第190話・胸騒ぎ
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「カイト様、お電話の際に困惑してしまうような事を言ってしまい、申しわけございません。」
「気にしなくていいよ、おれが勝手に勘違いしただけなんだから。」
隣を歩くルルアムが、俺に頭を下げてくる。
ドワーフのおっさんから、衝撃カミングアウト・・・
『合同業者の振り分けは決まった』と聞かされたカイト。
彼女が俺に謝っているのは、その事である。
朝方の彼女からの魔導電話による話に、カイトはちょっとだけ勘違いした。
ここではドワーフのおっさん達と、『合同採掘業者』の割り振りを、話し合うと踏んだ。
それが、カイトが到着したときには、とっくに終わってしまっていた。
『込み入った話になるだろう』と踏んだ彼は、出発前にアリアに断りを入れる。
そしてバカなので、危うく別件で、自爆しかけた。
まったくもって平常運転の、アホである。
だが。
カイトの予定していた『込み入った話』は、既に終了していたのだ。
これによりカイトがこの地でするべき事の半分以上は、始まる前に終了。
今からするのは、残りの半分。
そう、グレーツクに建設する『貨物鉄道』のルート検討である。
この地に『合同採掘業者』と言う、いわば鉄鉱石を掘る会社を作るにあたり、その採掘した鉄鉱石の、一括した輸送が必要となった。
だが当然、それを馬車でやれば、非効率的で時間が掛かってしまう。
馬車の運転をする人間も、多く必要だ。
そんな事をしている余裕は、無い。
そこで白羽の矢が立ったのが、『鉄道』である。
カイトたちはここに、鉄鉱石運搬用の、貨物鉄道を建設する事とした。
今回の調査は、その建設に当たり、どこへ鉄道を敷いたら一番良いか、などを調べる事が目的。
その為に、俺の横には鉄道研究所ただ一人の職員、ルルアムの姿がある。
研究所前に集まっていた他のおっさん達は、分け前などの話し合いなどを行うとかで、付いて来てはいない。
これはおれが干渉すべきではなかったので、彼らに一任したのだ。
その点ルルアムは、この辺りの地理を頭に叩き込んだ上に、おっさん達からも信頼されているらしく、今回、彼らから一任されたと言うわけらしい。
「私のような者が、このような重要な事を任されてしまっていいのか、不安なのですが・・・」
「ルルちゃんなら、大丈夫さ。 俺は信頼しているよ?」
表情を暗くさせるルルアムに、カイトは自分の意思を伝えた。
前の傲慢な彼女は、もういない。
ルルアムは真面目で、謙虚で、他人の痛みを知った、優しい女性だ。
気難し屋の、ドワーフのおっさん達から、今回のように重要な事を任される辺りに、それが良く現れている。
彼女は、十分に信頼に値する人間である。
それと同時に。
本当、収納の魔法って怖い。
カイトは、使用用途を間違えた魔法に、身震いした。
「お兄ちゃん、震えてるの? 大丈夫??」
「あ・・・ああ、大丈夫さ。 心配かけて悪いな。」
もちろん、傍らにはヒカリがいる。
どうしても俺達の『調査』に付いて来るというので、連れている。
ルルアムとの話中、大きなあくびをしてしまうのは、ご愛嬌だ。
ルルアムも、そんな彼女のしぐさに笑みを向けてくれるので、気兼ねせずにこちらとしても、助かる。
今は俺やヒカリに対して、物怖じしてこなくなったのも、特筆すべき点。
そうこうしている内に、目的の場所へ着いたようで、ルルアムが足を止める。
「カイト様、ここは特に鉄鉱石が多く算出する辺りでございます。」
「ここが・・・」
着いたのは、グレーツクの町外れにある、荒れ果てた採掘現場跡。
どうやら大地震の際に、掘っていた者が死んでしまい、それ以来ほぼ、ほったらかしだったらしい。
『故人』であっても『他人の地』には誰も踏み込めず、今は誰もこのポイントで、採掘は行っていないようだ。
彼らは金にがめついが、そういうところは律儀というか・・・職人気質というか。
つくづく、いい人たちなんだな、と思う。
でも今回、彼女が俺をここへ案内すると言う事は、再び採掘を始めるということ。
ここは彼女曰く、とても鉄鉱石が多くほれるらしい。
それはつまり、『収入』にも、大きな差が出るといっても、過言ではないのでは無かろうか??
だとすると・・・もめはしなかったのだろうか?
俺のいない場所で。
そんな俺の不安を感じ取ったようで、ルルアムがくすりと微笑みを浮かべ、俺に説明を始めた。
「ご安心下さい、カイト様。 この地は等分する事で、昨晩、決着がつきました。 いさかいなどは起こっておりませんよ?」
「そうか! なら良かった!!」
等分とは、仲良く分配すると言う事。
それができたと言う事を聞いて、すごく安心する自分があった。
このことが原因で、街の住民に亀裂でも走ったら、本末転倒だからな。
なにより、おっさん達には、喧嘩はしてほしくない。
カイトはふっと、肩が軽くなったような気がした。
「じゃあここは真ん中を通して、そこから枝分かれに、それぞれの業者への引込み線を作ろうか? その方が使い勝手もよくなるでしょう?」
「ありがとうございます。」
カイトは周辺に口をあけた坑道のトンネルの一つ一つを、指差していった。
それに呼応して、礼を言って、きれいなお辞儀をするルルアム。
そんな中、一際古そうな、トンネルを見つけるカイト。
「ルルアム、あのトンネルは、特に古そうだね?」
「え? ああ、あれは・・・」
カイトの指差すトンネルに、説明を始めるルルアム。
あのトンネルは百年以上前の地震で中が崩落して以来、掘ろうとするたびに事故が起こるとかで、誰も寄り付かなくなったものらしい。
では塞ごうとしても、不吉な事が起こるので、放ったらかしになったようだ。
ようするに、今回の『鉄道建設』には、なんら関係は無い。
だが少し、気になる・・・
「お兄ちゃん、ここ、怖いよ・・・早く違うところに行こう?」
「ヒカリ?」
ヒカリが泣きそうな目で、俺に懇願してくる。
彼女の体は小刻みに震えており、俺の背後に隠れてしまう。
・・・まるで、あのトンネル内にいるなにかに恐怖するように。
彼女がこんな態度をとるのは、非常に珍しい。
ヒカリは今まで、何かに恐怖するなど、した事はないのだ。
彼女を恐怖させる原因と言うものが、気になる。
何が、彼女を恐怖させるのか。
勘って言うか・・このまま放って置いては、イケナイ気がするのだ。
・・・・気のせいかもしれないが。
「ルルアム、ちょっと気になるから俺、入ってみようと思うんだけど。 ここで待っていてもらえるかい??」
「ええ!?? トンデモございません! カイト様が入られるというならば、責任者として私も、同行いたします!!」
カイトのヒカリをルルアムに預けようという考えは、すぐに潰えた。
当たり前である。
グレーツクの国王である彼。
自分が一番、慕っている者が危険そうな場所へ、一人で行くと聞いて『行ってらっしゃいませ』などというヤツが、どこに居ると言うのか。
カイトもなんとなくは、こうなる事は予想していたようで、ヒカリにここで待っているように指示すると、ルルアムと共に、トンネルの中へと入って行った。
ヒカリは、さらに悲しそうな表情をするも、コレを止める事はしなかった。
何よりヒカリは、カイトの考えを優先する。
彼女はカイトたちを見送ると、岩陰にその身を潜めた。
そしてカイトとルルアムは、崩落しかけた古いトンネルをひた進む。
中に居るかもしれない、『なにか』の調査のために・・・・
何も起きないと良いのですが・・・
何か起こると、これから先の展開がまた、遠くなるので。




