第174話・列車は調整中です。
これからも、頑張っていきます。
感想や誤字、脱字などありましたら、どんどんお寄せ下さい。
「それでですね、カイト様、この土地の利用なのですが・・・」
「ふああ・・・・」
「・・・・・・。」
カイト様が、大きなあくびをされました。
せめてかみ殺すなり、悟られぬように配慮をする位はして頂きたいモノです。
この辺り、彼は『遠慮』がありません。
「・・・カイト様、私は今、バルアの『観光リゾート計画』のお話をしているのですが・・・」
「ああ、大丈夫。 眠ってないから。」
そういう問題ではございません。
カイト様、大っぴらに私の前であくびをなさること事態に問題があるのですよ?
彼が先ほどから、あくびを連発さえるのには、訳があります。
「もう、なぜ今日は朝帰りだったのですか!?? その理由だけでも教えくださいませ!!」
「いやいや、ムフフフフフ・・・・・」
私の質問に、先ほどのように、手をヒラヒラさせながら、笑みを浮かべるカイト様。
彼は昨晩に、ドワーフの皆様がいる『鉄道研究所』に呼ばれ、出かけられました。
何か、用事があったのでしょうね。
カイト様は昨日一日、ご用事で王都へ行かれていて、不在でしたから。
しかし彼が帰ってきたのは、今日の朝になってからでした。
遅すぎます。
彼は一体、何をしてきたのでしょうか?
どれだけ私たちが心配したのか、彼にはいい加減、分かって頂きたいです。
あと、軽く殺意が湧くので、その薄気味悪い笑いは、ヤメテ下さい。
「はあぁぁぁ・・・・まあ、お元気になられたようで、何よりですわ。 昨日のあなた様は何と言うか・・・」
「ごめんね、心配かけて。」
大きくため息をつくアリアに、詫びを入れるカイト。
昨日彼は、それはもう悲惨なぐらい、気落ちしていた。
その『王都の用事』というのが、異世界初の鉄道の試運転の日程と、ぶつかってしまったのである。
立場上、カイトは前者を優先させ、血涙を流しながら出立していった。
ちなみに彼がご機嫌なのは、結局としてその『試運転列車』に乗車できたのが、理由である。
アリアはこの事は、知らない。
と言うか、知ったらきっと、怒る。
「それで、バルアの土地が、どうしたって?」
「・・・・もういいですわ、今日はこの辺りでおひらきに致します。」
そう言って、持って来た書類の束をまとめ出すアリア。
「え、そう?」と、嬉しそうにするカイト。
彼はこういった小難しい話はニガテなので、思いがけず早く終わって、万々歳と言うわけだ。
アリアの、彼に対する殺意が、増大する。
彼にはきっと、遠い未来まで伝わらないだろうが。
まあ、良い。
それより何より、アリアはカイトに聞きたいことがあった。
カイトが昨日で向いた、王都の話だ。
「カイト様、昨日王都の議長様とは、どういったお話をされたのですか??」
「・・・あ~~~・・・。」
アリアの質問に、あからさまに『マズイ。』という態度を出すカイト。
彼の辞書に、『ポーカーフェイス』と言う言葉はない。
口以上にその心境を、さらけ出してくる。
その彼は、内心焦っていた。
アリアに、マズイ質問をされてしまったぞ。
昨日、確かに『ギルド総督議長』と言う人と、話はした。
お噂はかねがね・・・とか、あのような領地をこの短期間で大きく発展させたその手腕は・・とか、グレーツクがどーたらこーたら、とか。
正直、何を話したのかを問われると、よく覚えていないと言うのが、正直なところだ。
だって、試運転列車が気になって仕方が無かったのだもの・・・・・
話も一段落し、一服していたころ。
俺は議長様に、お酒を勧められて『早く帰りたい』とか言った。
議長様は笑って、帰してくれたのだが・・・
アリアに言ったら、マズイよな~~。
絶対、怒られる自信がある。
ここは当たり障りの無いように・・・・
「その沈黙・・・ カイト様、また何か、しでかしたのですね?」
「!? いやややっやや!?? とーーーんでもない。 ちゃんとお話してきたよ!!」
「カイト様、怒りませんわ。 怒りませんから、正直にお話下さいませ。」
当たり障り無いように話す前に、イロイロとバレてしまっていた。
アリアは、心を読めるに違いない!!
そうバカなことを考える、カイトであった。
◇◇◇ (カイトによる、自白後。)
「なんて事をしてくれたのですか、あなたはーーーーーー!!!!」
「うわああああああああああああ!! ごめんなさーーーい!!?」
「はあ、はあ、はあ、あああああああ・・・・・・」
頭痛がします。
カイト様が昨日会われた、ギルド総督議長。
この国にある、すべてのギルド組織の、トップの方です。
国王までは行きませんが、かなりの権限を有した方です。
その議長様に、彼は会話の最中、『帰りたい』などと言われたそうです。
お気持ちは分かりますわ。
ですが、それを言っちゃ、オシマイです。
あ・・・涙が出てきました。
「カイト様、今回のこの面談は、一年後に控えた『ギルド審査会』を有利に進められる、絶好のチャンスだったのですよ?」
「い・・・良いおっちゃんだったよ!? 俺の事、ベタ褒めしていたし?」
内容は覚えていないが。
これでは現状、火に油を注ぐことにしかならないと、気づかないのだろうか??
・・・ナルホド。
気づかないから、さっきは自爆したのか。
「ここまで頑張って・・・せっかく・・・もう、終わりですわ。 クスン・・・・」
肩をワナワナ震わせるアリアに、カイトは大慌てをする。
その時に、大きく手を振るのを忘れない。
これにより、彼は知らないがアリアの『不安指数』は爆増する。
おおよそ百倍ぐらいには。
つまり、すべてダメダメだった。
「き・・・きっと大丈夫だよ、アリア!! 『また会おう』とか言われたし? 結構、好感触だったんだよ!?」
「うぅぅぅぅ・・・・、グスグス・・・あぁぁあああぁ・・・・・・」
カイトの言葉は、アリアには少しも届いていなかった。
この日以来の約数日間。
アリアは、昨晩の死相浮かぶカイトのように、真っ白になってしまうのであった。
屋敷全体の空気が、昨晩走った機関車より重かったのは、言うまでも無い。
あ~あ、とうとう泣かせちゃった。
アリアちゃんはここまで、寝る間も惜しんで『ギルド誘致』の書類準備などをしてきましたからね。
さすがに泣いて、当然です。
カイト君も、そこは分かってあげて。