第187話・座礁しました
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「カイト様、この計画なのですが・・・どういたしますか?」
「とりあえず・・・保留にして? 今は考えられないや。」
「・・・・かしこまりましたわ。」
それだけ言って、部屋を退室していくアリア。
それを見送った途端に、机に顔をうずめるカイト。
彼が肩を落としているのは、一目瞭然だった。
彼が気落ちするのには、理由がある。
アリアが言っていた『この計画』
これは、バルアの観光リゾート化計画の事である。
バルアは元、この国有数の交易の要所となる、港湾都市だった。
しかし、カイトがボルタを開港した事により、街は衰退の一途をたどる形となった。
このままでは、街から人がいなくなってしまう!!
この事態にカイトは、バルアの遠浅の美しい海を、売り込もうと考えた。
いわば異世界の『ハワイ』である。
カイト自身いい考えだと思ったし、アリアにも好感触だった。
だがこの計画には、ある前提条件があった。
それは、『鉄道』を敷くことである。
この世界ではそもそも、旅は娯楽ではない。
魔物に襲われる事だってあるし、盗賊に身包みをはがされてしまう事だって、ザラにある。
旅は、たとえ短い距離でも、命がけなのだ。
それを娯楽化・・・つまりリゾートとなるバルアに、人々に来てもらうには、旅を安全で、快適なモノにしなければならない。
その切り札が、鉄道である。
鉄道ができれば、必然的に、旅は快適なものとなる。
馬車で一ヶ月も揺られて、襲撃に毎日、怯えるよりはずっと。
そうなれば、旅得を楽しむ人も徐々に、増えるはずだ。
その前提で、カイト達はこの計画を、推し進めていた。
だがここで、大きな問題が立ちはだかった。
ベアル=バルア間の計画で、推し進めていた『第二の鉄道計画』なのだが、そのルート上に立ちはだかるビルバス山脈の斜面が、いささか急すぎるのである。
可能な範囲で山肌を削れば、幾分かは勾配も緩やかにはなるが、それでもカイトたちが作った機関車では、とてもそれを登ることはできそうに無かったのだ。
この調査結果に、カイトは落胆を隠せなかった。
ちなみに調査に出向いたのは、カイトとダリアさんである。
この世界随一の、頭脳系をのぞく、あらゆる分野での最強コンビであった。
少なくとも、不備だけはなさそうだ。
「『良い事もあれば、悪い事もある』なんて言ったもんだよ、せっかくグレーツクの合同採掘の見通しが立ったって言うのにさ・・・」
カイトは頬杖を付きながら、愚痴った。
先日、ルルアムたっての要望で、グレーツクの労働問題を考えたカイト。
これにカイトは、『会社』のようなものを考えた。
何人かで共同で鉄鉱石を掘ってもらって、その収益を分け合うという方式だ。
最初こそ渋られたものの、カイトの長い説明に、やっと、グレーツクの住民達も、納得してくれたようだった。
その最後の説得が、昨日やっと、終わったのである。
その上での、アリアへのこの、残念な報告。
「バルアは、停滞か・・・・」
あからさまに気落ちする、カイト。
ちなみに最近、ボルタまでの鉄道の路線上に、中間駅が開業した。
駅名は、ブレン商会からとって、『ブレン』駅。
あの辺りに地名が存在しなかったので、こういう形をとった。
これも『良い事』の範疇であるが、カイトは落ち込みすぎて、そんな小さなことは忘れていた。
落ち込むカイトの部屋の扉を、ノックする音が聞こえた。
顔を上げ、中へ入るよう促すカイト。
「失礼します、カイト殿様、お呼びになりましたか?」
「やあ、来てくれてありがとう、ダリアさん。」
部屋に入ってきたのは、赤目赤髪の、メイド服姿の少女。
先日も鉄道の敷設探査に付き合ってくれた、ダリアさんだ。
彼女の正体は、大きな翼を持った赤い、地竜だ。
翼があるのに飛べない事は、本人が一番気にしている事なので、言ってはいけない。
この二年ですっかり立ち振る舞いなどが、すっかり他のメイドさん同様、洗練されたものとなっている。
彼女も、毎日楽しいようなので、突っ込むつもりは無い。
俺への呼び方は、変わってないけどね。
「カイト殿様、もしや用件というのは、魔石がらみの事でしょうか?」
「お、よく分かったね? そうそう、また補充をしたほうが良さそうで・・・」
「私も忙しいので、帰っていいですか?」
カイトの話が終わる前に、部屋を出て行こうとするダリアさん。
彼女は、魔導機関車の燃料の、製作補助要員だった。
この世界では、魔石はかなり高価だ。
ダリアさんはドラゴンなだけあって、その魔力は莫大である。
魔石ガラに魔力を充填するには、ちょうどいい存在だった。
そのおかげで彼女は先日、起き上がる事すらできないほど疲弊し、文字通り死にそうな目にあった。
もうあんな目には、当然、遭いたくなど無い。
「イヤです、やるならカイト殿様お一人でなさって下さい!!」
「今回はちょっとだけ、前回の8割でいいから!!」
悪徳商法みたいな方法で、ダリアさんを引き止めに掛かるカイト。
問題は、これもであった。
機関車を動かす燃料が、全然足りないのだ。
今はダリアさんと二人でどうにか不足分を補っているが、いつまでもそういうわけには行かない。
緊急で、どうにかしなければならない案件である。
「ダリアさ~~~ん。」
「は・・・離してくださいカイト殿様! うぉぉ~~~~!!!」
命がけで、カイトから離れようとするダリアさん。
早急に逃げなければ、今度こそは文字通り、死んでしまう!!
しかし彼女の怪力をもってしても、カイトからは離れる事はできなかった・・・・
ドラゴンさんの受難は続く。
その他の皆さんの受難も、続く・・・




