第180話・フラグの予感?
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「じゃあアリア、俺は研究所に用事があるから、先に帰っててね。」
「分かりましたわ。 あまり遅くならないよう、お願い申し上げておきます。」
無事、奴隷たちの解放が終了したカイトは、『機関車用の魔石の調達を、シェラリータに打診してくれ』とアリアに頼んだ。
この先アリアに居られると、非常にマズイので、仕事を作り出してアリアに、先に屋敷へ帰ってもらう事にしたのである。
大事な事に間違いは無いので、あながちウソの要請でもないわけだし。
アリアの姿が見えなくなると、すぐにカイトも研究所のほうへと、足を向けた。
自然、足早になる。
これから向かうのは、『29人目』の奴隷の下。
俺が王都で買ったのは、男女など合わせて29人。
さきほどアリアと共に解放したのは、28人。
この事はアリアには気づかれていないようで、実に助かった。
弁明が非常に難しい件なので。
そしてその、『29人目』とはもちろん・・・・・
「こんにちは、ルルちゃん居る??」
ノックも無しに研究所に入るなり、目当ての人物を探し始めるカイト。
彼の行為は、かなりの無礼に値する行為だったが、最近このような事が常態化してしまっていた事により、彼をとがめるものは一人も居ない。
この辺り、所謂、慣れであった。
「こ、これはカイト様! お疲れ様でございます!!」
「そっちこそ、お疲れ様。」
今はちょうど、休憩の時間中のようで、ドワーフのおっさん達はお茶をたしなんでいた。
給仕はルルアムがやっていたようで、目の前に居た。
作業中とかじゃなくて、良かった。
「よう小僧、来るなりこの女の名前を呼ぶとは、スミに置けねえヤツだな。 二股かける気か??」
「やだなー。 そんな事をしたらアリアに、八つ裂きにされちゃいますよ。」
ドワーフのおっさんの冗談に、冗談交じりに(実際そうなりそうだけど)回答するカイト。
このおっさん達は、相変わらずだ。
傍で聞いていたルルアムも、微笑みを浮かべている。
彼女と結婚など、ありえない話だ。
そもそもアリアと俺が結婚したのは、ルルアムが彼女を殺害しようとした事に起因する。
アリアは彼女を許せないだろうし、見たくも無いだろう。
数ヶ月前の俺も、必死で忘れようとしていた。
だが彼女は、傷心の優しい女性に成り代わってしまっていた。
これは、俺が原因だ。
俺がやった事のせいで彼女は、精神が崩壊し、その後『身分剥奪』という厳しい立場におかれ、現在に至る。
彼女はその事を俺に、感謝してきたが、そういう問題ではない。
こうして再会できたのも、何かの縁だ。
道を踏み外してしまった者だって、救われるべきだと俺は思う。
だから俺は、彼女が『幸せ』をその手につかむまで、サポートをして行こうと思っている。
今回は、その先駆けだ。
「ルルアム、今日を以って、君の身分を『市民』にする。」
「え、それはどう言う・・・・」
ルルアムがここまで言葉を発したところで、カイトは懐から出した彼女の『隷属契約書』を、彼女の目の前で引き裂いた。
それと共に、彼女の首や手足につけられたままになっている枷も、音を立てて壊れ、床に落ちていく。
今やそれらは、ただのゴミへと成り変わった。
こうなることを予想していたようで、ドワーフのおっさん達は、黙ってその光景を見つめる。
驚いたのは、ルルアム本人だ。
「か・・カイト様!? この契約書と枷は、私が奴隷であるために必要不可欠なモノだったのですよ!? それを・・・・・!!!」
カイトに『奴隷』の説明をしながら、必死に粉々になった契約書や枷の残骸を拾い集めるルルアム。
その彼女の手を、カイトがつかんで、それを止めさせた。
首を横に振るカイトに、顔を上げて視線合わせるルルアム。
「君が奴隷である必要なんて無いんだよ。 そんな人の自由を束縛するようなモノ、この領地に必要ない。」
「し、しかし・・・・!!」
沈痛な面持ちで、今にも泣き出してしまいそうなルルアムに、カイトはここぞとばかりに、ある報告をする。
「実は先日、この研究所を、グレーツクに移設することが決まったんだ。 もう建物も建っているから、今すぐにも引越しできるよ!?」
「まて小僧! そんな話、聞いて無えぞ!!?」
カイトの突然の話に、驚愕する研究所の皆様方。
そもそも彼らは、グレーツクに家族が居る。
それをこっちの勝手で、ベアルに何ヶ月も張り付けにしてしまったのだ。
あくまで彼らが『交換留学生』であるという立場上、帰さねばならない。
でもそのままで帰しては、あまりにももったいないので、グレーツクに諸々、すべて移設しようと言うわけだ。
以上のように鉄道関連事項だと、カイトは非常に頭の回転が速かった。
このカイトの説明に、彼らドワーフ達も納得してくれたようだった。
そして肝心のルルアムだが・・・・
「ルルアム、そんな訳でこのベアルの研究所は、閉鎖になる。 研究所は、グレーツクで存続される事になるんだ。」
「では・・・私もその地へ行けと?」
ルルアムの疑問の言葉に、即座にかぶりを振るカイト。
この彼の反応に、コテンと、首をかしげるルルアム。
「命令じゃない。 ルルアムはもう、奴隷ではなくて一市民だ。 どうして生きて行きたいかは、自分で決めていいんだ。 それに俺の許可なんて、必要ないだろう?」
この言葉に、衝撃を受けるルルアム。
自分が身分剥奪をされてしまったのは、己の醜い心のせいだと思っている。
そのせいで奴隷になり、虐げられるのも、仕方の無いことだと。
生きているだけ、犯した罪を償えると、そう思っていた。
その罪は、未来永劫死ぬまで、許されることは無いと思っていた。
しかし今、自分は『奴隷』から解放され、生き方を指し示してもらった。
それも、三年前に『過ち』を自分に気付かせてくれた、男性に。
罪はまだ、許されていないであろう。
でも・・・・
「あ、ありがとうございます!! これからも、カイト様のためにグレーツクの地で頑張ります!!」
「・・・いや、俺の為じゃなくて良いんだけど・・・・」
目一杯、彼に感謝を述べた。
自分に、こんなことを言う資格は無いだろう。
でもアリアは、幸せ者だと思った。
こんな優しい方の、傍に居られるのだから・・・・
◇◇◇
「あなた達を、解放します!!」
大公様が言われた言葉は、私の頭に響く。
私は、生まれてからずっと、奴隷だった。
ある屋敷では、馬車車のように働かされた。
ある屋敷では、その屋敷の主人に、犯された。
ナンバーフォウ。
その時の主人に呼ばれていた番号が、私の名前代わり。
今回王都で買われた時も、そうされるに違いないと思っていた。
だが実際は、主人であるこの街の大公様は、私たちにとても優しく接してくれた。
疲れれば休ませてくれた。
空腹であれば、温かい食事を与えてくれた。
彼は、奴隷の私に、『普通の暮らし』と言うものを教えてくれた。
そして彼は、私を含め、みんなを本当の意味で、解放してくれた。
嬉しさと共に、何か分からない気持ちが、私の中から湧き上がってきた。
この胸の内に広がる、気持ちはなんだろう?
温かいのに、焼け焦げてしまいそうなモノはなんだろう??
私にはまだ、それが何なのかが、分からなかった・・・・・・
後の展開の、布石打ちの回でした。
布石が解放されるのは、しばらく先ですが。