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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第8章 カイトの願望
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第175話・式典の準備

これからも、頑張っていきます。

感想など、ありましたら、どんどんお寄せ下さい!!

ゴーという大きな音と共に、黒い鉄の塊がベアルの街中を抜けていく。

それをちょうど、通りがかった街の住民や旅人が、物珍しそうに眺める。


数日前から、日中に試運転を始めた『鉄道』という、巨大な物体。

近々、アレに乗れるようになるらしい、と街の住民たちは、好奇心に胸を躍らせていた。


この『鉄道』のうわさは、旅人を通じて国境を越えた向こう側にある帝国の、街にも広まり始めていた。

それだけの迫力と、存在感が『鉄道』にはあった。

初めて見る『鉄道』に、期待や疑問など、多くの感情が入り混じっていた。


だがこの街では、そんな話はもう、古いネタだった。

今はもっぱら、この街の領主様の、ある噂で、もちきりである。


「やあ、お疲れ様! 俺にも飾り付けを手伝わせてくれ!!」


「お、来たな? 『奥さん泣かし』の大公様。」


「・・・・え”・・・・ナニソレ??」


ヒマを見つけ、開業式典準備に沸くベアルの駅にやって来たカイトは、到着早々、奴隷のおっさんにそう、茶化された。

彼らとは、鉄道建設工事中に、かなり親しい間柄になった。

今ではカイトに対し、こんな憎まれ口までたたいてくる様になっていた。

こんな光景は、この世界のほかの街では絶対に、ありえない事であろう。

さすがは、カイトであった。


「大公様は街に流れている噂を、知らねえのか?」


「そいつはバカだからな。 そんな真っ当な事を言ったって、分かりゃしねーよ。」


「失敬な! 俺だってこの街で『鉄道』の話題が持ちきりなこと位、知ってるよ!!」


ドワーフのおっさんの、『バカ』発言に心外だと言わんばかりに、声を張り上げるカイト。

この彼の反論に、呆けた表情を浮かべる二人。

途端に後ろから、爆笑の嵐が聞こえてきた。

頭の上にたくさんの『?』マークを浮かべるカイト。

そんな彼に、ドワーフのおっさんが、ヤレヤレと肩に手を置いてきた。


「だからお前は、『バカだ』と言われんだよ。」


「え!? だから何の事だよ!?」


カイトの疑問に答えることなく、ドワーフのおっさんは、奴隷のおっさんと共に、駅舎の中へと入っていった。

駅のホームでは依然、笑い転げる者の姿が。

カイトは彼らに向かって、軽く殺気を放った。

これに気が付いた彼らは、何事も無かったようにもくもくと、作業の続きを始めた。

まったく皆でよってたかって、俺をバカにして・・・


「あ、あの・・・・」


「ん、ルルアム? 駅にいたの??」


背後から声をかけられ、首を回した彼の前にいたのは、機関車などの基本設計を作った、元貴族のルルアムであった。

アリアとは、従姉いとこにあたる。

三年前に大罪を犯し、身分が『奴隷』になってしまった。

そんな彼女を王都で、偶然カイトが拾い、現在に至る。

貴族時代とは別人なほどに、性格が丸くなり、今はドワーフたちと共に真っ黒になって働いている。

ちなみにその『大罪』の被害者に当たるアリアには、絶対に会わぬよう、日夜かなり気を配っているた。

彼女も、『あわせる顔が無い』と、これを承服していた。

これからも、この関係は続くのだろうな・・・


「あの・・失礼とは分かっているのですがカイト様、ご質問させていただいてもよろしいですか?」


「かまわないよ?」


今日は列車の点検と、とうとう数日後に控えた鉄道の開業にむけた、式典の飾り付けの手伝いなどをしているようだった。

彼女は、かなり働き者なので、ドワーフのおっさん達からの評判も、上々だ。

俺には相変わらず、及び腰な態度をとってくるのだが。

そんな彼女が、俺に面と向かって『質問』だなんて珍しい事もあるものだ。

これは、答えてやらねばなるまい。


「あの・・・アリアを・・・いえ、カイト様の奥様を『泣かせた』と言う噂は、まことでしょうか?」


「ぶげほ!? げふっ、げふっ!!」


「だ・・大丈夫でございますか!? カイト様!!」


ルルアムからの突然の質問に、つばをのどの変なところへ詰まらせるカイト。

相変わらずの、カイトである。

だがカイト的には、今はそれどころではなかった。


「だ・・・誰からそんな事を聞いたの!?」


「えっと・・・街中の噂になっているようで・・・・すみません、やはりデマカセだったのですね!? 」


「・・・・・。」


本当のことを言うべきか、悩む。

泣かせたのは、本当の事だ。

先日、王都で会った、ギルド議長さんとか言う人と話した事とかを打ち明けたら、彼女は泣き出してしまったのである。

もちろん、きっと良くない意味で。

今でも彼女は、屋敷で意気消沈しており、ヒカリが付っきりで彼女の傍にいる。

まさか、街中の噂のタネになっていたとは・・・・

先ほどのおっさん達の態度も、納得である。


「そうですよね、カイト様はアリ・・・奥様を大切にしてらっしゃると聞き及んでおりました。 そんなアリアに・・・ あ、申し訳ございませんカイト様!! こんな事を言う気は無かったのですが・・・!!」


「いや・・・気にしないで?」


言えなくなった。

顔を真っ赤にして、口元を押さえ、謝罪をしてくるルルアム。

言動から、今はアリアを本当に大切に思っている事がうかがい知れる。

こんな彼女が三年前には・・・

いや、今は語るまい。

今目の前にいるのは、従妹いとこ思いの、優しい女性である。


と言うわけで、余計に言いにくい。

アリアを・・・

『彼女を泣かせてしまった』なんて。


「はは・・・噂なんてアテにナラナイカラネー。」


「フフ・・・・そうでございますね。」


この一件により、街の噂はたちまち立ち消えとなっていった。

真相を知るのは、屋敷内の者だけである・・・・

こうしてカイトは、罪を増やしていくのです・・・

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