹立たしく思います。
それが無ければ、この『事故』は防げたはずなのですから。
ですが慈愛に満ち満ちたカイト様は、『自分が悪いのだから、私が気にする事はない』のだと、逆に私に詫びを入れてきました。
なんと彼は、お優しいのでしょうか?
しかしこれは、私が思っている以上に、深刻な事態だと思われます。
カイト様は、『大公』と言う要職につく、お方です。
対して私は、一度は奴隷にまで身分を落とした、愚かな女です。
お優しいカイト様に救われなければ、今も私は薄汚れた『商品』であった事でしょう。
それが入れ替わってしまったなど、恐ろしくて想像するのも憚られます。
しかし、現実として彼と私は、入れ替わってしまったようです。
悩んでいるヒマなどありません!!
ここで私が出来るのは、一つだけでした。
「カイト様、こうなった一端には私の責任も大いにあります。 元に戻るまでの一ヶ月間、責任を持って私がカイト様になりますわ! 何でも、言いつけてくださいませ!!」
「「「えええーーーーーーー!!???」」」
私達は入れ替わってしまった。
ですが私は、カイト様の奥様には、本来はお会いしてはいけない。
つまり、私の姿のカイト様は、お会いする事ができないのです。
しかし、所用でカイト様は、明日には帰らねばならない。
であれば、私が出来るのはそれだけです。
全力で彼のフリをして、一ヶ月を切り抜けるのです!!
ですがこの提案は、すぐにカイト様の手によって、『却下』となってしまいました。
アリア・・・・様は優秀で、聡明な方です。
勘が鋭い方ので、どんな名演技をしようとも、すぐにバレてしまうだろう、との事でした。
私の浅知恵では、何もお役には立てませんでした。
カイト様に誉めて頂きたいがために、これまで『鉄道』ばかりにうつつを抜かしていた自分が、恨めしい。
こう言う時にこそ、大いなる『知恵』が必要とされると言うのに。
今すぐに過去へ行って、カイト様の近況なども知っておくようにと、過去の自分に言い含めたいです。
するとカイト様は、もう一度私に向き直り、頭を下げてきました。
「ルルアム、こんな事に巻き込んでしまってごめん。 お前の体は大事にするよ、絶対に裸を見たりはしないから!!」
「と、とんでもございません!! 私のような者の体など、どうなってもかまいません。 そのような薄汚れた体で、恐縮でございます・・・」
返礼するように、私も彼へ、頭を下げます。
このような事態にもかかわらず、カイト様は私の体の心配をしていただいております。
私は嬉しい気持ちでいっぱいです。
彼は真の『紳士』と言えるでしょう。
失礼は承知の上ですが、彼の出自は、どうなっているのでしょうか?
元、一市民には到底見えないのですが・・・・
いえ、それは私のような者が詮索するような事ではありませんでしたわね。
私はカイト様が仏像とお戦いになっている最中、不覚にも気を失ってしまいました。
その時、彼は土塊になって死んでしまった気がしたのですが・・・・
何がどうなったのかはさっぱり分かりませんが、彼が死ななくて、本当に良かったです。
このような妄想をするなど、カイト様に対して失礼すぎですね。
私は。
◇◇◇
「カイト殿様、到着いたしました。」
「ああ・・うん、ありがとう。」
洞窟の事件から、丸一日。
カイト、ヒカリ、ダリアさんの三人は約二日ぶりに、ベアルの地を踏んだ。
ダリアさんの、転移の魔法で。
ちなみにルルアムは、連れて来ていない。
大事などをとって、グレーツクに置いて来たのだ。
彼女にまで、『変身の魔法』を掛ける事はかなわなかった。
もし連れてきたとして、どこかに隠れているのが誰かに見つかりでもしたら、それこそ大事である。
ちなみにグレーツクの人たちには、事のあらましは伝えてるので、問題は無い。
人数が多かった事もあり、この説明に、丸一日を要したが。
特に、いつもの赤いカイトの姿と、今の黒目黒髪の姿が、結びつかなかったよう。
最後には、いつものように俺をからかいだしてきたが。
しかしなぜあの時、おっさん達が顔をニヤつかせていたのかは、全くのナゾだ。
「ダリアさん、俺の見た目で、おかしいところは無い?」
「そう・・・ですね、特におかしなところは見受けられませんが?」
一応念のため、屋敷へ入る前にダリアさんに、確認を取っておく。
俺の質問に、周囲をぐるりと一周するダリアさん。
ダリアさんはドラゴンとして、気配などの察知が優れている。
彼女のお墨付きがあれば、もう安心だ。
「私はお兄ちゃんとはいつも、一緒にいるもの。 これだけは、絶対に間違えたりはしないよ?」
「ああ、ありがとうヒカリ。」
得意満面で、胸を張るヒカリ。
この幻惑の魔法は、彼女に掛けてもらったものだ。
昨日、俺が変身をために彼女は、ダリアさんに『幻惑の魔法』を教えてもらった。
それを今、ルルアムになってしまったカイトは掛けてもらっている。
おかげで今のカイトの姿は、いつもの平凡な領主なカイトであった。
その魔法の中には、作業着姿の、ルルアムがいる。
彼女に配慮した結果、着替える事などはできなかった。
まあ、一ヶ月間は『クリーン』の魔法で凌ぐとしよう。
『俺とルルアムが、入れ替わっている。』
どう間違っても、この事実だけは屋敷の人間に気づかれるわけにはいかないのだ。
ルルアムの存在を知られる事も、グレーツクで起きてしまった事実も。
それだけに、ヒカリの魔法は、実に嬉しい限りだ。
今掛けてもらっている幻惑の魔法は、術者の想像によって、その形が決められる。
つまり、俺を知っている者にしか、俺への変身はできない。
それも、『掛け続けられるだけの』魔力を持った者に限られる。
ヒカリがいて、本当によかった。
「あ・・・開けるよ?」
生唾を、ゴクリと飲む音が聞こえてくる。
これからは、気を張っていかないといけない。
今の気分はまさに、『ミッション・イン・○ッシブル』だ。
『気づかれてはいけない』というところが、特に似ている。
逆に言うと、それ以外は特に、似ていない。
別にメッセージが爆発する事はないし、誰もスパイなどしないし。
こういうのはあくまで、『気分』の問題なのだ。
「お兄ちゃん、私、頑張るからね!?」
「僭越ながら私も、出来うる限りはお支えいたします。」
覇気は十分の、少女二人。
気分はすっかりイーサン・○ントのカイトは、屋敷の取っ手に手を掛ける。
背中を、冷たい汗がじっとりと濡らす。
そのドキドキの(?)シチュエーションからは、あの音楽が聞こえてきそうな気配すらする。
自然、彼の動きはスローモーションとなっていった・・・
落ちる寸前のつり橋を、ダンス踊りながら渡る。
それがカイトなのかもしれません・・・・




