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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第8章 カイトの願望
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第173話・夜汽車

今日は、なんだか疲れました。

この話を、三回も書き直したのが、主たる原因です。

書いてて面白くなかったので・・・・

というわけで、今日の投稿は一話となります。

先ほど、王都からカイト様が転移で帰ってこられました。

・・・早いです。

今日は、ギルド総督会の総督議長様と、彼は面談されたはずです。

出立されたのが、今日の昼前。

帰って来られたのが、日没後。

どんな話をされたのか、非常に気になる所なのですが・・・・


「はああ~~。」


「・・・カイト様、お食事中にため息をつかれるのは、お止めくださいませ。」


帰ってから、カイト様はため息ばかりついておられます。

彼にはまったく、『元気』がありません。

元気が取り柄の彼を、何がここまで気落ちさせるのか・・・・・


「お兄ちゃん、『今日は鉄道の試運転だ。』とか言ってたよね? どうして落ち込んでいるの??」


ヒカリのこの言葉に、さらにズーン・・・と暗い表情を浮かべるカイト様。

いつもは大きく見える彼が、いつになく小さく見えます。

この部屋の空気まで、重くなった気がします。


「・・・・・ヒカリ、口元にドレッシングがついておりますわ。 お気を付けなさい。」


「あ・・・ごめんなさい。」


ヒカリの口の周りに付いた、サラダにかかった赤いドレッシングを、横にあるクロスで拭きます。

彼女の注意も、他へ向けることができたようですね。

今彼に、不用意な『鉄道』発言は、禁句なのです。


彼が、食事中の今でさえ、ここまで気落ちする理由・・・

それは、他でもない『鉄道』です。


今日は、カイト様が作られた鉄道の、試運転が行われたようです。

カイト様はこれを、ずっと心待ちにしていたのだとか。

結婚して以来、いつも『てつどう、てつどう』と言っておられていましたからね。

喜びもひとしおなのでしょう。


しかしあろう事か私の不手際で、今日に外せない予定を入れてしまったのです。

彼に、日程の確認をするべきでした・・・

いつもヒマそうにしている彼は、予定などありません。

だから私も、気兼ねなく『予定』を入れさせていただいておりました。

その矢先に、コレです。

もちろん、カイト様には行って頂きました。

あの時の絶望したような、彼の表情と言ったら・・・・

なんだかとても、可愛そうでした。


でもだからと言って、私が変わって差し上げられる案件でもございませんでしたので、どうしようもありません。

私が彼にできるのは、玄関先で王都へ転移する、彼をお見送りする事だけでした・・・


「はは・・・今日のスープ、しょっぱいな・・・・」


「ま、真でございますか!?? 塩の分量はいつもと同じのはず・・・・」


カイト様の料理のご感想に、驚愕きょうがくする、この屋敷のシェフ。

そんな彼に、私は自らの口元に人差し指を立て、首を横に振りました。


シェフも私のこの仕草に、状況を理解したようで、一歩下がって再び、壁に背をあずけました。

料理の失敗ではありません。

カイト様の目から流れ出る液体が、スープの中にポタポタ落ちているのです。

悲惨すぎて、見ていられません。


ノゾミは彼のこの態度に、気にした風でもなく、モリモリとサラダを美味しそうに頬張っています。

その図太さの一部でいいので、私も欲しいですわ。

さらに重苦しくなったこの空気の中で、食事を続行するのは、中々にツラいモノがあります。

今回のこの案件は、私のせいでもあるので、彼に強く出られないのも居心地悪い気持ちの一端でしょうね。

メイド達も、どうすればいいのか、対応に困っています。

このままでは、せっかくシェフが腕を振るってくれた料理が、ムダになってしまいますわ。


そういえば、彼に伝言があるのですしたわ。

危うく忘れてしまうところでした。


「カイト様、夕刻にドワーフの方が、お屋敷に訪ねていらしたそうです。 今夜来て欲しいとの事ですわ。」


「へ・・・、今から? 研究所に?? 何の用事?」


食事の手をいったん止めたカイト様が、私の報告に、首を傾げておられます。

そうですわよね。

もう陽も落ちているというのに、お呼び出しだなんて。

疑問に思われて、当然ですわ。

当の私も、なぜ呼ばれたのかは知らないのですから。

『小僧に今夜に、研究所に来いとだけ伝えろ』

それが、メイドが聞いた伝言だったようです。

なにか、カイト様にして頂きたい作業でもあるのでしょう。


「さあ? その内容をお伺いになるのも、領主たるあなた様の務めですわ。」


「はあ~~、昨日の今日で、気が進まないな~~・・・」


そうでしょうね、『研究所』もまた、気落ちの原因なのですから。

でも行く気はあるようです。

止まっていた彼の食事の手も、徐々に進みだしました。

重苦しい空気も一挙に、軽くなった気がしますわ。

とりあえず、良かった(?)です。

・・・・・一応は。



◇◇◇



「こんな夜中に、一体、どこへ向かうんですか?」


「ガタガタ言わねえで、黙って付いて来い!!」


アリアに言われたとおり、食事の後すぐに研究所へ足を運んだ俺。

辺りは魔力灯のおかげで明るいが、風が冷たい。

鼻水が出てきそうである。

上記の理由により、ヒカリは付いてきていない。

要するに今回は珍しく、俺一人である。


「あの・・カイト様、こんな真夜中にお呼び立てして申し訳ございません。」


「・・いや、どうせ夜はヒマだからどうって事ないよ。」


つなぎのような作業着姿のルルアムが、俺に謝ってくる。


別にそれはかまわない。

どうせ夜にする事は、フロに入って寝るだけ。

何かあったのなら、すぐに対処したいところであるし。

そうこう考えているうちに、どうやら目的地に着いたようだ。


「・・ここ、駅ですよ? 何でこんなところに??」


俺の疑問に、おっさん達は何も答えてくれない。

ルルアムに聞こうとしても、彼女も嬉しそうに手招きをするだけだ。


着いたのは、ベアルの繁華街の中心に出来た、真新しい鉄道の駅。

まだ使用開始はしていないので、周りの建物と違い魔力灯は設置しておらず、まだ中は薄暗い。

その中をズンズン進んでいく一行。


改札を抜けると、そこには『列車』が止まっていた。


機関車が一両に、貨車が一両。 客車が二両。

これが今日、ボルタまで走ったのだろうな、と思うと悔しい反面、嬉しくもあった。

ここまで、来れたんだな・・・・


カイトが感慨かんがいにふけっていると、「早く来い!!」とおっさんに呼ばれた。

ルルアムとガロフさんが、機関車の運転室へ乗り込むのが見える。

運転室で、何かアクシデントでもあったのだろうか??

招かれるまま、運転室へ乗り込むカイト。


「よし乗ったな、小僧! それじゃあこれから初の試運転に出るぞ!! 夜の試運転だ、何があっても、文句は言いっこ無しだからな!?」


ドワーフのガロフさんの言葉に、目を見開くカイト。

今この人、なんて言った!?


「え、もしかして今日はまだ、試運転していなかったんですか!?」


「うるせー!! 調整に思いのほか、時間がかかったんだよ! ガタガタ言うなら降ろすぞ、ゴラア!!」


カイトの驚きの声に、怒声をあげるガロフさん。

これに追従するように、ルルアムも口を開いた。


「『最初の列車は、私が運転するべきだ』と、ガロフさん達が譲らなかったのです。 でも私は、身分は奴隷なので・・・」


「こうして、夜に走らせる、と言うわけよ。 夜なら誰も見てないから、誰の文句も無いだろ?」


「ルルアム、運転が出来るの!?」


「当たり前だろ、バカやろう。 設計者が運転できなくてどうする!!???」


カイトの疑問に、いつもの調子を崩さないドワーフのおっさん達。

そしてカイトにも、つなぎが手渡される。


「真っ黒になるぞ、てめえもそのテラテラした服脱いで、それに着替えやがれ!!」


「ええ、俺も運転するんですか!!?」


「バカ、おまえは『魔石投入係』だ。 運転は難しいんだ、お前みたいなアホに任せられるか!!」


このやり取りに、隣に居るルルアムは、苦笑を漏らす。

他のドワーフたちは、それぞれ後ろの客車へ乗り込むようだ。

役者はそろった、と言う事か?


「さあ、無駄口たたくのはここまでだ。 出発するぞ! 小僧、そこのヒモを引け!!」


「えっと・・これ?」


甲高い汽笛と共に、ゴトン、と大きな音を出して進みだす、黒い鉄の塊。

真夜中な事もあって、辺りは一層、暗くなっている。

おかげで、満天の星空がより一層、えていた。

その中を、大きな音と共に進む黒いソレ。


人知れず異世界初の鉄道は、ベアルの街を後にして、闇の中へと消えて行った・・・



欲が出てきました。

飛行機が欲しい。

カイト、鉄道しか好きじゃないから、無理だろうな・・・・・

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