第189話・用事へ
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「じゃあアリア、行ってきます。 ノゾミにもよろしく伝えておいて。」
「いってらっしゃいませ。」
それだけ言うとカイト様は、ヒカリと、メイド兼護衛のダリアを引き連れ、青白い光に包まれたかと思うと、その姿を消していきます。
コレは、カイト様の十八番、転移の魔法です。
初めて見たときは驚きのあまり、声も出せませんでしたが三年の間に、私も見慣れました。
彼はどこへ向かうにも、この魔法で移動されます。
・・・特に今回のように、長距離の移動の際は。
カイト様は、グレーツクへ向かわれました。
どうやらかの地の国王様に、相談を持ちかけられたようです。
『相談があるので、聞いてほしい。』と言われたようす。
カイト様は国王様と、『トモダチ』らしいのです。
前に私は、口を滑らせたカイト様に、そう教えられました。
ですが私の目はごまかされません。
カイト様はきっと、グレーツクの大臣などに値するような、要職に就かれています。
ええ、彼の口から直接は語られていませんが、きっと。
彼のする話には、穴がたくさんあります。
今回の件もそう。
いくら『トモダチ』とはいえ、国王が他国の領主に『相談』をするなど、ありえません。
一国の王からの『相談』
それは国家機密なども含まれ、相談するにはアブない橋だからです。
この事だけを考えても、カイト様がグレーツクにて要職に就かれているのは、一目瞭然であると言えるでしょう。
もしかしたら、私の深読みのし過ぎかもしれませんが・・・
私が付いて行くのを諦めたのも、このためです。
上記の事もあり、彼は誰にも口外しないよう、国王様に口止めされていると考えられます。
妻である私にも決して彼が話そうとしないのも、うなづける話です。
さすがはカイト様。
どうしてそうなったのかは理解しかねますが、きっと、現状はコレで合っているでしょう。
私にですら言えない、隠し事が彼にあるのはさびしいですが、同時に誇らしくもあります。
私の彼への敬愛は、深まるばかり。
「奥様、本日届きました書類をお部屋の方へ運び終えました。」
「ありがとうございます。 私もすぐに、向かいますわ。」
屋敷の護衛の者の報告に、私は私室へ向かう事にします。
カイト様がああして、お出掛けになる代わりに私に街の要望書などの多くの書類が回ってくるようになっています。
それを私たちが審査し、対処します。
最後にカイト様には、サインだけをして頂いているような状況。
三年も続いて、それが当たり前のようになっていますが、カイト様には私たちの苦労も分かって頂きたいですね。
・・・もっとも、先ほどのグレーツクの件も含めると、彼はお忙しい事が予想されるので、無理があるでしょうか?
◇◇◇
カイトが転移でグレーツクの研究所の前に降り立つと、既に研究所の前には多くの者達が、集まっていた。
400人そこそこであろうか?
この街に住むほぼすべての男衆が、集まってきている。
皆ここで、鉄鉱石を掘る者たちだ。
彼らには朝に電話口で、今日ここに来る事は伝えてあった。
これから彼らとは、『鉄鉱石の合同採掘業者』に関する話をするのだ。
「おはようございます、みなさん。 遅くなって申し訳ございません。」
片手を挙げて、集まっている人たちに挨拶をするカイト。
この声に、彼が来た事に気がついたおっさん達も、一様に挨拶を返す。
今日はここで彼らと話し合い、誰と誰がどのように手を組んで、緊急時にどう助け合うかなどを決める。
込み入った話になりそうなので、そこそこ時間が掛かるかもしれない。
今日はきっと、ここへ泊まる事になるであろう。
だから出発前に、アリアに断りを入れたのだ。
さて、ヒカリとダリアさんなのだが・・・
「ダリアさん、ちょっと長話になるかもしれないから、夜まで好きにしてて良いよ?」
「好きに・・・・・本当によろしいのですか?」
俺の言葉に、少し驚いた素振りを見せたダリアさんは、一考すると、口角を吊り上げて黒い笑みを見せた。
むむ・・・またもや彼女から、世紀末な香りが・・・・・
また俺は、ヤバイ事を言ってしまったようだ。
このままではどこかの街が、地図から消えてしまう!!
・・・文字通りの意味で。
彼女なら、きっとする。
早急に訂正をしなければ、『ごめん』では済まなくなる。
「いやいやダリアさん! 破壊とか蹂躙とかはナシの方向で・・・!!」
「!??」
カイトの言葉に、露骨に表情を暗くさせるダリアさん。
背後には、『がーーん。』という言葉が浮かんでみえる、
そこまで落ち込む事かい?
三年で性格が丸くなったと思っていたが、より過激になってはいまいか?
カイトの心中に、一抹の不安がよぎる。
とはいえ彼女の趣味は、コレだけではないので、心配は要らないが。
カイトは彼女の気をそらすように、話を切り出す。
「それよりもダリアさん、先日の荒天で船が何隻か傷ついたようなんだ。 今は、そこの港に係留されているんだけど・・・」
「なんですと!? わが芸術に傷!!??? カイト殿様、私用事ができました。 行って構いませんね?」
「・・・・おう。」
鬼気迫る彼女の表情に、思わずたじろいでしまうカイト。
それだけ聞くと彼女は、メイド姿のまま自動車のように速いスピードで、港のほうへと走っていってしまった。
彼女から振りまかれていた殺気は、先ほどよりもスゴイ気がした。
『行ってきて構いませんか?』ではなく、『行って構いませんね?』という言葉に、彼女のお怒りが顕著に現れている。
ボルタで二年以上前に船を一隻作って以来、彼女は『船』と呼ばれる芸術作品作りが趣味に加わった。
商会からの注文が入るなり、すぐに作り始める。
この時、大きさ以外の注文を彼女にすると、不機嫌になるので、してはいけない。
いつも作るとき彼女は、かなり張り切っているご様子。
おかげでボルタ=グレーツク航路の船は頑丈で、荒天でも沈まないと、かなり商会などに好評のようだ。
・・・・ひとつ難点を挙げれば、その『芸術作品』に傷一つでも付こうものなら、今のようにものすごい咆哮を上げ、激昂する事ぐらいか?
一度ある商会が、完成した船を使い勝手の良い様に改造し、ダリアさんを怒らせた事がある。
ちなみに今、その商会は、ウチの領にはいない。
怒ったダリアさんに、かなりの恐怖を覚えたようだ。
かといって別に、ダリアさんは彼らに、何か危害を加えたと言うわけではない。
その辺り彼女は、節度を守ってくれてはいるが、いつ何時街が壊されはしまいかと、不安に駆られる事がある。
まあ、彼女のあの様子ならば、今回は船を直すぐらいで止まる事だろう。
心配しても、神経が磨り減るだけだ。
今はそれよりも、『話し合い』だ。
「そうそう、ヒカリはどうする? 夕方までしたい事があれば、行って来てもいいよ?」
もちろん、常識の範囲内でだけど。
さすがに山を消すとかはダメ。
・・ヒカリに限ってそれは無いか。
カイトがそんな事を考えていると、ヒカリはゆっくりと頭を、横に振った。
「大人しくしているから、お兄ちゃんの隣にいちゃダメ?」
「とんでもない!! ヒカリの好きなようにして、良いんだよ?」
俺に不安げな表情を向けてきたヒカリは一転、まぶしい笑顔を向けてくる。
自然、俺の右手につながれた彼女の手に、力がこもった。 ちょっと痛い。
この子はこう、どうして可愛いしぐさが取れるのだろうか?
深く考えると、まるで俺が『ロリコン』のように思われてしまうので、この辺で止める。
何事も、引き際が肝心だ。
「すいません皆さん、遅くなりました。 では早速、『合同の採掘』についての話し合いを・・・」
カイトがここまで発したところで、おっさん達はビミョーな表情を作る。
俺は何か、へんなことでも言っただろうか?
「あ~~小僧よ、もうその話は、昨日のうちに終わっちまったんだ。 俺達が集まったのは、『鉄道のルート』を話し合うためなんだが・・・聞いてなかったのか?」
「え?」
一人におっさんの報告に、呆然とするカイト。
どうやら呼ばれる段階で、何らかの語弊のようなものがあったようである・・・
上手くいくといいですね。
カイトは不幸なので、どうなる事やら。




