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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第8章 カイトの願望
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第178話・出発進行!!

最終回みたいな途中話です。

やっと、カイトの念願がかないます。


なんだか平穏が続きましたが・・・

いつまでも続くと良いですね。

たぶん。

キュオーーーーーーンンン!

ポンポンポン!!!


日が出てから、幾時間も経たないベアルの街。

この日は少し、上空には雲があって快晴とまでは言えないものの、いい日和ひよりであることに間違いは無かった。


今日は、待ちに待った、この世界初の鉄道の開業日である。

特にこの街の領主であるスズキ公様の喜びようは、昨日から尋常ではなかった。

彼は、昨日からそれはもう、はしゃぎ通しなのである。


今、街に上がった花火も、彼が屋敷のバルコニーから、魔法で打ち上げたものだった。

未だ、宿の中で寝息を立てていた旅人たちは、この爆発音に、ほとんどの者が目を覚ましたことだろう。

迷惑な話である。


「カイト様、ここに居られたのですか!? 随分ずいぶんお探ししていたのですよ!??」


「ああ、おはようアリア。 良く眠れたかい??」


背後からのアリアの言葉に、バルコニーから外を眺めていたカイトは、声のした入り口のほうへと、視線を向けた。

いつもよりも、装飾が多く付いた赤いドレスを身にまとうアリア。

これを見ると、彼女が高貴な身分の奥様に見える。

・・・いや、実際そうなのだが。


「『おはよう』ではございません!! 今日は大事な日なのでしょう!!?? あなた様も早く、支度を済ませてくださいませ!!」


「支度ならしたよ? ホラ。」


そう言って、バンザイの体勢をとるカイト。

朝起きてすぐに、寝巻きから白い貴族の服へ着替えたのだ。

もちろん、いつも通り一人で。

イヤだってさ、誰かに服を着せてもらうって、こっずかしいじゃん?

だがアリアは、不満そうな表情を向けてくる。


「はあ・・・カイト様、寝癖が付いたままですよ? このまま出向かれるおつもりなのですか??」


「・・・・・。」


そこまで気を配ってなかった。

いつもなら、それでも良いが、今日は特別な日なので、人も多い。

さすがに寝癖つきの領主様は無いだろう。


「ヒカリも、お着替えなさい。 今日は特別な日なのですから。」


「うん、分かった。 魔石も、しまわなくちゃダメなんだよね?」


ずっと俺の隣にいたヒカリにも、着替えの要請をするアリア。

カイトも浮き足立っていたが、アリアもかなり、内心今日と言う日を、心待ちにしていた。

彼女がいつにも増して気合が入っているのも、そのためである。

『今日は、大切な日だ。 失敗は許されない』と。

カイトの気持ちを、よく分かっているアリアであった。


だが、その意気込みも、大群衆を前に、早くも打ち砕かれそうになった・・・・



「うわああ~~~~~!!!  人がいっぱい!! これ皆、鉄道目当てなの!?」


「で・・ですから、馬車で向かおうと・・ムググ・・・・・」


屋敷から出立したカイト達一行は、出発早々に、街にごった返していた大群衆に、もみくちゃにされていた。

今にも、全員がバラバラに離散してしまいそうである。

すでに付いてきていた、数人のメイドと護衛さんが、行方不明となっている。

ある意味、危険な状況と言えた。

この大群衆を前に、すでに彼らは、疲労困憊ひろうこんぱいである。


「うおおっっと!!???」


群衆に、押し出されそうになるカイト。

しかし押し出される前に、彼の体は誰かによって抱き止められた。

お礼を言おうと、カイトが振り返ると・・・


いつも通りメイドの、ダリアさんがいた。

だがその表情は、いつになく冷たく、険しい。

視線だけで、百人ぐらい殺せそうである。


「カイト殿様、こやつらは邪魔な障害でしかない存在です。 いっそ、消し飛ばしてしまいませんか??」


「ヤメテ。 本当にシャレにならないからやめて。」


世紀末な香りがする言葉を、平気で吐く、至って平常運転な彼女。

俺が制止しなければ、彼女は本当にやりかねない。

今ここで、『世紀末ごっこ』(連邦で実施済み)をすれば、街は鉄道どころではなくなる。

ここは、一生懸命、彼女を説得し、矛を収めてもらった。


「カイト! いつもの転移って、使えなかったの!?」


「無理。」


ノゾミの疑問を間髪いれずに、バッサリ切り落とすカイト。

もちろん、それは屋敷を出る前に考えた。

だがこう、人が多いところで転移の魔法などを使えば、大惨事になりかねなかった。

特に、転移先のピンポイントにいる人間とかが。

だからこうして、徒歩で屋敷から駅へ、向かっているのである。


昨日は十分ちょいで着いたのに・・・

駅、遠すぎ・・・


カイトはそれだけ思うと、群衆の波にアリアたちも同様、呑まれていった・・・


◇◇◇



「これは、これは。 お待ちしておりました、大公様。 ・・・大丈夫でございますか?」


「ええ、まあ・・・・・・」


群衆の波に吞まれ、モミクチャにされてしまったカイト達一行は、やっとの事でベアルの駅の、貴賓室に到着した。

出迎えてくれたのは、駅馬車ギルドから来た、駅員さんである。

カイトの意向で、彼らの服装は、彼が日本でよく見た鉄道マンの服装に、酷似させている。


今この部屋にいるのは、駅員さんを除いて4人だけ。

群衆にセットした服や髪を、メチャメチャにされてしまったアリアは、別の部屋で化粧直しをしている。

ノゾミは、慣れない大群衆を前に、気絶中。

ダリアさんは、その顔に浮き出た青筋から察するに、お怒りのご様子。

ヒカリは、楽しそうにしている。 元気だ。

他の護衛やメイドさん達は、全員行方不明。

たぶん、大群衆という波に、完全にさらわれてしまったのだと思われる。

かく言う俺も、大群衆のせいで、せっかく朝、メイドさん達に整えてもらった髪は、グチャグチャだ。

寝癖が付いていた朝方よりも、ヒドイかもしれない。


「いや、人が多いね。 ビックリしたよ。」


「我々もトラブルが起きないよう、精一杯努めさせていただきます。 本日は、よろしくお願いいたします。」


「よろしくね。」 


今日の一番列車は、初の鉄道と言うことでこの日だけ、朝10時発に設定されていた。

駅に設置した、時計を見ると今の時刻は、9時45分。

ギリギリセーフだ。

間に合って良かったぜ・・・・


「挨拶はムリか・・・出発の合図と、玉割りだけだね。」


「なんでしたら、出発の時間を遅らせても・・・」


「いや、ダメダメダメ!!  列車は定刻どおりに走らせないと!!」


「大公様が、そうおっしゃられるのであれば・・・」


駅員さんに案内されるまま、駅のホームへ向かうカイト。

それに追従する、アリアとヒカリ、それにダリアさん。(ノゾミは、休憩中)

今回のこの出発式は、彼の趣向が随所ずいしょに散りばめられている。

数日前からのこの一連の準備作業に、カイトがずっと顔を出していたのも、そのためだ。


ホームまで出ると、装飾された列車に、多くの人たちが乗っていた。

ボルタまでの運賃は、駅馬車ギルドと相談した結果、小銀貨二枚に設定した。

距離のわりに割高かもしれないが、馬車のときと、さほど変わらないはずだ。


「小僧、おせえぞ!! さっさとこっち来い!!」


「はいはいはいはい!!」


先に到着していたらしい、ドワーフのおっさん達にかされ、急ぎ足でホームに用意された、仮説の壇上に上がるカイト。


高い所から見下ろすと、ホームには所狭しと、人がいるのが見えた。

その人たちが、壇上に上がった俺の姿を見つけ、一斉にこちらを注視してくる。

時間は、ホームにかけられた時計では、9時55分を示している。

ヤバイ・・・緊張してきた。


「まもなく列車が出発します! 危険ですからホームにいる方は、列車から離れてください!!」


カイトの緊張をよそに、両の手に緑と赤色の旗を持った駅員さんが、ホームにいる客に、注意を促す。

いよいよだ・・・!!


隣にいるヒカリが、こちらを除いて来る。

そうだ、良い事思いついた。


カイトは、そう思うや否や、ホーム上に用意した、くす玉のヒモを伸ばし、ヒカリに握らせた。


「ヒカリ、俺が右手をあげたら、それを軽く引っ張ってほしいんだ。 軽くね。」


「うん? 分かった。」


思いっきり引っ張られたら、ホームの屋根ごと引きちぎれかねないので。

ここに居るはずの、屋敷の使用人さんたちが居ないのが心残りだが、いた仕方ないだろう。

時計の針が、ちょうど10時を指し示した。


さっと、右手を高く上げるカイト。

言われたとおりに、くす玉のヒモをグイッと引くヒカリ。

途端にくす玉が割れ、辺りに花吹雪が待った。



ピーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!


ゴトン!!


それに呼応するように、機関車が汽笛を鳴らし、重々しい出で立ちで、発車でベアルのホームから離れだした。

一層、大きくなる群衆の声。

満足そうにするカイト。


これである。

カイトが願ってやまなかったのは、まさにこれであった。


列車があげる甲高い汽笛と、引かれる客車や貨車の音は、ベアル中に木霊していった・・・・














この出発式典を始め、その周辺に、この『鉄道開業』の最大の功労者たる、奴隷たちの姿は、どこにも無かった・・・・

本当に最終回みたい・・・・

でも、続きます。

まだ多くの伏線が、未回収のままですし。


でも更新が少し、間隔が空くようになるかも・・

その節は、何卒ご了承ください。

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