第184話・改革してください
これからも、頑張っていきます。
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今カイトは、グレーツクにある『鉄道研究所』に、機関車の追加発注のために来ている。
思いがけず既に、2台の機関車が出来ている状態で、残り1台もそう長くは掛からないとの報告を受けたカイト。
今回ここへ来た用件はこれだけなので、転移でベアルへ帰る事にする。
その折、カイトを呼び止める女性の声があった。
「どうしたの、ルルアム?」
展開していた転移魔法を中断し、声のしたほうへ頭を向けるカイト。
呼び止めたのは、研究所唯一の正規職員、ルルアムだ。
「あの、私のような者がこのような事を申して良いものか、分からないのですが・・・」
「ルルちゃんは今や、グレーツクの一市民だよ? グレーツクは出来る範囲で、『民主制』をとっているんだ。 言いたい事があるなら、遠慮なく言って?」
この国に、『民主主義』なんて言葉は無いだろうけど。
カイトは自分が政治が出来ない分、住民からの多くの意見などを総合し、これを反映させるという事をグレーツクでしている。
ざっくり言えば、スイスのような直接民主制を取っていた。
不平不満が少なくて、より合理性を求めた結果、こうなったのだ。
ドワーフさん達の評判は、とても良い。
カイトが政治を面倒くさがったのが、功を成したと言える。
「は、はい! あの、カイト様に、お頼み申し上げたい事があるのです!! 一緒に付いて来ては、頂けないでしょうか!?」
「お願い?? 珍しいね。」
汗をブワッと出しながら、大きく体を前方に傾けるルルアム。
カイトも彼女のこの発言には、驚きを隠せなかった。
ルルアムはいつでもどこか、カイトには及び腰で、自分からは何も『希望』などを言ってこない。
これは、これからのいいきっかけになりそうだ。
もちろん、聞かないなんて選択肢は無い。
別に時間ぐらいはあるので、少しぐらい彼女に付き合っても良いだろう。
使用人さんたちには、ちょっとここで、休んでもらおうかな?(魔法で)
彼女と居るところを見られると、何かとモンダイなので。
笑顔で「もちろん。」と返すカイト。
ルルアムもカイトのこの態度に、ガチガチに固まっていた顔の筋肉が、わずかにほころぶのが見て取れた。
そうすると彼女は、視線をカイトからドワーフのおっさん達のほうへと向けた。
「おじ様方、カイト様と少し外出をしてきても、よろしいでしょうか?」
「おうよ、誰もお前さん方のデートの邪魔なんか、しやしねーよ。」
俺達の方へ、手で『早く行って来い』と伝えてくるおっさん達。
その言葉に、お辞儀で返すルルアム。
サラッと流されかけたけど、このおっさん達、今しがた何か、へんなことを言わなかったか??
「え、『デート』って何のこと?」
キョトンとした表情を浮かべるカイトに、ニヤケた顔を返してくるおっさん達。
沸騰したお湯のように、急激に顔を真っ赤にさせるルルアム。
幸いカイトの顔は、おっさん達のほうへ向いていたので、ルルアムの表情は彼には見えていない。
「か、カイト様! お時間をあまりとらせたくはありません! 早く参りましょう!!」
「え? う、うん・・・・」
ルルアムに右手をつかまれ、そこそこ速いスピードで、研究所を後にする二人。
彼女に引っ張られているような感覚で、彼女の顔などは見えない。
この急な事態に、研究所の外で待たせていた、屋敷の使用人さんたちはただ、呆然とするほか無かった。
彼らがカイトを追おうとしたのは、土煙で何も見えなくなった後であった・・・
◇◇◇
「スピーーーーー。」
俺の背中には、すっかり存在を忘れていたヒカリ。(熟睡中)
隣には、ここまで俺を引っ張ってきたルルアム。
彼女の身でさすがにあの距離の疾走(しかも俺を牽引して)は、かなり堪えた様で、彼女の息が、かなり切れているのが分かる。
何でそこまで急いだのかは分からないけど、無理は禁物だよ?
彼女にはとりあえず、俺の回復魔法をかけてやる。
これで彼女の疲れは、取れたハズだ。
その事に気が付いたようで、彼女が礼を言ってくる。
そんな事は良い。
それよりも彼女が、俺を連れてきた場所は・・・・
「ルルアム、ここはグレーツクの、治療院か?」
「はい、ここでは幾人もの方々が、治療を受けております。」
やはりそうか。
外見は他の建物と大差ないため、今まで分からなかったが、中へ入ってみると、多くのベットの上に幾人かのおっさんが、横になっている。
彼らは、体に包帯を巻いていた。
鉄鉱石の採掘中などに、事故などで怪我をしたのだろう。
つまり彼女が、ここへ連れてきたのは・・・
「俺の魔法で、こいつらを治せって事? それ位なら別に構わないけど・・・・」
カイトは、ルルアムにそう、質問をした。
それ位なら、そう人数も多くは無いので、すぐに終わる。
だが彼女は、彼のこの言葉を否定するように、かぶりを振った。
「カイト様、この街だけではありません。 ここの皆様方は、お一人で鉄鉱石の採掘を行っているようなのです。」
「そうらしいね。」
それは前に、ドワーフのガロフさんに聞いた。
それぞれで持ち場を決め、彼らは鉄鉱石を掘っているらしい。
つまりは、縄張りである。
その中では、本人と子孫以外の者は、掘ってはいけない事になっているのだ。
これは、この大陸全体の暗黙の了解となっている。
そういう方法もあるだろうと、今までは流してきた。
なぜそれを彼女は、わざわざ話してきたのか。
「あの、私の浅はかな考えで、カイト様にこのような事を進言するのは・・・」
「いやもう、はっきり言って?」
彼女が何をしてほしいのか。
言ってくれなければ分からない。
カイトは萎縮して顔をうつむかせるルルアムに、話の続きを促す。
すると彼女は意を決したように、こんな事を言ってきた。
「カイト様、ここに居る皆様は、怪我をすれば収入が途絶えてしまうらしいのです。 それは、明日を生きるのすら、大変な事にもなりかねないようなのです。 あの・・・・どうにかならないでしょうか?」
「また、問題か~~~・・・・」
ルルアムの嘆願に、カイトは頭を抱えた。
ルルアムの初の『希望』だ、これはどうにかしたい。
だが、どう解決したものか・・・
今日は、ベアルに帰れないかもしれないな。
次なる話が、遠いです。
なぜか。




