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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第8章 カイトの願望
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第167話・解放はダメなのか

これからも、がんばっていきます。

感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!

先日、朗報があった。

駅馬車組合に出した。『鉄道開業のあかつきには、この運行を委託したい』というこちらの意向が、晴れて受諾されたのである。

以後、『鉄道反対』の声は、まったく聞かない。

最初、この話を聞いたときは、肝を冷やしたものだ。

ルルアムの助言がなければ、終わっていたかもしれない。


「俺は、相変わらず助けられてばかりだな~~。」


俺は、本当に一人では何もできないのだな、とつくづく思う今日この頃。

日本にいた頃、『俺は何でもできる』とか無駄に自信だけあったのが、実に懐かしい。

この世界に来て、鉄道が無いことを知ったときには、絶望したものだ。

だが三年が経った今、俺はここまで来た。

鉄道の開業は、もう目と鼻の先だ。


今考えているのは、その後のこと。


「これって・・・・破ったら終了なんだっけ?」


カイトは三十枚弱の、紙切れを手に、頬杖をついた。

彼が手にしているのは、『隷属契約書』

先日王都から買ってきた、奴隷たちの契約書である。

今は、カイトが所有者となっており、そのサインも契約書にある。

カイトが考えているのは、奴隷解放について。

鉄道ができれば、彼らは自由にする心積もりであった。

契約書は、破ってしまうと契約が解消される。

ようするに、奴隷たちは奴隷で無くなる。


「今からでも、破っちゃおうかな?」


カイトは、思い立ったら行動する。

書類のまず一枚に、手を掛けるカイト。


コンコン!

「カイト様、少々よろしいですか?」


「!!?」


寸でのところで、アリアが部屋に来訪し、カイトは咄嗟とっさに書類の束を机の引き出しの中に入れた。

別にやましい事をしていたわけではないのだが、条件反射的に・・・・


「失礼しますわ。」


「いらっしゃい、何かあった?」


「おや、用が無くては来てはいけませんでしたか?」


「・・・・ん?」


アリアが入室と同時に言った言葉の意味が、分からない。

まさか、ヒマで遊びに来たのか??

俺の困惑の表情に、微笑ほほえみを浮かべるアリア。


「用と言うわけではないのですが・・少々お聞きしたいことがありまして。」


「俺にわかることなら。」


遊びに来たわけでは、やはり無い様だった。

でもアリアのほうが俺よりよっぽど頭が良くて物知りなので、俺に聞いて分かることはあまり無いと思われる。

そんな俺の疑問をよそに、丸められたこのあたりの地図を机の上に広げるアリア。

そこには、建設中の鉄道の工事予定が事細かに記されていた。


「へ~~、作ったんだ?? スゴイね。」


「・・・・・工事現場にも、同じものがありますが?」


「マジで!??」


それは初耳だ。

今度見せてもらおう。

なんか気になる。


「私がお聞きしたいのは、ルート上に設けられた二つの、レールが並行した箇所です。」


アリアがそう言って指差すのは、『交換設備』。

ベアル=ボルタ間は、単線である。

これは工期的にも予算的にも、そうせざるおえなかった。

が、そうなると開業後の列車の本数は、限られたものになってしまう。

そこで、随所ずいしょにこういった、列車が交換できる場所を作ったのである。

日本で言う、『信号所』に近い。


カイトのこの説明に、アリアも納得したようだった。


「なるほど、お考えになっているのですね。」


「一応ね。」


ふむ、と一考するアリア。

質問と言うのは、これだけだろうか?


「カイト様、念のため言っておきますが、この工事が終了しても、奴隷たちは解放してはなりませんよ?」


「え、どうして?? 自由にさせてやればいいじゃん!!」


カイトのこの発言に、『やっぱり・・・』と言った表情を浮かべるアリア。

無論彼女も、利権がどーたらとかで、こんなことを言ってる訳ではない。

一度ため息をつき、カイトに説明を始めるアリア。


「カイト様、では解放された奴隷はどうなるとお思いですか? 彼らの多くは元、犯罪者でした。 経歴に傷があることは、変わらないのですよ?」


「いや、でもそれとこれとは・・・・」


カイトのこの発言に、かぶりを振るアリア。

これにより、カイトも話を途中で止める。


「カイト様、一度奴隷になったものは、解放されても偏見の対象になるのです。 かせの跡などから、これは分かってしまうのです。」


「それは、俺の魔法で・・・」


カイトは、魔法でその跡とやらも、消してしまおうと考えていた。

だがその考えは、この世界では甘すぎた。

かぶりを振りながら、「それに・・・」と付け加えるアリア。


「生まれてからずっと奴隷の者も中にはいます。 その者は解放をしても、路頭に迷ってしまいます。 カイト様はそれをお望みですか?」


アリアは、カイトを鋭い眼光で見つめる。

奴隷解放はいいことと考えていたカイトは、この話に、現実と言うものの厳しさを突きつけられるのであった。


「あなた様が奴隷解放を考えておられたのは、薄々分かっておりました。 ですが今はどうか、ご自重くださいませ。」


アリアの言葉に、ただうなづく事しかできないカイト。

さっき、契約書を破らなかったのは、皮肉なことに正解になってしまったようだった。

『奴隷』という者が日本にはいなかった。

だからその辺りをカイトは、甘く考えてしまうのだった。


カイトのこの態度に、満足そうにしたアリアは、地図の上に指を置いた。

そしてカイトに、もう一つ、質問をした。


「このルート上にある橋の工事が、何も書かれていないまま完成していたと言う話を、現場から聞いたのですが・・・ご説明いただけますね?」


「・・・・ハイ。」


奴隷に関しては、後で考えることにした。

今は、現状を乗り切ることで、精一杯のようなので。


◇◇◇



「ふむ、朗報だな。」


港の辺りに、鉄道敷設用の大きな空き地が造成され、『駅』になる予定の建物の建築も開始した港湾都市、ボルタ。

その港の一角の倉庫の中で、バルカンが満足そうな顔をしていた。


「はい闇貴族様、近々この領でも、奴隷の取引が解禁されるとの事です。」


最近まで、この領地では奴隷の取引が禁止されていた。

金になる商売ができなかったことで、バルカンには不満が募っていた、

そこで、この報告である。

うれしくない訳が無かった。


「おいブタ、それなら大量に発注しろ!! 今はグレーツクを攻めるための、兵がいるんだ。」


「お待ちください、闇大帝様。 解禁まではまだ、日があります。 今動いては、われわれの動向がバレてしまいかねません。」


バルカンの言葉に、不満を募らせつつ何も言い返せない元、スラッグ連邦の大帝。

だがバルカンとて、何も行動を起こさないわけではない。


「おい、おまえ! ちょっと王都まで行って、いい奴隷を見繕って来い! 闇ルートのをな!! 解禁され次第、すぐに出荷ができるようにするのだ!!」


「お任せください、闇貴族様!!」


闇ルートとは、誘拐や売買などで仕入れられた、奴隷のことである。

これを認めていない国は多く、それらは闇ルートで取引されていた。

ようは安く、手に入る者たちなのだ。

それを彼らは、帝国などに『正規品』として、高く売って、大もうけするつもりなのだ。

その資金で武器を買い、奴隷兵を育てる心積もりだ。


まさに相も変わらず・・・であった。

彼らの黒い算段は、続く・・・・・


あと、十話以内に鉄道を開業させたい・・・・

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