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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第9章 次のステージへ・・・
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第179話・奴隷解放

『魔王様は出稼ぎに行っておられます!」

近日公開のメドが立ちました。

もう少し探査のうえで、公開しようと考えています。


なおそれにより、当作品の更新が、少々遅くなる見通しです。

更新は続きますので、よろしくお願いいたします。

「カイト様、昨日は残念でございましたわ。」


「いや、なんとなく予想はしていたよ? あれだけの人が居たんじゃ、しょうがないさ。」


昨日、この街には、世界初の鉄道が開通した。

カイトがこの世界に鉄道がないと知って以来、実に三年越しの念願が、叶ったと言える。

開通したのは、ベアルからボルタのたかが50キロ。

だが、それはカイトにとっても、その他の者にとっても、大きな一歩であった。


昨日のその開通式で、挨拶をして、無事、一番列車の運行はうまく行った。

その後に行ったボルタ側からの一番列車でも同様のことを行い、それも差し支えはなかった。


だがその後、物珍しさで沿線の道に人間が殺到。

ついには、踏切を始め、沿線のレール上に、人間があふれてしまう。

結果、列車は一番列車を除きほとんどが、開業初日に運休となってしまった。


アリアがカイトに言ったのは、まさにこの事である。


カイトは元、日本の鉄道ファン。

開業初日などがスゴイ事になるなど、予想ができていた。

今日になっても、街が人間であふれ返っている。

未だ街に入ろうとする人間が、城門の外にズラッと並んでいるのが、この屋敷からでも見える。

これはさすがに、想定外だ。


「今日になっても、街は大盛況だね。 みんな鉄道目当てなのかな?」


嬉しそうにするカイトに、疑問の表情を浮かべるアリア。

俺は何か、間違ったことを言ったのだろうか??

俺がそれを問おうとすると、アリアは直立したまま、かぶりを振った。


「そうでございますね、カイト様。 私も昨日は『鉄道』を見て、いたく感銘かんめいを受けましたわ。 あれがカイト様がかねてよりおっしゃっていたモノだったのですね?」


「そうか、アリアも嬉しいか。 うんうん、よかった、良かった。」


嬉しそうに顔の筋肉をほころばせ、頭を上下に振るカイト。

これに彼に気が付かれないようにしながら、ホッと安堵あんどのため息をつくアリア。

(驚きですが・・・カイト様ですものね。 計画がうまくいって、何よりですわ。)

実は昨日含め、この街にここまで、人間が集まったのは、『鉄道』よりもこの街にある、『大聖堂』のおかげであった。


まもなく、この街にカイト様のご念願だった、『鉄道』ができる。

なるべく多くの者に、これを見てもらいたいと願ったアリア。

でも現状では、たぶん人間は集まってくれない。

よく知らないモノのために、旅費を払ってわざわざ足労してくれる者など、この世界には貴族以外に滅多に居ないのだから。

そう考えたアリアは、大聖堂に居るイリスさんに相談に行った。

『教会側でも、近々何かしてはもらえないか』と。


そこでしばし考え込んだイリスさんは、しばらくの間、大聖堂の最上階を公開してくれる事にしてくれた。

ここは普段、聖職関係者以外、開放していない『聖域』ともされる場所である。

そこを一般市民に公開するなど、世界中を見ても前例のない、前代未聞ぜんだいみもんな事であった。

たかだか『鉄道開業式』ごときが、かなりの大事になっていたのである。

当然、一生に一度あるかないかのこの事態に、ベアルの街には多くの信教者が訪れた。

そしたら何か知らんが、大きな黒いモノが大きな音を立て、動いていたというわけ。

興味がかれないわけがない。

アリアもイリスさんも、この結果に満足していた。


当然カイトは、そんな事は知る由もない。


「アリア、今日の相談の内容は分かるね?」


一転、真剣な表情でアリアの顔を見据えるカイト。

アリアはそれにため息を一つつくと、たたずまいを正して口を開く。


「ええ、分かっておりますわ。 ですが今ここで、それをなさっては・・・」


「分かっているさ。 後で、『宿舎』に来てもらえるかい?」


「かしこまりましたわ。 カイト様も、誰にも気付かれぬ様、お気を付けてお越しくださいませ。」


カイトの言葉に一通りの理解を示したアリアは、部屋を退室していった。

部屋に残されたカイトは、座った体勢のまま、机の引き出しから三十枚程度の、紙の束を出した。

その紙には、『隷属契約書』と書かれていた。



◇◇◇



「大公様よ、来てくれた事を感謝すべきなんだろうが、教えてくれ。 俺たちは次は、どんな事をさせられるんだ?」


カイトが向かったのは、『奴隷用の宿舎』

先ほどのように、隣にはアリアが居る。

立場上、普通はカイト達はここに居るべきではない。

だが今回の件は、直接彼らに関係することなので、こうした形をとったのだ。


「あんたを信用していない訳じゃないが、俺たちは『奴隷』であることに変わりは無え。 俺たちをどうしようが、あんたの自由なんだよ。」


目の前に居るのは、28人の不安げな表情を浮かべた、奴隷たち。

彼らは、『物体』扱いである。

人間でも、まして生物扱いすらされないことも多い。

仕事が一段楽してしまった彼らが、不安を感じるのも無理は無かった。

売られる、などと言った可能性すら、あるので。


「ええ、今日はそのことで来たんです。 アリア、良いね?」


カイトの言葉に、一度、深くうなづくアリア。

するとカイトはおもむろに、ふところから先ほどの契約書を出した。

もちろん、奴隷の者たちはそれの存在を知っており、その顔をしかめる。

カイトは彼らを一瞥いちべつすると、おもむろにその、書類の束を真っ二つに引き裂いた。

いつも通りの、笑顔で。


「た・・大公よ! ソイツは俺たちの・・・・!!!」


奴隷たちは、カイトの行動に、驚きを隠しきれなかった。

さっきも説明したとおり、これは彼らの、言わば『縛り』である。

これを破られるということは、つまり彼らは、『奴隷』では無くなると言う事。

だが事は、それで済むほど簡単なものではない。


「大公様! 奴隷で無くなったら私たちは、これからどうして、生きていけば良いのですか!?」


突然の事態に理解が追いつかなかった元奴隷たちの中で、一人の女性が声をあげた。

彼らにとって、これは死活問題である。

『奴隷』となって今まで、彼らは強制労働の代わりに、『生きる場所』を手に入れていた。

それは、束の間のいつ、終わりが来るかも分からない、幻。

しかし突然、それは終わりを告げた。

『自分たちの隷属契約書』を破られることで。


驚き、わめく元、奴隷たち。

ここまでは、カイト達の予想通り。

ここからは、カイトの不得手ふえて分野なので、アリアにお任せだ。

この領地の外交は、主にアリアの管轄かんかつなのだ。


「皆様、これであなた方は『奴隷』ではなくなりました。 ここにおいて私たちは、あなた様方を解放いたしますわ。」


「嬢ちゃんよ、分かってねえな! 俺たちにはコレがある。 奴隷解放なんかされた日にゃ、俺たちは死ぬしかないんだ!!」


彼らの首には、かせがはめられたままだ。

これは、『奴隷』の証でもある。

はめられたが最後、かけられた魔術は一生解くことはできないと言われる

つまり、かせは、一生はめられたままになってしまうなのだ。

フツウならば。

元奴隷たちのこの言葉に呼応するように、彼らの首にはめられていたかせは、いとも簡単にボロリと真っ二つになって床へと落ちていった。


フツウの魔導師と違いカイトは、規格外な存在だ。

魔導師数十人が数年がかりで行う魔法を、彼はものの数秒で行えるほどの力。

三十人のかせなど、造作も無く破壊が可能だった。

これで、彼らの懸念は去った。


「!!?」


驚きと共に、歓喜かんきの声を上げる彼ら。

その表情は、今迄いままでで一番明るい。

しかし懸念が払拭されたわけではない。

これが、アリアが最後まで、カイトに奴隷解放を反対していた理由だ。

だがそれも・・・・


「皆様はもう、自由の身です。 ここでしばらく暮らすことは許可いたしますわ。 でももし、よろしければ、これからも『鉄道建設工事』に力をお貸しいただければ、助かるのですが・・・・」


「ここは、その工員たちの宿舎にしようと思うんだ。」


アリアの言葉に畳み掛けるように、カイトがそう言い放った。

これで多分、彼らの懸念はすべて無くなる。

『奴隷』ということ以外、今までどおり。


問題はまだあるが、何とか成るだろう。


彼らも、この言葉に歓喜の声が一層、大きくなった。

彼らの身の安全などは、これで保障されたも同然だ。

そんな彼らを前に、顔を見合わせ、微笑ほほえみを浮かべあう、カイトとアリア。



至らないことはまだ、多いかもしれない。

出来ないことだって、まだたくさんある。

でも、出来る『人間的』な事は、して行きたかった。

鉄道も出来たことだし。

迷走は、これから(?)です。

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