第171話・完了
これからも、頑張って行きます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄席ください!!
「大公様、ご報告いたします。 駅とレールの敷設など、予定の全ての工事が、完了したとのことでございます。」
多くの書類を片手に、目の前でそう報告をしてくる騎士さん。
俺はそれを聞いた後、念押しをするように質問をした。
「近隣に、巨大な魔物などはいないね? 壊される心配はないね??」
カイトのコレに、苦笑交じりに言葉を返す騎士。
「ご安心ください、魔物はF級ですら確認されていません。 盗賊などもこれまで、一度も出没した事はないので、ご心配には及びません。」
「そうか・・・・・」
騎士の答えに、ホッと安堵のため息を漏らすカイト。
これまで彼は、いい所で何か起きては、予定が先延ばしなどに陥っていた。
今回のこれも、そこから来るものであった。
しかし今回ばかりは、ほとんどそういった事は、起こっていない。
彼が安堵するのも、無理はなかった。
ここに三年も勤めている騎士さんも、そのあたりは理解していた。
「ちょっと、出掛けてくるよ。」
「大公様、どちらまで・・・?」
「『研究所』さ。 夕方までには戻るよ。」
「そうでございますか・・・・行ってらっしゃいませ。」
研究所は街中にあるので、特に護衛やメイドを連れて行く義務はなかった。
騎士さんのこの質問も、そこから来るものであった。
「お兄ちゃん、今日も『研究所』に行くの? あそこつまんないよ。」
「ごめんなヒカリ。 大事なことがあるんだ。」
数日前以来、片時も離れてくれなくなったヒカリが、不満げな表情を浮かべる。
彼女の気持ちは分かる。
別に戦うとか、激しいことをするわけではなく、毎度する事といえば、『話し合い』。
彼女には、つまらなくて仕方が無い時間なのだ。
ならば屋敷でアリアと一緒に留守番して遊んでもらえ、と言えば『それは嫌だ』と言うので、連れて行くしかないのであった。
別につまらないからと言って彼女は、騒がしくしたりするわけでもないので、カイトは気にしない。
「お兄ちゃん、いつも好き勝手やってるんだから、今度手が空いているときに、遊んで。」
垢抜けない笑顔をこちらへ向けてくるヒカリ。
正直、可愛い。
可愛いが、彼女の『遊んで』は、街を殲滅ないし、蹂躙したいと言っているのと同じである。
前回が、そうだったのだ。
スラッグ連邦の邦都襲撃以来、すっかり味を覚えてしまったらしい。
「・・・常識的な、許される範囲内でな。」
「やったーーー!」
カイトが彼女にいえるのは、現状これが精一杯だった・・・・・
◇◇◇
「おせーーぞ、小僧!! さっさとこれを運び出しやがれ!! 次が出来ねえだろうが!!」
「ごめん、ごめん! いますぐ運ぶから!!」
研究所に到着して早々、カイトはドワーフのおっさん達に怒られた。
別に約束に遅れただとか言うことではなかったのだが、カイトは彼らに謝罪をした。
「これかい? 今日出来たと言うのは。」
「ああ、文句あるか?」
カイトたちの前にあるのは、いわゆる『貨車』が三両。
箱のような形の車体に、二対の車輪だけがある。
この中に、『鉄鉱石』や『その他の交易品』を入れるのだ。
彼らは鍛冶的な魔法でこれを作っていたので、出来るのが早い。
ちなみに昨日は、二両目の機関車が完成した。
「昨日も作った機関車が、あと何両か要るんだろ? それと同時進行だから、これからもこんなもんだ。 文句を言うなら自分で作れ!」
「文句なんか無いですよ! いつもありがとうございます。」
彼らに礼を述べた後、感慨にふける、カイト。
これで貨車は全部で六両。
実際は、『車掌車』的な車両が中に含まれているので、貨車は四両。
「ねえ、お兄ちゃん、『かしゃ』についてるあの、大きな丸いのは何?」
「ん、あれか? あれはこの列車を、止めるための設備さ。」
ヒカリが指差したのは、貨車の横についた、大きなハンドル。
これは正確には、非常用のブレーキハンドルである。
何かあったとき、これを回して、ブレーキをかけられるようにしたのだ。
ちなみに通常時は、『余剰魔素』を活用して、機関車からの制御でブレーキがかかる。
いわばこのハンドルは、『保険』のようなものだ。
使う機会がない事を、望む。
「一丁前に何を勝手に講釈たれてんだよ、小僧。 それはこの女の仕事だろうが、なあ??」
「い・・いえいえ! さすがはカイト様です。 昨日の一度のご説明だけで、覚えてしまわれるなんて。」
悪態をつくドワーフのおっさんに、慌てつつカイトを賞賛するルルアム。
彼の記憶はただ、『興味がある』から、忘れなかったダケである。
日本での、少しの知識もあるし。
それよりも。
カイトを賞賛する彼女の頬には、黒い汚れがついている。
もしかしなくても、列車作りの最中に付いたものであろう。
着ているボテッとした作業着も、黒く汚れている。
前の彼女を考えれば、信じられないことであった。
それだけ彼女が頑張っているという、証明でもあった。
「いやー、頑張ってるな~~。」
「は、なんだそりゃ??」
彼女の『昔』を知らない彼らは、真面目で聡明な彼女しか知らないので、カイトの言葉の意味は、通じない。
それが、彼女にいい影響を与えたのだ。
これからも彼らに、それを教える気は無い。
何より、『俺だけが知っている事』とか、なんだかロマンを感じるし。
「おい、小僧!! うす気味悪い笑顔を見せてねえで、さっさと出来た貨車を、駅に持ってけ! 俺たちは次の仕事で忙しいんだ!!」
「あーー、ごめんごめん。」
収納の魔法に、大きな貨車三両を入れるカイト。
相変わらずの、能力バカである。
「明日も、今日位に来ればいいかな?」
「さあな、へんな時間に来たらたたき出すとだけ言っておく。」
「エー? それじゃ分かりませんよ!?」
次に彼らが作るのは、『客車』。
数日後に控えた『試運転』に備えて、彼らには様々なこの路線で走る予定の、車両を作ってもらっている。
カイトは出来た貨車を手に、ベアルの商業地区に出来た駅へ、ヒカリと共に向かった。
ここには、機関車二両に貨車など六両がある。
この世界初の鉄道は、もう目前であった・・・・
路盤などの鉄道施設は、完成。
車両作りなども、順調のようです。