第177話・前夜
これからも、頑張っていきます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
ガゴン!!
「バッカ! テメェ、せっかくの機関車様を壊す気か?? 発車の前に、ブレーキハンドルを右に全開で回せと言っただろうが!!」
「ヒィィ・・! ご・・・ごめんなさい!!」
朝、ベアルの駅に着くと、ドワーフのおっさんの、大きな怒鳴り声が駅の中まで聞こえてきた。
ホームには、明日から走り出す、『鉄道』が止まっている。
そこには、多くのドワーフのおっさんと、多くの馬車組合のおじさんやお兄さんたちがいる。
鉄道もとうとう、開業を明日に控え、駅や列車には、色とりどりの飾り付けがなされている。
馬車組合の人たちも、その関係でここにいるのだ。
『鉄道』は、開業と同時に、『駅馬車ギルド』の管理下に置かれる手はずになっている。
これは一ヶ月ほど前に、鉄道開業の反対のデモが発生した為である。
デモの参加者は、全員が『駅馬車ギルド』の組合員だった。
鉄道開業による、失職を懸念しての行動だったようだ。
ここでカイトは、鉄道をこのギルドの管理下に置いてもらう事とした。
駅員、機関士、車掌、保線員などなど・・・
これら一切を、『駅馬車ギルド』に行ってもらう。
人員をどうするか悩んでいたので、こうすれば一石二鳥だ。
ちなみに列車の製造などは、ドワーフのおっさん達に、一任したままにする。
「ほら、次のヤツだ!! ボヤッとしていると、機関車で轢くぞ!?」
前の人は終わったようで、次の人がおっさんの前に、進み出てくる。
あの人、ビクビクしてるよ・・・
「お・・・お手柔らかに・・・・」
「ああ!!???? はっ倒すぞ、テメエ!?」
「ごごご、ごめんなさい!!」
恐怖による支配(?)だろうか。
これでは、馬車組合の御者さんたちが可愛そうだ。
助け舟を出してやるか。
「朝から気合、入ってるねー。」
「何だ小僧、来てやがったのか。 頼んでもお前にはもう、神聖なる機関車様の運転室には、乗せてやんねーぞ?」
「えー? そんな~~。」
まずはソフトな挨拶から。
スパルタ教育中だったドワーフのおっさん達の態度が、幾ばくか軟化した。
襟首つかまれてた御者さんも手を離してもらい、ホッと安堵のため息を漏らしている。
「どうですか、明日に向けた開業準備は。」
「ま、ボチボチだな。 モヤシばかりだが、お前よりは使えそうなヤツらばかりで、こっちは大助かりしているぜ。」
言葉を発するたびに、イチイチ俺をディスらないでくださいよ。
少なからず、傷つくんですからね?
言っても、直してくれないだろうけど・・・
「あはは、作業が順調そうで、何よりです。 ところでルルアムの姿が、見当たりませんが?」
「アイツなら、研究所でペンを走らせているはずだぜ? 設計した機関車が、納得いかないんだとよ。」
「へ~~~。」
彼女は、頑張り屋だな、とつくづく思う。
このおっさん達が褒めるほどのモノを作り上げたと言うのに、まだ気が納まらないのか。
今度何か、彼女が喜ぶような事をしてあげたいと思う。
なにか、考えておかなくちゃな。
「そっちの嬢ちゃんは、コイツと違って利発そうだな。 おい、お前はこんな阿呆に育つんじゃねーぞ?」
「?」
俺が連れている、ヒカリの姿を見つけたおっさんは、彼女の頭をなでる。
魔族とバレないよう、彼女は胸元を中心に、幻惑魔法で隠している。
これで、直接に触られない限りは、バレることは無い。
それにしても彼が、子供好きだったとは意外である。
この光景だけ見ると、彼が優しいおじちゃんにしか見えない。
「ジロジロと、薄気味わりい顔をこっちに向けて来るんじゃねえよ。 お前がここに来た、用事は何だ。 早くそれを言え!」
「ああ、ゴメン。 ただ様子を見に来ただけなんだ。 ここら辺りで、お暇するね。」
「は、なんじゃそりゃ!? テメエ、冷やかしに来ただけかよ!??」
ドワーフおじさんの呆れ顔を尻目に、カイトはヒカリと手をつないだまま元来た道を、戻って行った。
それを、悲壮感漂う表情で、見送る馬車組合の面々。
「そら、練習だ!! 出来るようになるまで、今日は帰さん!!」
「お・・お手柔らかに~~~!!」
彼らの苦労は、始まったばかりである。
◇◇◇
「お兄ちゃん、人間がいっぱいいるね。」
「ああ、いつもより多いようだけど・・・明日の開業を聞きつけて、来たのかな??」
ベアルの駅から、家路へ着くカイトは、ヒカリの言葉に賛同する。
いつもより、心なしか、人の往来が多いように感じるのだ。
旅人が多く、カイトの姿を見つけるたび、横で跪いて来る。
俺は、どこの神様だろうか??
いつもより、めっぽう歩きにくいのだ。
俺の顔を知っている街の住民は、こちらへ苦笑いを返してくる。
俺に助け舟とかは、無いんですね。
「お兄ちゃん、さっきのおじさんに頭を撫でられたけど、痛かった・・・」
「よくガマンしたな。 偉いぞ。」
カイトに撫でられ、嬉しそうにはにかむヒカリ。
彼女のこの系統の言葉は、何かのおねだりのサインである。
その時の嬉しそうにする顔が、実に可愛いので、つい何度もやってしまう。
「さ、ヒカリ。 今日は屋敷で前夜祭があるらしいぞ? 俺たちも手伝おうな!」
「それって、美味しいの!?」
「ああ、シェフさん達が美味しい料理を準備してくれるってよ?」
「やったーーーーーー!!」
カイトの言葉に、笑顔を振りまくヒカリ。
その声は街中に響き渡り、街全体のお祝いムードに、一層、拍車をかけたのであった・・・・
次話。
とうとう最終回!!
・・・な訳あるかい。