第169話・たかが50キロほど されど50キロほど
これからも、頑張って行きます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
今私たちは、ボルタに居ります。
今日は『れーるていけつしき』なるものが、この街で催されるそうです。
催されると言っても、先日カイト様が、勝手にお決めになった事ですが。
それをお決めになって以来、カイト様の浮かれようは大変なものでした。
そして彼は、この式典に「みんなに参加してもらおう!!」と、屋敷の者全員を誘ったようです。
結局、皆忙しい事もあって、来たのは護衛の騎士が三人に、メイドが四人。
私とヒカリだけでした。
ノゾミは、バルアに散歩へ行ってしまったようでした。
「ヒカリ、いい加減機嫌を直してくれよ。」
「お兄ちゃん、この間も私を置いていったじゃん! もう大嫌いだからね!!」
ヒカリは、先ほどからずーっと、この調子です。
カイト様はよく、ヒカリを置いて、どこかへ行ってしまわれます。
それが、彼女には気に食わないようです。
愛されてますわねー、カイト様。(棒読み)
彼の困った顔を見ると、実に笑えてきます。
「フフ・・・カイト様、かなりヒカリに嫌われておいでですわね。」
「アリア、笑ってないでどうにかしてくれよ。 これじゃあ、この後困るんだぞ??」
「元はと言えば、ヒカリを置いていったことが、いけないのですわ。 ねえ、ヒカリ?」
「うん。」
私がヒカリにそう問うと、彼女は満面の笑みで答えてくれました。
ぐぬぬ・・・と、カイト様は悔しそうな面持ちをしておられます。
今回ばかりは、実は私も悪いのですが。
先日カイト様がいつも通りお出かけになるとき、彼はヒカリを探したそうです。
でも見つけたとき、彼女は私と一緒に居たそうです。
それでカイト様は、あえて彼女に、声をかけなかったようです。
彼らしいです。
私とヒカリは、結構行動を共にすることが多いのです。
覚えは無数にあるので、カイト様がお見かけしたのはどの時だったのか、特定は出来ませんでした。
そのせいでこうなったと思うと、彼には少し、申し訳ない気持ちになります。
まあ、それ以外でも何回か、彼は彼女を置いていっているので、今回のこれは、お灸をすえると言う意味で、我慢をしていただきましょう。
特に今回の式典で『領主の挨拶』のようなことは無いらしく、早速カイト様は騎士の者から、ハンマーや釘などを受け取っていました。
あれで、『れーるていけつ式』なるものを行うようです。
来ている者全員に、これを一つずつ渡していくカイト様。
しかし案の定、ヒカリはこれを、受け取ろうとはしませんでした。
問題は特にありません。
私やメイドの者たちも参加するので、やる者がいないと言う事にはならないのです。
ですが、カイト様的にはこれはダメでしょうね。
『みんなで楽しむ』が、彼の流儀のようですから。
ノゾミのように、どこかへ行ってしまったなどの、どうともしようが無い事を除き、カイト様はヒカリにも、この式を楽しんでもらわないと、気が収まりそうにありません。
ですが彼女は、本当に怒っています。
このままでは、ただ時間が過ぎてゆくばかりです。
・・・・仕方がありませんね、彼女を説得しますか。
ヒカリを招くと、彼女は目の前のカイト様を無視して、こちらへ高速でやってきます。
かなり速いです。
このままぶつかったら、私はかなり遠くまで吹っ飛ばされてしまうのではないでしょうか?
幸い彼女は、いつも寸での所で止まってくれるので、被害が及んだことは無いですが。
「なあに、お姉ちゃん?」
「ヒカリ、カイト様が困っておりますわよ? いい加減、機嫌を直してやってはどうですか?」
私のこの発言に、彼女はキラキラした笑顔から途端に表情を曇らせ、ブスッとした顔立ちになりました。
彼女は見た目が幼いので、迫力は微塵も無く、ただ可愛いだけです。
「だって、お兄ちゃんの事、嫌いになったんだもん!」
それだけ言って、私からもそっぽを向くヒカリ。
おやおや、随分と見た目相応の発言です。
彼女が反抗期真っ盛りの子供に見えてしまった私は、おかしくは無いでしょう。
この切り返しは、予想できていました。
だからこの切り返しは、結構利くと思います。
「本当に、彼の事が嫌いになってしまったのですか?」
「・・・・・。」
顔を赤く膨らせ、そっぽを向いたままのヒカリ。
もう一歩、と言ったところでしょうか?
「それならば、仕方ありません。 ヒカリ用に、お屋敷に専用スペースを設けて、彼が入ってこれなくしましょう。 こうすれば、カイト様はきっと、入ってきたりはしませんわ。」
「だ・・・ダメ!!」
「どうしてですか? 彼が嫌いになったのなら、顔も見たくないのでは??」
イジワルです。
彼女に少し、イジワルをしてみます。
グイグイ言ったほうが、効果は上がります。
「私との部屋は近く設定しますから、ほとんど今まで通りですわよ? カイト様には会えなくなるだけで。」
私のここまでの言葉に、激しく首を横に振るヒカリ。
何か言いたそうですが、声になっていません。
・・・って、泣いているんですか!??
作戦、失敗です。
効果が上がりすぎました。
あああ、ごめんなさい、ヒカリ。
私は何も、あなたを泣かせたくてこんなイジワルをしたわけではないのです!!
「でもお兄ちゃん・・・グス・・・いつも私を置いていってさ・・・」
あ、大丈夫のようです。
彼のことを話し出しました。
作戦は成功のようです。
良かった・・・・・・・
それなら、言う事は決まっています。
「ならヒカリ。 これからは、終始カイト様と手をつないでおけば良いのですわ。 そうすれば、彼に置いて行かれる事はありません。 ね? ですから今日は、その辺りで機嫌を直して、彼に協力してあげてください。」
コクリと一度だけ彼女はうなづくと、カイト様の横へ行って、早速手をつなぎました。
たじろぐカイト様でしたが、特に彼女を拒むような事はありませんでした。
この後、『れーるていけつ式』も無事終わり、私たちは再び、ベアルへと戻りました。
この一件の副作用として、カイト様から本当にヒカリが離れなくなってしまい、私までそれに巻き込まれる格好となってしまいました。
はい、そこは失念していました。
・・・嫌ではないですけどね。
ベアル=ボルタ間は、距離にして約50キロほどの距離です。
これが、当タイトルの由来です。