第175話・式典の準備
これからも、頑張っていきます。
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ゴーという大きな音と共に、黒い鉄の塊がベアルの街中を抜けていく。
それをちょうど、通りがかった街の住民や旅人が、物珍しそうに眺める。
数日前から、日中に試運転を始めた『鉄道』という、巨大な物体。
近々、アレに乗れるようになるらしい、と街の住民たちは、好奇心に胸を躍らせていた。
この『鉄道』のうわさは、旅人を通じて国境を越えた向こう側にある帝国の、街にも広まり始めていた。
それだけの迫力と、存在感が『鉄道』にはあった。
初めて見る『鉄道』に、期待や疑問など、多くの感情が入り混じっていた。
だがこの街では、そんな話はもう、古いネタだった。
今はもっぱら、この街の領主様の、ある噂で、もちきりである。
「やあ、お疲れ様! 俺にも飾り付けを手伝わせてくれ!!」
「お、来たな? 『奥さん泣かし』の大公様。」
「・・・・え”・・・・ナニソレ??」
ヒマを見つけ、開業式典準備に沸くベアルの駅にやって来たカイトは、到着早々、奴隷のおっさんにそう、茶化された。
彼らとは、鉄道建設工事中に、かなり親しい間柄になった。
今ではカイトに対し、こんな憎まれ口までたたいてくる様になっていた。
こんな光景は、この世界のほかの街では絶対に、ありえない事であろう。
さすがは、カイトであった。
「大公様は街に流れている噂を、知らねえのか?」
「そいつはバカだからな。 そんな真っ当な事を言ったって、分かりゃしねーよ。」
「失敬な! 俺だってこの街で『鉄道』の話題が持ちきりなこと位、知ってるよ!!」
ドワーフのおっさんの、『バカ』発言に心外だと言わんばかりに、声を張り上げるカイト。
この彼の反論に、呆けた表情を浮かべる二人。
途端に後ろから、爆笑の嵐が聞こえてきた。
頭の上にたくさんの『?』マークを浮かべるカイト。
そんな彼に、ドワーフのおっさんが、ヤレヤレと肩に手を置いてきた。
「だからお前は、『バカだ』と言われんだよ。」
「え!? だから何の事だよ!?」
カイトの疑問に答えることなく、ドワーフのおっさんは、奴隷のおっさんと共に、駅舎の中へと入っていった。
駅のホームでは依然、笑い転げる者の姿が。
カイトは彼らに向かって、軽く殺気を放った。
これに気が付いた彼らは、何事も無かったようにもくもくと、作業の続きを始めた。
まったく皆でよってたかって、俺をバカにして・・・
「あ、あの・・・・」
「ん、ルルアム? 駅にいたの??」
背後から声をかけられ、首を回した彼の前にいたのは、機関車などの基本設計を作った、元貴族のルルアムであった。
アリアとは、従姉にあたる。
三年前に大罪を犯し、身分が『奴隷』になってしまった。
そんな彼女を王都で、偶然カイトが拾い、現在に至る。
貴族時代とは別人なほどに、性格が丸くなり、今はドワーフたちと共に真っ黒になって働いている。
ちなみにその『大罪』の被害者に当たるアリアには、絶対に会わぬよう、日夜かなり気を配っているた。
彼女も、『あわせる顔が無い』と、これを承服していた。
これからも、この関係は続くのだろうな・・・
「あの・・失礼とは分かっているのですがカイト様、ご質問させていただいてもよろしいですか?」
「かまわないよ?」
今日は列車の点検と、とうとう数日後に控えた鉄道の開業にむけた、式典の飾り付けの手伝いなどをしているようだった。
彼女は、かなり働き者なので、ドワーフのおっさん達からの評判も、上々だ。
俺には相変わらず、及び腰な態度をとってくるのだが。
そんな彼女が、俺に面と向かって『質問』だなんて珍しい事もあるものだ。
これは、答えてやらねばなるまい。
「あの・・・アリアを・・・いえ、カイト様の奥様を『泣かせた』と言う噂は、真でしょうか?」
「ぶげほ!? げふっ、げふっ!!」
「だ・・大丈夫でございますか!? カイト様!!」
ルルアムからの突然の質問に、唾をのどの変なところへ詰まらせるカイト。
相変わらずの、カイトである。
だがカイト的には、今はそれどころではなかった。
「だ・・・誰からそんな事を聞いたの!?」
「えっと・・・街中の噂になっているようで・・・・すみません、やはりデマカセだったのですね!? 」
「・・・・・。」
本当のことを言うべきか、悩む。
泣かせたのは、本当の事だ。
先日、王都で会った、ギルド議長さんとか言う人と話した事とかを打ち明けたら、彼女は泣き出してしまったのである。
もちろん、きっと良くない意味で。
今でも彼女は、屋敷で意気消沈しており、ヒカリが付っきりで彼女の傍にいる。
まさか、街中の噂のタネになっていたとは・・・・
先ほどのおっさん達の態度も、納得である。
「そうですよね、カイト様はアリ・・・奥様を大切にしてらっしゃると聞き及んでおりました。 そんなアリアに・・・ あ、申し訳ございませんカイト様!! こんな事を言う気は無かったのですが・・・!!」
「いや・・・気にしないで?」
言えなくなった。
顔を真っ赤にして、口元を押さえ、謝罪をしてくるルルアム。
言動から、今はアリアを本当に大切に思っている事がうかがい知れる。
こんな彼女が三年前には・・・
いや、今は語るまい。
今目の前にいるのは、従妹思いの、優しい女性である。
と言うわけで、余計に言いにくい。
アリアを・・・
『彼女を泣かせてしまった』なんて。
「はは・・・噂なんてアテにナラナイカラネー。」
「フフ・・・・そうでございますね。」
この一件により、街の噂はたちまち立ち消えとなっていった。
真相を知るのは、屋敷内の者だけである・・・・
こうしてカイトは、罪を増やしていくのです・・・