第186話・新駅の工事
これからも、頑張っていきます。
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コーンコーンと、森に木槌をたたく音が響き渡る。
この森には、ベアルとボルタを結ぶ鉄道が走っており、時折、走り抜けていく列車の音が聞こえてくる。
またこの近くには、列車の交換設備があり、行き違う列車がここで、停車をする。
木槌の音が聞こえてくるのも、その辺りからであった。
「みんな仕事が早いね! びっくりだよ。」
「これは大公様、ようこそおいで下さいました。」
使用人数人を引き連れて転移でやってきたカイトは、周りを見渡しながら、賛辞の言葉を述べる。
出迎えてくれたのは、ブレン商会のアルさんだ。
彼はこの工事の、商会側から派遣された、いわば監督官である。
つい数日前、カイトはこの商人さんからの申し出により、ここに『駅』を設ける事にした。
周りが森で、ここで木を切り出して、ベアルまで運びたいとの事。
材料費から、従業員の皆様の給料も負担してくれると言うので、カイトはこれを快く了承した。
今はその工事の、真っ最中と言うわけだ。
ちなみに働いているのは、元ドレイだった約30人の皆様方。
彼らもカイトの存在に気付いたようで、手を止めて挨拶をしてくる。
晴れて『奴隷』から解放された彼らは、正式に『鉄道建設団』となったのである。
ちなみにこの組合は、カイトが独断で勝手に作って、名称も決めたものだ。
給料は、暫定的に、カイトのポケットマネーから出している。
いつまでもこのような事をしているわけには行かないので、早急に、何らかの手は打たねばなるまい。
今回のこの工事は、その先駆けのようなものでもある。
俺の庇護下ではなく、彼らには独立をしてもらいたかった。
その対応策についても今後、考えねばならないだろう。
「大公様、今回の工事の設計などを含めまして、大変お手を煩わせてしまいました。 この場を借りて、お詫び申し上げます。」
「よして下さい、こちらこそ、彼らの給料の件、ありがとうございました。」
二人はお互い、お礼を言い合った。
材木を貨車などに載せるにあたり、レールを敷いただけでは、これが崩れたときなどに、レールが傷ついてしまう恐れがある。
これを防ぐため、カイトはレールの周りに、木の板を敷くように提案した。
イメージとしては、路面電車のように。
また材木を頭上まで上げやすいように、カイトは三角形の簡易クレーンも、作るように建設団の者たちに、頼んでいた。
テコの原理で、大きな材木を短時間で、貨車に載せられるようにするのが、その目的。
前に修学旅行で行った、長崎の出島に展示されていたものを連想して、そのまま使わせてもらった。
こういう時だけ、カイトはさえている。
「ところでカイト様、彼らの休憩所を、開設いたしましょうか?」
「え?」
ふと疑問を口にしたアルさんは、カイトの背後を指差す。
そこに居たのは、グレーツクからずっと一緒の、使用人さん達だ。
ただし、いつもの元気な姿はどこへやら。
彼らは木陰で、ぐったりしている。
彼らは昨日、あれからまた、行方不明になったカイトを街中探し回った。
やっとの事で見つけたと思えばまた、どこかへ行ってしまう彼の探索に、かなり体力と神経を消耗してしまったのだった。
それに加え、今日はカイトが朝から『ベアルに帰る』などと言うのだ。
今の彼らには文字通り、何も残っていなかった。
「あっちゃ~~~・・・」
彼らの死屍累々(ししるいるい)のごとく様相に、額に手を当てるカイト。
なにが、『あっちゃ~~』であるか。
こうなる前に、もう少し彼らに、気を配るべきである。
人として。
カイトのこの態度に、アルさんも苦笑を漏らしながら、建設団の女性の一人に、休憩所の準備を頼む。
「いやアルさん、大丈夫です。 今日はこの辺で帰りますから。 昨日は屋敷に帰らなかったので。」
「おや、そうですか? それは残念です。 またいつでも、お越し下さい。」
アルさんの言葉に、手をヒラヒラさせて応じるカイト。
そのまま彼は、木陰で倒れている使用人さん達をヒョイッと片手で担ぐと、そのまま転移の魔法で消えていった。
「いやはや・・・やはり大公様は、トンデモないお方だ。」
彼がやってのけた、一連の行動には、アルさんも苦笑をもらすほか無かった・・・・
◇◇◇
使用人さん達を、肩に担いだ状態でベアルの屋敷に帰ったバカイトは、玄関をくぐるなり、アリアに出迎えられた。
・・・・とびっきりの笑顔で。
「!?」
「お帰りなさいませ、カイト様。 おつとめ、大変ご苦労様でございました。」
そう言って、きれいなお辞儀をしてくるアリア。
使用人さん達をゆっくりと床におろしたカイトは、冷や汗を流しながら、アリアの挨拶に返事を返した。
「た、ただいまアリア。 ・・・何かいいことでもあった?」
質問しつつ、『あるわけねーだろ』と、自分に突っ込みを入れるカイト。
これは、ひと時の自己防衛行為なのだ。
アリアのこの笑顔は、明らかに何かに怒っていらっしゃるサインなのだから。
アリアに怒られる心当たりは、星の数ほどある。
そんな彼の不安を払拭するためか、アリアは優しげな表情を作り、更なる笑顔を作る。
それが逆に、カイトの目には恐ろしく映った。
「ええ、良い事というか・・・・少々申し上げたい事が。 でも別に私は、カイト様が昨日帰ってこなかった事も、使用人の者たちをここまで疲弊させた事も、怒りなどいたしませんわ。」
「・・・・・。」
『良い事があったか?』の返事が、コレである。
彼女をここまでさせるなんて、何をしたのかと、自問をするカイト。
その上、アリアの優しい口調が実に怖い。
不安で顔を真っ青にさせる彼の肩に、彼女の生暖かい手が置かれる。
恐怖で、カイトはもう、呼吸すら間々ならない状況だ。
「カイト様、先日に商会の者が来た件なのですが・・・勝手に作る事を、認められましたね?」
「ああ、あれね・・・・・」
あさっての方向を向いてカイトは、お茶を濁した。
今しがた行ってきた、ブレン商会の話である事は、すぐに分かった。
そしてなぜ、アリアが怒っているのかも。
「・・・アリア、あれは俺が決めたから、一切の事は、すべて俺が引き受けるよ。」
アリアが怒っている理由は分かったので、避雷をする事にした。
かなりイケメン(風)顔で。
これで、大丈夫のはず・・・
そのはずなのだが、アリアの笑顔がより一層、まぶしくなったような・・・・
気のせいだろうか?
「結構ですわ、カイト様。 ではその結果、どうなったかをじっくりとお話しませんか? お疲れでしょうから、お部屋のほうで。」
「・・・・・ハイ。」
避雷した結果、カイトは地雷を踏んだようだ。
ヒカリを背中からおろして、彼はアリアと共に、私室へと向かっていった。
・・・その後。
その部屋のほうから謝罪を繰り返す男の声と、
激昂する女性の声が屋敷中に響き渡った・・・・
◇◇◇
今日は、幸せな日だ。
今日は、大公様が工事現場に来てくれた。
工事の進み具合の、視察に訪れたらしい。
私は、敷設されたレールに、釘を打つ仕事をしていた。
何日もやっている関係で、私の手は、血マメだらけだ。
これでは、彼に近づけない!!
でも、大公様は、監督をしている商人さんと話しながらも時折、私のほうも見てくれた。
笑顔で。
彼が幸せなら、私も何倍でも、頑張れるというものだ。
だから私は、頑張る。
いつか、大公様に一目置いてもらえる存在となるため・・・・
一人の少女の、熱い思い。
どん底から救い出された彼女の、白馬に乗った王子が現れたという幻想。
もと奴隷少女のフォウの熱い眼差しに、カイトは気が付いていなかった・・・・
この少女は今後、どうなるのでしょうか・・・?