第176話・改めて告白を
これからも、頑張っていきます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
ある日の昼下がり。
俺の家のリビングには、一人の来訪者の姿があった。
彼女は白い修道服に身を包み、アリアと話に花を咲かせている。
この街の大聖堂の司教、イリスさんである。
彼女はタマに、こうしてこの屋敷に訪れては、アリア達と話していくのである。
気さくな人だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかった。
『司教』という立場なのに、こうちょくちょく、やって来て問題はないのだろうか?
カイトは自分のいつもの行動を棚上げして、毎週この家へやってくる、イリスさんの心配をした。
言わせてもらえば、『大きなお世話』である。
「まずはカイトさん、この度はおめでとうございます。」
「え、何が??」
そしてイリスさんが言ってきたのは、まず初めは俺への、祝福の言葉であった。
一瞬、何の事だか側からなかったカイト。
それを汲んで、カイトの脇の辺りを、小突くアリア。
それに、やっと何を言われたのかを理解したカイト。
この辺り、まだ彼はニブイ。
「そうそう、三日後に『鉄道』が開通するんだよ、長かったな~~~。」
「存じ上げています。 ご念願がかなって、何よりです。 きっと神様が、カイトさんをお導きくださったのでしょう。」
そう言って目を閉じて、胸の前の辺りで両手を合わせ、お祈りのポーズを取るイリスさん。
彼女は、マイヤル教という宗教の、聖職者だ。
その信者の一人であるアリアも、それに倣って同じように、お祈りをささげる。
無宗教論者のカイトには、苦手な光景だった。
別に、イリスさんがどーとかでは、無いが。
ちなみにカイトは、お祈りしていない。
しばしの静寂の後、彼女達のお祈りも済んだようで、お祈りのポーズを解き、目を開ける。
するとアリアが、何かを聞きたそうにイリスさんに、言葉をかけた。
「聖女様。」
「アリアさん、私の事はお名前で呼んでくださいと、言ったはずですよ?」
イリスさんはそう言って、かぶりを振って、アリアの口元に人差し指を立てていった。
一瞬、言葉を止めて息を呑むアリア。
何この一コマ。
イリスさん、かっこいーーー!!
カイトのそんなバカな考えをよそに、アリアは言葉の続きをつむぎ始めた。
「イリス様、先ほどカイト様に『彼が鉄道を作りたい』と言っていた事を、知っていたと仰いましたが・・・・ そもそもなぜ、カイト様とイリス様は、お知り合いに?」
「い・・・いや! アリア、それは・・・!!!」
アリアがイリスさんに質問した内容に、大慌てするカイト。
彼がそもそもイリスさんと出会ったのは、三年ほど前。
王都で世界がイヤになって、自殺未遂したことまで遡る。
あの時彼は、こってり駄女神様に、怒られたのである。
以来、自分がしたい事を探し続け、現在に至る。
ちなみにまだ、発展途上だ。
なーんて事、アリアには知られたくなかった。
過ぎたことではあるが、恥ずかしい歴史であるのである事には、変わり無いので。
どうにか、話題を変えたい。
「あ、あのさイリスさん、それよりも・・・」
「フフ。 いいではありませんか、カイトさん。 彼女はあなたの、伴侶なのでしょう? 夫婦の間に、隠し事はよくありません。」
「・・・・・。」
無理であった。
カイトよりイリスさんの方が、数枚上手である。
分かってはいたが。
そうしてイリスさんは、カイトと出会った時の話をし始めた。
『彼が、ノゾミとけんかをして、落ち込んでいたところで会った』という事を。
アリアはこの話を顔を真っ赤にさせながら、大いに聞き入った。
時折、こちらに伺うような視線を向けてくる。
非常に恥ずかしい話をされてしまったが、俺の意向を汲み取ってくれたのか、イリスさんは『自殺未遂』の話はしなかった。
ひとまず、ホッとした。
「カイト様、その・・・・今更なのですが、私などがカイト様の傍にいて、よろしいのでしょうか?」
「え・・・何を今更。」
彼女達の話に一区切りがついた頃、アリアがこちらに不安げな表情を向けてきた。
もう、結婚してから三年近くが経つ。
今更それを言うのか、って感じだ。
そもそもそれは、どちらかと言えば、俺のセリフである。
「アリアは俺なんかより頭もいいし、度胸もあるし、すごく尊敬しているんだよ?」
「・・・カイト様、女としてその褒め言葉は、とてもフクザツなのですが・・・」
どうしてだろうか?
常日頃から思っていた事を、そのまま口に出しただけなのだが・・・・
アリアは、すごくビミョーな表情を、こちらに向けてくる。
この際、いい機会でもあるし、いつも思ってることを言うか。
「え、そう?? でもアリアは本当に器量もいいし、厳しいけどなんだかんだで優しいし、姿かたちもすごくキレイだし・・・俺には過ぎた嫁だなって、いつも・・・。」
「わ、分かりましたわ、カイト様。 もうお止めになってください。 恥ずかしさで死んでしまいそうです・・・」
それだけ言って、アリアはソファに深く腰掛け、顔を両手で押さえ始めた。
心なしか、頭の辺りからは湯気のようなものが立ち昇っているように見える。
俺は何か、ヘンな事を言っただろうか?
「フフフ、お二人は本当に、愛し合っておられるのですね。 これもきっと、神様の思し召しですわ。」
「いやいや、イリスさん!! そういう話じゃなかったでしょ!??」
カイトはアホなので、自分が言ったことが『アイラブユー』の遠まわしバージョンである事など、気付いてすらいないようだった。
口元を、ムズムズさせるイリスさん。
彼女もこの事態に、笑いがこみ上げてきているようだった。
言わなくても言い事まで言って、勝手に自爆したのは彼なので、(気付いてないけど)笑ってもいいと思うのは、作者だけだろうか??
「カイトさんが、『アリアさんを泣かせた』などと言う話を聞いて、少し心配になって来たのですが、杞憂だったようですね。」
「あ・・・あははは・・・・・。」
イリスさんの言葉に、乾いた笑みを浮かべるカイト。
アリアは、相変わらず両手で、顔をおさえて、ソファでうずくまっており、微動だにしない。
先日その件は、アリアが立ち直った事で一応、解決という事になった。
少しはまだ、気落ちしているようだが、だいぶ良くなったと思う。
あの話、イリスさんの耳にまで入っていたのか・・・・
人の噂って、コワイ。
恐怖心を募らせるカイトをよそに、イリスさんは話を続ける。
「カイトさん、鉄道の開業は、三日後でございましたね?」
「ああ、そうだよ。 皆に手伝ってもらって、やっとここまで来たんだ。 嬉しいなー。」
そう言って、満足そうにするカイトに、微笑みを向けてくるイリスさん。
そうして、立ち直ったアリアと共に、『仕事がある』と言うイリスさんを、見送ることにした。
「カイトさん、今日はとても楽しかったです。 三日後の鉄道開業、教会としましても、全面的に祝福させていただきますわ。」
「ありがとう。」
どこか意味深に、カイトにイリスさんはそう言い放ち、教会のほうへと帰って行った・・・
「カイト様・・・」
「ん、なにかあった? アリア。」
「いえ・・・やっぱり何でもありませんわ。」
こっちも意味深な・・・・
まあ、いいか。
イリスさんを見送り終えると、カイト達は屋敷の中へと入って行った。
業務放送。
カイト様は気付いていません。
チャンスです!!




