第182話・途中駅の打診
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「僕に用事って何ですか?」
先日、アリアからもらった『バルアリゾート計画』の書類に目を通していたカイト。
そんな彼を訪ねてくる者が居た。
街の、材木を扱う商会の、使いの人らしい。
「はじめまして、大公様。 私はブレン商会の番頭をさせていただいております、『アルライド・ワシーガ』と申します。 本日はお忙しい中の突然の来訪、謹んでお詫び申し上げます。」
そう言って、俺に頭を下げてくるアルという名前らしい、商人さん。
人と会うという事で俺も、部屋を移動して、彼とは屋敷の客間で話していた。
何かと忙しいようで、俺の隣にいつも控えているはずの、アリアの姿は無い。
アポ無しの突然の来訪だったので、そういった対処が、間に合わなかったのだ。
(ちなみに『堅苦しい』と、それを導入したのは、カイト自身である。)
難しい事でないといいが・・・
ちなみにこういった人が訪ねて来たときには、ヒカリにも席をはずしてもらっている。
つまりこの部屋には、俺とアルさん以外、誰も居ないのだ。
「謝らなくていいよ。 で、用事って何?」
いつもの調子を崩さないカイトは、単刀直入にそう質問をする。
これに、ゴホンと一つ咳払いをする。
かなり、かしこまった話らしい。
思わず身構えるカイト。
「大公様、本日はある要望があり、参ったのでございます。」
「お願い? 言っておくけど闇取引の話とかなら、俺は聞かないよ?」
商人さんの『お願い』という切り出しに、強い態度をとるカイト。
大公になってこの街が大きく成ってからというもの。
カイトの元には、自らの利益を上げるため、大公である彼と手を組み、街の産業を独占しようなどと考える者などが、頻繁に訪れていた。
奴らは、とてもしつこい。
はっきり断っても、何度も訪れるのだ。
結局、彼らは何度目かで諦め、この街を去っていく者が多い。
こういう奴らにカイトは、怒りの感情がわいていた。
他の街では、こういった事が横行しているのだろうか??
カイトの言葉に、しばし呆然とするアルさん。
すると彼は、懐から一枚の、紙を出した。
それを、「失礼します。」と言って、目の前のテーブルの上に広げるアルさん。
「これは・・・・。」
あごに手を当て、頭に大きな『?』マークを浮かべるカイト。
その広げられたモノを前に、彼は先ほどまでの『不信感』は消し飛んでいた。
テーブルの上に広げられたのは、ベアル領の地図。
前に鉄道を作る際に作った地図を、そのまま彼は市販したのである。
元々彼の魔法で作られたそれは、川やちょっとした丘陵など、地形が詳細に記されていた。
この世界において、何気に初の、市販された立派な地図であった。
この世界では、戦争が頻発している。
もし敵方に自分たちの住む土地の地図が渡ってしまうと、それは脅威となる。
戦争において地形などは、勝つか負けるかの、重要なキモとなるのだ。
『テツの亡者』のカイトはこの辺りが、分かっていなかった。
相談もせず、このことがアリアにバレた途端に、彼が彼女に説教を受けたのも、そのせいである。
ちなみにカイトは、まだ理解していない。
「この辺りの地図ですね? これがどうにかしましたか?」
「ここなのですが・・・」
カイトの質問に、地図の一点を指差すアルさん。
それは、ベアル=ボルタ間にある二つの信号所の一つであった。
ここでは、単線を行く列車の、行き違いが出来るようにレールが二本、敷かれている。
二人の人が常駐しており、列車に旗で指示を出してもらっている。
列車はその合図で、発車をするのだ。
技術的に信号機の設置が難しかったので、応急措置だ。
つまり、ここは『鉄道業務用の』施設に他ならない。
なぜこの商人さんは、そんな場所を指差すのだろうか?
「ここは、鉄道の行き違い設備以外、何もありませんよ? もちろんこの先、ここへ街を作る計画は無いので、商店などを出しても・・・」
「いえ、違うのです。」
ははあ~~~。
ここに街ができるとか勘違いして、早手回しに商店を出したいと言いに来たんだな?
と思ったカイトは、その気は無いと商人さんに説明した。
しかし商人さんは、これにかぶりを振った。
分かっちゃいたが、ハズレである。
カイトの勘は今まで、当たったためしがないのでは無かろうか?
偶然を除いて。
「我々はここに、材木積み下ろし施設を作りたいと考えているのです。」
「材木の積み下ろし施設??」
にこやかに、笑顔を振りまく商人さんに、カイトは怪訝な表情を浮かべた。
いったい彼は、何が目的なのだろうか?
そんな彼に畳み掛けるように、説明を始める商人さん。
「我々は先ほども申したとおり、材木を扱う商会です。 木の切り出しから販売まで、一手に引き受けております。」
ここまでの商人さんの説明に、無言でうなづくカイト。
彼には、覚えがある。
二年と少し前、ベアル近郊の森で、木を切り出したいと言ってくる商会があったのを。
たくさんある、事業許可証の発行手続きの中で一際、異彩を放っていたので、よく覚えている。
カイトはこの申し出に、『植林をするなら』と言う条件付で、これを受諾した。
この辺りは、彼らはきちんと、守ってくれているようだ。
まあ、守らなかったらこの街から、出て行ってもらうだけだけど。
「現状では、切り出した材木は、馬車でベアルまで運んでから加工をして、また出荷されます。 ですがこれでは、馬車の輸送量が少なく、かなりの手間なのです。」
「そうなんだ?」
「そこで我々も、『鉄道』を使わせていただきたいのです。 ここにある、この行き違い設備付近に、材木の積み込み設備を作る許可をいただきたいのです。 もちろん、整備費用は商会のほうで、負担させていただきます。」
商人のここまでの説明に、目を丸くするカイト。
これはつまり、『駅を作ってほしい』と言う申し出に他ならない。
今の交換設備のまま、材木の積み込みなんかされては堪ったものではないが、ちゃんと整備はするようだ。
それも、俺に頼むのではなく、自腹で。
彼がこの商人の申し出を、はねつける理由は無かった。
「もちろんです、ちゃんとそういった施設を作っていただけるなら、一向に構いませんよ?」
一転、笑顔を向けるカイト。
この彼の態度に、「ありがとうございます。」と、一礼してくる商人さん。
そこからは、安堵の表情が見て取れる。
彼も、嬉しいようだ。
鉄道の夢は、どんどん膨れるな。
ところで一つ、俺は彼に聞きたいことがある。
「ところでアルさんは、なぜその為にわざわざここまで? 鉄道は『駅馬車組合』の管轄ですよ?」
「申し訳ありません、大公様。 実は最初にそこへ赴いて、『まずは大公様にご許可を』と言われてしまいまして・・・」
「・・・そっか。」
つまはじきにされていないのが嬉しい反面、『そんな事まで俺に持ってくるなよ!!』と心の中で叫ぶ、カイトであった・・・
こうしてカイト達の仕事は、いつも多くなるのである。
駆け足気味で、ごめんなさい。