第168話・間違いだらけ
これからも、頑張って行きます。
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太陽がちょうど、真上に位置するころ。
ベアルの街には、大聖堂の鐘が鳴り響き、住民たちに昼の訪れを知らせる。
この鐘を合図に、街の住民たちは仕事の手を休め、『昼休憩』を取り始める。
そんな、まったりとした時間が流れ行こうとする時刻。
街を貫く街道を、早馬よりも速いスピードで駆け抜ける、白い服装の青年の姿があった。
最初は何事かと、顔をのぞかせた街の住民たちも、正体が分かると、興味をなくしたかのように、いつもの休憩に戻る。
その青年は、『鉄道研究所』と書かれた看板を出す、先日建てられたばかりの大きな建物に、そのままのスピードで入っていった。
「はあ、はあ・・・・・試作機ができたって本当か!?」
建物に入ると同時に、先ほど聞かされた『ある報告』について質問をするその青年。
言わずもがな、この街の領主、カイトである。
大急ぎで来たようで、彼は肩で息をしており、顔からは汗が流れているのが見える。
「・・・小僧、今は昼休憩中だ。 邪魔すんな。」
特に、ここまで走ってきたカイトを気遣うでもなく、邪険に扱うドワーフのおっさん。
おっさん達はテーブルを囲んでおり、その上には、焦げた物体Xが並んでいた。
それを気にするでもなく、口へ運ぶおっさん達。
「こ、これはカイト様! お忙しい中、このような所へようこそ、おいでくださいました!!」
「やあ、頑張っているっぽいね。 ふう、ふう・・・」
呼吸を整えつつ、おっさん達にまぎれてテーブルを囲んでいたルルアムに、挨拶を返す。
この物体X・・もとい料理をしたのは、彼女である。
最近彼女は、昼やお茶などで出す、料理やお菓子を、自分で作るようになっていた。
・・・と言っても、貴族時代からもともとそんな、メイドがするような事をしていたはずも無く。
最近始めた料理が、いきなり美味いはずも無かった。
要するに、失敗続きであった。
それは、目の前に並べられた、黒こげ料理が物語っている。
これでも最近は、見た目はともかく味は何とかイケル位には、成長していた。
彼女はそこそこ、器用なようだ。
「最近、料理の腕前も上達したようだね。」
「そ、そんな、とととてもカイト様にお出しなどは・・・・」
「おーそうだぞ、カイト様。 昼休憩中に突入してくるような無礼なテメーになぞ、かけらたりともやらねえからな?」
ルルアムの言葉にかぶせるように、カイトをおちょくって来るおっさんの一人。
「そういうつもりで言ったのでは・・・」と、更にあわてた態度をとるルルアム。
実ににぎやかだ。
ここは来ると、なんだか落ち着く。
屋敷とはまた違って。
そうそう、リラックスし過ぎて、ここへ来た用事を、うっかり忘れそうになってしまった。
これを見なければ、ここまで来た意味が分からなくなってしまう。
「機関車の試作機が出来たって聞いてきたんだけど。」
「ああ、『魔導機関車』な。 そっちの部屋の鍵付の倉庫に保管してある。 無礼なお前には見せてやらん。」
「え~~~、そんなーー!」
このイジワル(?)も、いつもの事だ。
俺が訪ねて来ると、どんな時でもこの調子である。
このおっさん達は、無愛想で困る。
いつもなんだかんだで、こちらの要求は聞いてくれる、優しい人たちなのだけれど。
「ちぇ~~、イジワルだなー。 いいですよ、じゃあ、こっちで昼休憩が終わるまで待ちますから。」
「待ってても、見せてはやらんからなー。」
来た時間が悪かったのは、事実だ。
報告にびっくりしてしまい、なりふり構わずに来てしまったのだ。
こちらが待つのが礼儀である。
別に忙しくも無いしね。
近くの空いた、椅子に腰掛けようとすると、ルルアムが何か言いたげにしているのが見て取れた。
彼女も何か、用事だろうか?
「ルルちゃん、どうかした?」
「ああ・・・あの・・・よ、よろしければ、私がご案内差し上げても、よろしいですか?」
「・・・・え?」
ルルアムは、とても恥ずかしそうに小さな声でそういった。
間違いなく。
彼女は、『魔導機関車』の案内をしてくれると、そう言った。
彼女は助手とはいえ、実際には触らせてすら、もらえていない筈である。
が、そんなウソをつく女性ではない事も、よく分かっている。
カイトの驚きも並々ならないモノであったが、ドワーフのおっさん達はそれ以上に、驚きおののいた。
「ルルアム、てめえ本当に小僧を案内できるのか!? 俺たちはお前には、魔導機関車の原理なんざ、何一つだって教えちゃいないぞ??」
このおっさんの言葉に答えるように、彼女は胸元から一冊のノートっぽいのを取り出した。
前にカイトが、『日記を書いている』と言っていたルルアムにプレゼントしてやったものである。
「読んでください」と言わんばかりに、おっさんにこれを差し出すルルアム。
疑心暗鬼といった感じで、これを開いて中のページに視線を落とすおっさん達。
その目が、途中から驚愕の色に、染まっていった。
「・・・る、ルルアムよ、これはお前が、全部書いたのか?」
「皆さんが作業されている間に交わされていた言葉と、この研究所にあった『魔術』に関する本の内容を元に書いたのですが・・・ すいません、間違いだらけだったでしょうか??」
ドワーフのおっさんの質問に、上目遣いに悲しげな表情を浮かべるルルアム。
再度彼らは、ノートの中を覗き見る。
そしておっさんの一人が、口を開いた。
「ああ、間違いだらけだ。 だがお前がじゃねえ。 俺たちのほうだ。」
「・・・・・・・・え?」
おっさん達も、賛同するように首を縦に振る。
ん、どういうことだ??
「小僧、やっぱり無礼なお前には、今日は見せん!! 一週間後に出直して来い。」
「昼休憩のときに来たら、叩き出すからな!?」
「え~~、今日はーー!?」
せっかくここまで来たのに、この日カイトは、結局何も見せてはもらえなかった・・・・
こんな事まで書くから、鉄道が遠くなるって、今頃になって気がつきました。
手遅れですが。




