第202話・過去の出来事
昨日は用事があり、更新が出来ませんでした。
これからも、こう行った事は間々、あると思われます。
更新を完全に忘れているわけではないので、どうか、お待ち下さい。
三年前、カイトの伴侶となった当時、この国の王女だったアリア。
そのアリアは、心に大きな傷を抱えている。
当時彼女が、一番慕っていた『姉』と称される従姉の存在。
その女性に、アリアは裏切られ、そして殺されかけた。
その女性が、ルルアムだ。
彼女はアリアを利用して、国を乗っ取ろうと考えていた。
その過程でアリアが邪魔になり、消そうとする。
そして、カイトから思わぬ攻撃に遭遇する。
この一件で彼女が受けた報いは、かなり大きなものであった事に間違いは無かった。
彼女は王女暗殺未遂の罪で捕縛され、そして貴族の身分を剥奪され、身分は『奴隷』へと成り下がった。
その上、怒ったカイトに心を壊され、『心のトゲ』をすべて抜かれてしまった。
かくしてルルアムは、ほぼ『別人』になった。
これにて『事件』は、すべてが終わったように見える。
しかし被害者のアリアの怒りと悲しみは深く、そして根強い。
それはアリアが、『収納』されていたルルアムの姿を見たときに分かった。
ここまで大事になってしまったルルアムに対し、彼女は当時、情状酌量などはせず、ただ連行されていくルルアムの姿を見送った。
その後の裁判にも、出廷はしたものの、事件に関する発言は、実に少ないものだった。
極力、関わりたくなかったのかもしれない。
カイトに対しあんなに優しくて、よく発言をする彼女。
彼女の中に渦巻く『感情』は、未だ癒えていないのだろう・・・・
「カイト殿様、つまり一体、何を仰りたいのですか?」
ルルアムの決意を聞かされて後、『アリアの感情』の説明を行ったカイト。
前置きが、長すぎる。
業を煮やしたダリアさんが、話の『根幹』を聞いてきた。
「つまりさ、現状ではアリアの前に、ルルアムを出すのは危険じゃないかって事。」
「・・・が、頑張りますわ! 決してアリア・・・様に正体を気づかれないように・・・!!」
ルルアムの意気込みに、かぶりを振るカイト。
俺が言っているのは、そういうことではない。
アリアは、勘が鋭い。
たぶん中身が変わっていれば、一言だけ言葉を交わしただけでも、見抜いてしまう事だろう。
それも中身は、長い期間、慕い続けていた者。
彼女が、気付かない訳が無い。
そんな再会は、どうしても避けなければならない。
きっと、話がこじれてしまうから。
いつかこの二人は、頃合を見計らって引き会わせるつもりである。
だが今は、その時ではない。
「なるほど、カイト殿様の事情は飲み込みました。 ですがそれですと、外見がルルアムさんになっているカイト様がお会いするのは、さらに良くないのでは?」
「そこなんだよな~~!!」
再び頭を抱えるカイト。
『ルルアムに、アリアを会わせるわけには行かない。』
ならば、入れ替わってルルアムになってしまっているカイトが会うなど、言語道断であった。
きっと、さらに話がこじれる。
分かってはいる。
分かってはいるが、ルルアム本人にそのリスクは、背負わせたくなかった。
これは、元をたどればカイトのせいでもあるので。
しかし何やら『急用』があるようで、明日までに『俺は』ベアルへ帰らねばならないようだ。
それまでに、この状況をどうにかしなくてはならない。
どうにかして、この事態を乗り切らねばならなかったが、最良の手段は、まったくと言っていいほど見当たらない。
まさに、八方塞がりの状態だった。
本当に困った。
せめて見た目だけでも『変身』ができれば・・・・
『変身』?
そういえば昔、この国の大帝に呼び出されたとき、ヒカリをアリアに見せるように・・・
したよな?
そうだよ、アレを使えれば・・・!!
「ダリアさん、『幻惑の魔法』か何かで、俺とルルアムの見た目を変えられないかな!? これなら丸く収まる!!」
入れ替わったままなのは、仕方が無い。
放っておけば一ヵ月後には治るのに、命がけのリスクは背負えない。
俺だけならまだしも、この一件にはルルアムという第三者も絡んでいるので。
ならばその期間、誰にもそのことを悟られなければ良い。
今の俺は、仏像に掛けられた術のせいで、いつものように魔法は使えない。
だがドラゴンのダリアさんは、魔力も非常に高い。
カイトと同じことができるような気は、十分にした。
期待に満ち満ちて、瞳を輝かせるカイト。
だがダリアさんは、そんな彼をしっかりとした眼差しで見据え、右手の人差し指を立てた。
「一ヶ月間・・・ですか?」
「・・・・・。」
そうだ、うっかりしていた。
そもそも『魔法』には、有効期限がある。
期限が切れてしまえば、当然掛けていた魔法は、解けてしまう。
それを防ぐには、その都度、魔法を掛け続けなければならない。
それも、いつ解けてしまうか分からないので四六時中、隣に控えていなければならない。
メイドとしての仕事があるダリアさんに、それは不可能に近いモノがあった。
こちらの都合で四六時中、彼女を縛り付ける事はできないのだ。
仮に強引にそれを行使すれば、逆に屋敷の人間に怪しまれてしまう事だろう。
そこから何かが、ばれてしまう事は、十分にありえた。
それでは、本末転倒である。
話がまた、フリダシに戻ってしまった。
顔をうつむかせるカイト。
ルルアムも、何も言ってこなくなった。
「ねえ、お兄ちゃん。 私に手伝える事ってある?」
困惑した表情を浮かべながら、ルルアムの体の手(つまり俺の手)を引っ張るヒカリ。
そう言ってくれるのは、非常に嬉しかった。
だが、こればっかりは他の手段を考えるほかは無い。
「ありがとうヒカリ。 そう言ってくれるだけで、だいぶ気持ちが軽くなったよ。」
そう言って、彼女の頭をなでるカイト。
いつもはこれで満足げにするにだが、今日はどこか、不満げな様子だ。
やはり体が違うと、感触などが違うのだろうか?
「お兄ちゃん、前に私に掛けた魔法があったでしょ? アレを教えて! 私が一ヶ月間、お兄ちゃんに掛け続ける!!」
「なに!?」
ヒカリの決意に、驚きの声を上げるカイト。
ダリアさんやルルアムもこの切り返しは予想外だったのか、大きく目を見開いている。
言葉のニュアンスから、ヒカリが『幻惑の魔法』のことを言っていることは、この場の全員が理解した。
その彼女の提案は、かなり現実的なものであるといえた。
もともとヒカリは、文字通り四六時中、カイトの元にいるので、傍にいても誰かに怪しまれる心配はない。
しかも彼女は魔族なので、内包する魔力は、かなり高い。
『幻惑魔法』を一日中掛けるのは、教えさえすれば、出来るようになるであろう事は、容易に想像が付いた。
まったく思いも付かなかった、突破口である。
「ありがとうヒカリ。 悪いけど一ヶ月間、頼まれてくれるかい??」
「お兄ちゃんの役に立てるなら、わたしも嬉しいよ。」
そう言ってくれると、俺も嬉しい。
ヒカリの笑顔は、まさに天使の微笑みだ。
こうなれば、後はヒカリに魔法を教えてくれる人物の人選だけだが・・・
これはもう、目星はついている。
今度は魔法の講師の方へ、顔を向けるカイト。
「ダリアさん、俺は感覚だけで魔法をやってたから教えられない。 ヒカリに『幻惑魔法』を教えてもらえない!?」
「かしこまりました」
恭しくルルアムなカイトに一礼をするダリアさん。
カイトと違い、ダリアさんは『魔法詠唱』など、知識が豊富なので、誰かに魔法を教える事ができる。
まさに、適材適所だ!!
これで、どうにかなる!
たかが一ヶ月。
これさえ切り抜ければいいのだ!!
心の中でガッツポーズをとるカイト。
だが・・・・・・
一連の緊急事態に、カイトはすっかり『そもそもなぜ、仏像は術を掛けてきたのか』と言う事を完全に忘れてしまっていた。
このままでは、祟りのピンチである。
『自業自得』
現在のカイトはこの言葉を、地でいきそうな勢いがあった。
なんだかトントン拍子。
って、そんな事が続いた試しはありませんね。
カイト達はこの先、どうなるのでしょうか?




