第178話・出発進行!!
最終回みたいな途中話です。
やっと、カイトの念願がかないます。
なんだか平穏が続きましたが・・・
いつまでも続くと良いですね。
たぶん。
キュオーーーーーーンンン!
ポンポンポン!!!
日が出てから、幾時間も経たないベアルの街。
この日は少し、上空には雲があって快晴とまでは言えないものの、いい日和であることに間違いは無かった。
今日は、待ちに待った、この世界初の鉄道の開業日である。
特にこの街の領主であるスズキ公様の喜びようは、昨日から尋常ではなかった。
彼は、昨日からそれはもう、はしゃぎ通しなのである。
今、街に上がった花火も、彼が屋敷のバルコニーから、魔法で打ち上げたものだった。
未だ、宿の中で寝息を立てていた旅人たちは、この爆発音に、ほとんどの者が目を覚ましたことだろう。
迷惑な話である。
「カイト様、ここに居られたのですか!? 随分お探ししていたのですよ!??」
「ああ、おはようアリア。 良く眠れたかい??」
背後からのアリアの言葉に、バルコニーから外を眺めていたカイトは、声のした入り口のほうへと、視線を向けた。
いつもよりも、装飾が多く付いた赤いドレスを身にまとうアリア。
これを見ると、彼女が高貴な身分の奥様に見える。
・・・いや、実際そうなのだが。
「『おはよう』ではございません!! 今日は大事な日なのでしょう!!?? あなた様も早く、支度を済ませてくださいませ!!」
「支度ならしたよ? ホラ。」
そう言って、バンザイの体勢をとるカイト。
朝起きてすぐに、寝巻きから白い貴族の服へ着替えたのだ。
もちろん、いつも通り一人で。
イヤだってさ、誰かに服を着せてもらうって、こっ恥ずかしいじゃん?
だがアリアは、不満そうな表情を向けてくる。
「はあ・・・カイト様、寝癖が付いたままですよ? このまま出向かれるおつもりなのですか??」
「・・・・・。」
そこまで気を配ってなかった。
いつもなら、それでも良いが、今日は特別な日なので、人も多い。
さすがに寝癖つきの領主様は無いだろう。
「ヒカリも、お着替えなさい。 今日は特別な日なのですから。」
「うん、分かった。 魔石も、しまわなくちゃダメなんだよね?」
ずっと俺の隣にいたヒカリにも、着替えの要請をするアリア。
カイトも浮き足立っていたが、アリアもかなり、内心今日と言う日を、心待ちにしていた。
彼女がいつにも増して気合が入っているのも、そのためである。
『今日は、大切な日だ。 失敗は許されない』と。
カイトの気持ちを、よく分かっているアリアであった。
だが、その意気込みも、大群衆を前に、早くも打ち砕かれそうになった・・・・
「うわああ~~~~~!!! 人がいっぱい!! これ皆、鉄道目当てなの!?」
「で・・ですから、馬車で向かおうと・・ムググ・・・・・」
屋敷から出立したカイト達一行は、出発早々に、街にごった返していた大群衆に、もみくちゃにされていた。
今にも、全員がバラバラに離散してしまいそうである。
すでに付いてきていた、数人のメイドと護衛さんが、行方不明となっている。
ある意味、危険な状況と言えた。
この大群衆を前に、すでに彼らは、疲労困憊である。
「うおおっっと!!???」
群衆に、押し出されそうになるカイト。
しかし押し出される前に、彼の体は誰かによって抱き止められた。
お礼を言おうと、カイトが振り返ると・・・
いつも通りメイドの、ダリアさんがいた。
だがその表情は、いつになく冷たく、険しい。
視線だけで、百人ぐらい殺せそうである。
「カイト殿様、こやつらは邪魔な障害でしかない存在です。 いっそ、消し飛ばしてしまいませんか??」
「ヤメテ。 本当にシャレにならないからやめて。」
世紀末な香りがする言葉を、平気で吐く、至って平常運転な彼女。
俺が制止しなければ、彼女は本当にやりかねない。
今ここで、『世紀末ごっこ』(連邦で実施済み)をすれば、街は鉄道どころではなくなる。
ここは、一生懸命、彼女を説得し、矛を収めてもらった。
「カイト! いつもの転移って、使えなかったの!?」
「無理。」
ノゾミの疑問を間髪いれずに、バッサリ切り落とすカイト。
もちろん、それは屋敷を出る前に考えた。
だがこう、人が多いところで転移の魔法などを使えば、大惨事になりかねなかった。
特に、転移先のピンポイントにいる人間とかが。
だからこうして、徒歩で屋敷から駅へ、向かっているのである。
昨日は十分ちょいで着いたのに・・・
駅、遠すぎ・・・
カイトはそれだけ思うと、群衆の波にアリアたちも同様、呑まれていった・・・
◇◇◇
「これは、これは。 お待ちしておりました、大公様。 ・・・大丈夫でございますか?」
「ええ、まあ・・・・・・」
群衆の波に吞まれ、モミクチャにされてしまったカイト達一行は、やっとの事でベアルの駅の、貴賓室に到着した。
出迎えてくれたのは、駅馬車ギルドから来た、駅員さんである。
カイトの意向で、彼らの服装は、彼が日本でよく見た鉄道マンの服装に、酷似させている。
今この部屋にいるのは、駅員さんを除いて4人だけ。
群衆にセットした服や髪を、メチャメチャにされてしまったアリアは、別の部屋で化粧直しをしている。
ノゾミは、慣れない大群衆を前に、気絶中。
ダリアさんは、その顔に浮き出た青筋から察するに、お怒りのご様子。
ヒカリは、楽しそうにしている。 元気だ。
他の護衛やメイドさん達は、全員行方不明。
たぶん、大群衆という波に、完全にさらわれてしまったのだと思われる。
かく言う俺も、大群衆のせいで、せっかく朝、メイドさん達に整えてもらった髪は、グチャグチャだ。
寝癖が付いていた朝方よりも、ヒドイかもしれない。
「いや、人が多いね。 ビックリしたよ。」
「我々もトラブルが起きないよう、精一杯努めさせていただきます。 本日は、よろしくお願いいたします。」
「よろしくね。」
今日の一番列車は、初の鉄道と言うことでこの日だけ、朝10時発に設定されていた。
駅に設置した、時計を見ると今の時刻は、9時45分。
ギリギリセーフだ。
間に合って良かったぜ・・・・
「挨拶はムリか・・・出発の合図と、玉割りだけだね。」
「なんでしたら、出発の時間を遅らせても・・・」
「いや、ダメダメダメ!! 列車は定刻どおりに走らせないと!!」
「大公様が、そう仰られるのであれば・・・」
駅員さんに案内されるまま、駅のホームへ向かうカイト。
それに追従する、アリアとヒカリ、それにダリアさん。(ノゾミは、休憩中)
今回のこの出発式は、彼の趣向が随所に散りばめられている。
数日前からのこの一連の準備作業に、カイトがずっと顔を出していたのも、そのためだ。
ホームまで出ると、装飾された列車に、多くの人たちが乗っていた。
ボルタまでの運賃は、駅馬車ギルドと相談した結果、小銀貨二枚に設定した。
距離のわりに割高かもしれないが、馬車のときと、さほど変わらないはずだ。
「小僧、おせえぞ!! さっさとこっち来い!!」
「はいはいはいはい!!」
先に到着していたらしい、ドワーフのおっさん達に急かされ、急ぎ足でホームに用意された、仮説の壇上に上がるカイト。
高い所から見下ろすと、ホームには所狭しと、人がいるのが見えた。
その人たちが、壇上に上がった俺の姿を見つけ、一斉にこちらを注視してくる。
時間は、ホームにかけられた時計では、9時55分を示している。
ヤバイ・・・緊張してきた。
「まもなく列車が出発します! 危険ですからホームにいる方は、列車から離れてください!!」
カイトの緊張をよそに、両の手に緑と赤色の旗を持った駅員さんが、ホームにいる客に、注意を促す。
いよいよだ・・・!!
隣にいるヒカリが、こちらを除いて来る。
そうだ、良い事思いついた。
カイトは、そう思うや否や、ホーム上に用意した、くす玉のヒモを伸ばし、ヒカリに握らせた。
「ヒカリ、俺が右手をあげたら、それを軽く引っ張ってほしいんだ。 軽くね。」
「うん? 分かった。」
思いっきり引っ張られたら、ホームの屋根ごと引きちぎれかねないので。
ここに居るはずの、屋敷の使用人さんたちが居ないのが心残りだが、いた仕方ないだろう。
時計の針が、ちょうど10時を指し示した。
さっと、右手を高く上げるカイト。
言われたとおりに、くす玉のヒモをグイッと引くヒカリ。
途端にくす玉が割れ、辺りに花吹雪が待った。
ピーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
ゴトン!!
それに呼応するように、機関車が汽笛を鳴らし、重々しい出で立ちで、発車でベアルのホームから離れだした。
一層、大きくなる群衆の声。
満足そうにするカイト。
これである。
カイトが願ってやまなかったのは、まさにこれであった。
列車があげる甲高い汽笛と、引かれる客車や貨車の音は、ベアル中に木霊していった・・・・
この出発式典を始め、その周辺に、この『鉄道開業』の最大の功労者たる、奴隷たちの姿は、どこにも無かった・・・・
本当に最終回みたい・・・・
でも、続きます。
まだ多くの伏線が、未回収のままですし。
でも更新が少し、間隔が空くようになるかも・・
その節は、何卒ご了承ください。