第188話・またまたグレーツクへ。
これからも、頑張っていきます。
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バルア計画が暗礁に乗り上げて、まだ一日。
カイトの昨日の、お通夜みたいな顔はどこへやら。
彼は実に、ハレバレとした表情を浮かべていた。
今にもスキップを始めてしまいかねないような、浮かれ具合だ。
この一連の行動で、妙に彼がバカっぽく見える。
いや、実際そうである事は確かなのだが・・・
その彼から発せられた言葉に、アリアは驚きを隠しきれなかった。
「へ? またグレーツクへ出向かれるのですか?? 先日お出かけになられたばかりではありませんか!?」
「いやさ、ちょっと相談に乗ってほしい事があるとかで、呼ばれちゃったんだよ。 危険はないし、ダリアさんも連れて行くから、安心して?」
カイトの『ちょっとグレーツクに行って来るねー』と言う,まるで、近所の居酒屋へ行くような言い方に、思わず『行ってらっしゃいませ』と、流してしまいかけたアリア。
が、そんな軽い話では、どう考えてもなさそうなので、せめて理由だけでも聞こうと、カイトの進行を食い止めた次第だ。
というより、そもそもグレーツクは、外国である。
彼はそんな場所へ、いったい何をしに行くと言うのか??
そして彼から返ってきたのが、『相談に乗ってと言われた』と言う返事である。
『誰にですか?』
と聞きかけたが、ヤメタ。
前に彼からは、グレーツクの国王と、懇意にしている旨の話は聞き及んでいる。
相談したというのは、その者に違いない。
かなり突っ込みどころ満載だったが、アリアは知らぬ振りをする事に決めたのだ。
彼が、真実を語ってくれる、その日まで。
「そうですか・・・カイト様は、お顔が広いですわね。」
「・・・・・・・・ウン。 込みいった話になりそうだから、明日は帰れそうに無いんだ。」
今回、彼がグレーツクへ赴く事になった理由は二つ。
一つは、発足させる事が決まった、鉄鉱石の合同採掘業者についての話し合い。
これは元々、前に赴いたときに話した事なので、さほど時間は掛からない見通しだ。
する事と言えば、誰と誰が手を組むか、どう作業を分担させるか、位では無かろうか??
そしてもう一つが、(カイトにとっては)メイン。
それは、グレーツクの鉱山内に、鉄道を敷くことである。
今後の合同業者の採掘などの事も考えて、今までのように少量ずつ削っては、港で売ると言うような非効率的な方式では、割に合わなくなってしまうだろう。
もっと多くの鉄鉱石を、一度に港まで運ぶ手段がほしかった。
そこで白羽の矢が立ったのが、『鉄道』だ。
これを坑道近くまで走らせ、その貨車に掘った鉄鉱石を次々に、載せていくのだ。
いわば貨物鉄道である。
その打診に関する魔導電話が、つい先ほど、グレーツクの研究所から、かかってきたのである。
聞いた時は、狂喜乱舞しかけた。
その建設に関する調査のために、赴くのだ。
思い立ったら行動するのが、カイトの信条である。
アリアには、以上のすべてが、秘密だが。
彼女も彼の詮索をする気は無いようで、感心しきりといった感じだ。
しかしカイトはここで知らぬ間に、墓穴を掘っていた。
「ではちょうど良い機会ですわ。 私も連れて行ってくださいませ。 その国王様と、一度お目通り願いたいですわ。」
「!?」
アリアから発せられた言葉に、目をむくカイト。
彼女は、カイトの言うグレーツク国王に、未だ会ったことが無かった。
その者は曰く、忙しくてなかなか会える時間が取れないらしい。
つまり、今回はチャンスだ。
話をするというのであれば、きっと自分にも会う時間ぐらいは、あるはず。
妻として、一度くらいは挨拶をしたいと言うのが、アリアの考えだ。
一方、カイトは冷や汗ダラダラだ。
その国王とは、彼女のまさに目の前に居る、自分のことなのだから。
『懇意にしている』とかいうレベルの話ではない。
つまり、アリアに来られては、非常に困る。
今回の件は、ルルアム絡みなので特に。
「いやいやいや! アイツって人見知りでさ、知らない人を見つけると、物陰に隠れて出て来なくなっちゃうんだ!!」
「はい!!???」
カイトの衝撃発言に、一瞬だけ意識が飛んでしまうほど、驚くアリア。
国王という存在は、何も内政だけやっていれば良いわけではない。
『交易』であれ『戦争』であれ、つまりは外交にも目を向けねば、国は成り立たないのだ。
それを疎かにすれば、その国は数年と経たず、破綻してしまう事だろう。
つまりカイトの言う、『極度の人見知り』ではとても、務まらないのだ。
その辺り、カイトは何も考えていなかった。
何も考えずに、テキトーなその場しのぎの言葉を、言い放ってきたのだ。
まあ、今さらそれを突っ込んでも、しようが無いが。
「そ、そう・・なのですか? まあ、それならばご公務に差し支えては問題ですので、今回は自重いたしますが・・・・」
「うん、その方がいいよ! 今度アポはとっておくからさ!!」
動揺のあまり、『アポイントメーション』の略語を使ってしまうカイト。
当然アリアには、何の事かは分からない。
だが、言葉のニュアンス的に、『会える様に話す』というカイトの意図は汲み取ったようで、彼に一礼を返すアリア。
彼女はカイトと違い、この辺りの洞察力が非常に高い。
この彼女の理解力の高さが、ベアル領がなぜか上手くいっている、所以である。
比べてカイトは『領主』のくせに、いつも何をしているのやら。
彼女のカイトへの疑惑は深まるばかりだが、突っ込んでも彼はお茶を濁すので、疑問は胸の中にしまう事にする。
自分が付いて行けないとなれば、アリアにできる事は一つだけ。
「ヒカリ、カイト様を頼みましたわよ? 何かあったら、話してくださいね?」
「うん、分かったー。」
傍らに居るヒカリの返事に、肩をすくめるカイト。
彼女はいわゆる『秘密』は、守り通してくれるのだが、いかんせんにも口が軽め。
アリアのその辺りを理解しているので、彼女へ『カイトの監視』を頼んでいるのだ。
ようは、ヘンな事をしなければいいのだ。
そうすれば、ヒカリの印象にも残らない。
そうすれば、流れる情報もない。
カイトは大丈夫であろう、と判断した。
これでアリアも満足したのか、数歩、後ろに下がり、見送ってくれる。
とにもかくにも、グレーツクへ向かう準備は整った。
早く向かって、現地調査をしよう!
そして、鉄鉱石運搬用の貨物鉄道を作るのだ!!
・・・・・不安は多いが。
きっと、大丈夫さ。
カイトの考え、未だ穴ぼこだらけです。
その内、轟沈しなければ良いですが・・・・




