第172話・試運転
これからも、頑張って行きます。
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カラッと晴れた、ベアルの街の空。
高いところに雲はあるが、それがまた、いい雰囲気をかもし出している。
まるで、空の大きさを表しているようだ。
まるでベアルのこれからの行く末を、祝福しているようにも見える。
と、思っているのはこの街の領主様こと、カイトだけである。
このところ連日、ベアルはいい天気であった。
つまり雨が降っていない。
この街の主要産業のソギクは、魔素を吸って大きくなりはするものの、やはり植物なので水も当然、欠かせなかった。
街の農業従事者は、連日、広大な畑への水やりに、かなり骨を追っていた。
晴れは嬉しいが、あまり続くと嬉しくないのが、住民たちの総意であった。
カイトは毎度のごとく、そんな事は露ぞ知らない。
「今日は、記念すべき日だ! いい天気でよかった。」
寝起きで窓から外を見ていたカイトは、握り拳を作って、それをギュっと握り締めた。
カイトがここまで浮かれているのには、理由がある。
それは・・・・・
「むにゃ・・・・お兄ちゃんまだ、起きるのは早いよ・・・・・?」
窓から差し込んできた朝日で、眠っていたヒカリが起きだして来た。
寝起きなだけあって、髪はバクハツ中である。
寝ぼけ目をこするしぐさが、何とも可愛い。
「ヒカリ、今日は記念すべき日だぞ!? とうとう鉄道が走り出すんだ!!」
「『てつどう』・・? 走り出す??」
正確には、今日が『試運転初日』である。
先日ベアルからボルタへの、全ての鉄道設備が完成した。
次いでドワーフのおっさん達やルルアムの尽力もあって、鉄道車両もかなりそろってきた。
今、やっと1/3といったところだろうか??
試運転には、十分である。
「やっと鉄道に乗れる。 やっとここまで来れた!!」
「?」
カイトは、涙を流しながら感涙にふけった。
この世界に飛ばされて、早いもので三年。
好きだった鉄道が無く、作ろうにも様々な問題発生で、なかなかこれが、実現できずにいた。
だが、もう試運転の準備は整った。
天気は快晴。
ここら一帯を『気配察知魔法』で探索してみたが、特に異常事態といえるようなものは、何も見当たらない。
つまり、今日は予定通りに、試運転は行われる。
ちなみに動かすのは、ドワーフのおっさんである。
(ルルアムは、アリアの目に触れぬよう、今日も研究所にいる予定。)
俺は今日、『鉄道』に乗れるんだーーーー!!!
カイトは、心の中で、万歳三唱をした。
◇◇◇
「カイト様、今日と言う今日は、逃がしませんわよ? これから数日間は、私どもにお付き合い願いますわ。」
「・・・・・え・・・?」
朝食後、浮かれてステップを踏んでいたカイトを、アリアが引き止めた。
そしてとびっきりの笑顔で、そんな事を言ってきた。
かなり嫌な予感がする、カイトである。
「カイト様、一ヶ月ほど前に、『ベアルに冒険者ギルドを!』と言う提案を行いましたわね?」
「し・・・たけど・・・・・。」
冷や汗が止まらない。
俺の本能が、全身の細胞が、『今すぐここから逃げろ!!』と警鐘を鳴らす。
だが現状、何も言っていない彼女から逃げるなど、状態を悪化させることにしかならない。
カイトはこの警鐘を、無視する事にした。
「それに対して、先日まとめた書類を王都の『総督会』へ送りましたところ、『審査は会が開かれる、一年後に』と言われたのです。」
「そうなんだ・・・はは、じらすね~~。」
残念そうにするアリアに、薄笑いで返すカイト。
これは先日のアリアの報告でも分かっていたことなので、あまり俺は、気落ちはしない。
それより今は、今日行われるこの世界初の、『鉄道の試運転』である。
「しかし、ここからが朗報なのです。 カイト様、今すぐに王都の総督会事務所へ向かってくださいませ!!」
「え・・・?」
アリアは、先ほどとは打って変わり、今度は大変に嬉しそうな表情を浮かべてカイトに、『王都へ行く』事を促す。
むろんカイトは、背筋が凍りつきそうになる。
うーーーそーーーーーーーーだーーーーーーろーーーーーーーー!!????
「今から!? 明日じゃダメ? 実はこれから用事があってさ・・・」
「用事は私が引き受けます!! あなた様はさっさと、ギルドの総督議長の待つ王都の事務所へ向かってくださいまし!! 事は遅れれば遅れるだけ、悪い結果にしかなりません!!」
そ・・そんな・・・!?
今日だけは・・・!
今日というこの日は、この世界初の、鉄道がこの街を走るんだーーーーー!!
それに乗らなければ俺は・・・俺は!!!
「後生だ!! 今日だけは・・・・!」
「議長様が、直々にあなた様のお話を伺いたいと仰せなのです!! 今日の昼ごろに伺うと、連絡も済ませてあります。 あなたには転移があるのですから、大丈夫でございましょう!!???」
そういう問題じゃない!
それでは間に合わないんだ!!
鉄道の試運転はまもなく始まって、昼過ぎには終わって、調整に入るのだ。
『世界初の鉄道』が見れなければ、俺には後悔しか残らない!!
「お願いだ、せめて日にちをずらすだけでも・・・・」
「議長様に対してそんな事をすれば、この街へのギルド誘致は叶わなくなってしまいますわよ!? それでもあなた様は、良いのですか!?」
それは嫌だ!
でも鉄道が・・列車の試運転が・・・・!!
ギルドと鉄道。
まさに究極の選択だ!!
アリアに、「今日だけは!!」と懇願するカイト。
だがカイトの願いは結局、聞き届けられることは無かった・・・・
出ました、名物。
『いいとこで、最悪な展開に』
これが、この物語のいつものオチです。