第170話・魔導機関車
説明口調の話です。
魔導機関車の形などが説明されます。
「よー、諸君の皆様!! お約束どおり『一週間後』に参上しました。」
「--ったく、昼休憩と同時に現れんじゃねえよ、このボケナス。」
カイトのバカっぽい挨拶なぞガン無視で、悪態をついてくるドワーフのおっさん。
俺はただ、言われたとおりの時間にやってきただけである。
理不尽だ。
「『れーるていけつ式』とか何とかはどうした? 今日じゃなかったのか??」
「そうだ。 これでもう、今すぐにでも運行開始が出来るんだろう?」
「それは昨日。 それにレールが一本つながっただけで、交換設備も駅も、まだ出来ていない所は沢山あるんだ。 開業はまだ先だよ。」
カイトのこの言葉に、「なーんだ」と、ため息をつくおっさん達。
鉄道は、そんなに軽く出来るモノではないのだ。
でも積み重ねのおかげで、ここまで来れたのだ。
「こ・・これはカイト様、このような場所へようこそ、おいでくださいました!!」
「よ、相変わらず頑張って・・・」
「きゃああああああああああああ!!??????」
ここまでカイトが発したところで、ルルアムが悲鳴を上げて卒倒した。
床に叩き付けられる前に、それを抱きかかえるおっさん。
ほっとしたが、なぜ彼女は卒倒したのか。
ここにいるのは、俺とドワーフのおっさんと・・・
「お兄ちゃん、あの人健康そうだよ? どうして倒れたの??」
「・・・・。」
ヒカリが居るの、忘れてた・・・
彼女は不思議そうに、倒れたルルアムの方を指差す。
彼女の胸元には、赤黒い魔石が輝いている。
これが露出していないと、居心地が悪いのだそうだ。
彼女は、ようするにこの世界で『恐怖』の対象となる、魔族である。
イロイロあって屋敷に居るのだが、今でもっても、彼女をはじめてみた者は、こうして卒倒する。
彼女の存在を忘れ、配慮を怠ると、こうなる。
「あー、ルルアム!? 起きて!! 彼女は問題ないから!!」
ペシペシと、彼女を起こそうとするカイト。
だが彼女を起こしたら、どう言って説明する事やら・・・・
◇◇◇
「そ・・そうだったんですか、記憶をなくされた魔族・・・変わった方ですのね。 ははは・・・」
「うん、驚かせてごめんね。」
あの後、気がついた彼女に結局、洗いざらい全部を話したカイト。
隠したところで、この世界では『ステータス』などで種族は、すぐにバレてしまう。
俺の魔法での隠蔽の方法もあったが、そんな危ない橋を渡るより、本当のことを教えてしまう事にしたのだった。
彼女も、ヒカリのその、年相応の態度に、少しは警戒を解いたようだった。
もともとヒカリに、誰かに対する『敵意』なんて無いし。
「ではカイト様、『魔導機関車』のご説明に入らせていただきます。」
「うん、よろしく。」
そうルルアムが言うのと同時に、大きな倉庫の扉がゆっくりと、開いていった。
同時に、暗闇だった倉庫の中に光が差し込み、大きくて、黒光りするそれが姿を現した。
「おおお・・・・・!!!」
少し前に一度、おっさん達には設計図などは見せてもらっていた。
助言をしたりして、より俺の知っている『蒸気機関車』らしい形に仕上げていった。
だが、二次元の設計図と、実際に見る現物は、もうまったく別モノに見えた。
「カイト様のご助言を基礎にして、『動輪』は二対としました。 それに車体を支えるための補助車輪が、一対の計、六つの車輪があります。」
魔石の量などをかんがみて、あまり大きな機関車は出来なかった。
そこで動輪などを減らした。
そうなると必然的に、車体も小さくせねばならない。
形は近いモノで言えば、『一号機関車』がそれに近い。
日本で最初に走った、SLだ。
次に俺は、機関車の運転室へ案内された。
そして、石炭を入れるような扉の説明を受けた。
「ここから適宜、魔石と炭を投入します。 この中では常に炭で炎を起こし、そこへ魔石を投入して、より大きな力を得ます。」
「なるほど。」
魔石は、熱ければ熱い環境下に置かれるほど、その魔素の放出量が上がることが判明した。
その中で特に、最適な魔素を放出してくれるのが、大体200℃ほどであったらしい。
炭をくべて燃やすことで熱したこの中に、魔石を入れれば、かなりの魔力が抽出できる。
これは機関車の動力とするのだ。
ここまで説明をしたところで、ルルアムは再び運転室の外へ出た。
彼女はなんだか、イキイキしている。
それを見ていると、俺の嬉しさもひとしおだ。
「『ボイラー』の上にある三つの突起のうち、運転室側にあるのが、走る事で受ける風を押し出して鳴る『汽笛』です。」
これは、俺が提案したものだ。
原理としては、『笛』のようなものだ。
魔物に効き目はないが、『警告』位にはなりえる。
「真ん中の大きな四角い箱は、『媒体庫』です。 漏れ出た魔素をここに入れた、魔石ガラに吸収させます。」
魔石から出た魔素は、すべてをエネルギーに代えられるわけではない。
漏れでた余剰な魔素は、そのまま空気中へ霧散してしまう。
これは一度ならば問題は無いが、鉄道は一日何度も往復する。
そうなると、漏れ出た魔素は空気中にどんどん溜まっていき、下手をしたらボルタとベアルの森が、魔窟になってしまう危険性すらあった。
なにより、漏れ出る魔素がもったいない。
そこで、『媒体庫』と言う魔石ガラの保管庫を『ボイラー』の上部に設け、漏れ出た魔素を吸収させようという考えだ。
これならば、一石二鳥である。
「最後に一番前にあるのが、炭の燃えカスなどを排出する『煙突』になります。 ちなみにですが、機関車の前部は開くようになっていて、そこから入って定期的に点検などをします。 それと、車輪ですが・・・」
彼女の説明は、とどまる事を知らなかった。
その一つ一つを聞く度に、『鉄道が出来た』という実感がわく。
「お兄ちゃん、私、眠くなってきちゃった・・・・」
「ごめんな、もう少し辛抱して。」
ヒカリには難しかったようだ。
コイツを、早く試運転してみたいものだ。
動いたとき、どんな音がするだろうか・・・
カイトは期待に、胸を躍らせるのだった。
魔導機関車の運行原理についての補足説明。
①ボイラーに、炭をくべてそこへ火を入れる。
上記は、定期的に炭をくべて、温度調節を行う。
②そこへ石炭車から出した魔石を、少量入れる。
(魔石は、あまり高密度で入れると魔素の放出が少なくなるので、気をつけねばならない。)
③出てきた魔素は、魔力伝道管を通って、動力棒へ伝達。
④魔力で動力棒が動き、車輪が回転する。
効率を上げるため、動力棒一つで二つの動輪が回る。
※石炭車とは、魔石と炭を入れる炭水車のようなもの。
今回の機関車には、重量の関係で、『石炭庫』しかない。
※燃やした炭により発生した煙は、前部の煙突から吐き出される。
あと、ブレーキは普通です。
外側からパットを押し付けて、その摩擦で減速させます。