第167話・解放はダメなのか
これからも、がんばっていきます。
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先日、朗報があった。
駅馬車組合に出した。『鉄道開業の暁には、この運行を委託したい』というこちらの意向が、晴れて受諾されたのである。
以後、『鉄道反対』の声は、まったく聞かない。
最初、この話を聞いたときは、肝を冷やしたものだ。
ルルアムの助言がなければ、終わっていたかもしれない。
「俺は、相変わらず助けられてばかりだな~~。」
俺は、本当に一人では何もできないのだな、とつくづく思う今日この頃。
日本にいた頃、『俺は何でもできる』とか無駄に自信だけあったのが、実に懐かしい。
この世界に来て、鉄道が無いことを知ったときには、絶望したものだ。
だが三年が経った今、俺はここまで来た。
鉄道の開業は、もう目と鼻の先だ。
今考えているのは、その後のこと。
「これって・・・・破ったら終了なんだっけ?」
カイトは三十枚弱の、紙切れを手に、頬杖をついた。
彼が手にしているのは、『隷属契約書』
先日王都から買ってきた、奴隷たちの契約書である。
今は、カイトが所有者となっており、そのサインも契約書にある。
カイトが考えているのは、奴隷解放について。
鉄道ができれば、彼らは自由にする心積もりであった。
契約書は、破ってしまうと契約が解消される。
ようするに、奴隷たちは奴隷で無くなる。
「今からでも、破っちゃおうかな?」
カイトは、思い立ったら行動する。
書類のまず一枚に、手を掛けるカイト。
コンコン!
「カイト様、少々よろしいですか?」
「!!?」
寸でのところで、アリアが部屋に来訪し、カイトは咄嗟に書類の束を机の引き出しの中に入れた。
別にやましい事をしていたわけではないのだが、条件反射的に・・・・
「失礼しますわ。」
「いらっしゃい、何かあった?」
「おや、用が無くては来てはいけませんでしたか?」
「・・・・ん?」
アリアが入室と同時に言った言葉の意味が、分からない。
まさか、ヒマで遊びに来たのか??
俺の困惑の表情に、微笑みを浮かべるアリア。
「用と言うわけではないのですが・・少々お聞きしたいことがありまして。」
「俺にわかることなら。」
遊びに来たわけでは、やはり無い様だった。
でもアリアのほうが俺よりよっぽど頭が良くて物知りなので、俺に聞いて分かることはあまり無いと思われる。
そんな俺の疑問をよそに、丸められたこのあたりの地図を机の上に広げるアリア。
そこには、建設中の鉄道の工事予定が事細かに記されていた。
「へ~~、作ったんだ?? スゴイね。」
「・・・・・工事現場にも、同じものがありますが?」
「マジで!??」
それは初耳だ。
今度見せてもらおう。
なんか気になる。
「私がお聞きしたいのは、ルート上に設けられた二つの、レールが並行した箇所です。」
アリアがそう言って指差すのは、『交換設備』。
ベアル=ボルタ間は、単線である。
これは工期的にも予算的にも、そうせざるおえなかった。
が、そうなると開業後の列車の本数は、限られたものになってしまう。
そこで、随所にこういった、列車が交換できる場所を作ったのである。
日本で言う、『信号所』に近い。
カイトのこの説明に、アリアも納得したようだった。
「なるほど、お考えになっているのですね。」
「一応ね。」
ふむ、と一考するアリア。
質問と言うのは、これだけだろうか?
「カイト様、念のため言っておきますが、この工事が終了しても、奴隷たちは解放してはなりませんよ?」
「え、どうして?? 自由にさせてやればいいじゃん!!」
カイトのこの発言に、『やっぱり・・・』と言った表情を浮かべるアリア。
無論彼女も、利権がどーたらとかで、こんなことを言ってる訳ではない。
一度ため息をつき、カイトに説明を始めるアリア。
「カイト様、では解放された奴隷はどうなるとお思いですか? 彼らの多くは元、犯罪者でした。 経歴に傷があることは、変わらないのですよ?」
「いや、でもそれとこれとは・・・・」
カイトのこの発言に、かぶりを振るアリア。
これにより、カイトも話を途中で止める。
「カイト様、一度奴隷になったものは、解放されても偏見の対象になるのです。 枷の跡などから、これは分かってしまうのです。」
「それは、俺の魔法で・・・」
カイトは、魔法でその跡とやらも、消してしまおうと考えていた。
だがその考えは、この世界では甘すぎた。
かぶりを振りながら、「それに・・・」と付け加えるアリア。
「生まれてからずっと奴隷の者も中にはいます。 その者は解放をしても、路頭に迷ってしまいます。 カイト様はそれをお望みですか?」
アリアは、カイトを鋭い眼光で見つめる。
奴隷解放はいいことと考えていたカイトは、この話に、現実と言うものの厳しさを突きつけられるのであった。
「あなた様が奴隷解放を考えておられたのは、薄々分かっておりました。 ですが今はどうか、ご自重くださいませ。」
アリアの言葉に、ただうなづく事しかできないカイト。
さっき、契約書を破らなかったのは、皮肉なことに正解になってしまったようだった。
『奴隷』という者が日本にはいなかった。
だからその辺りをカイトは、甘く考えてしまうのだった。
カイトのこの態度に、満足そうにしたアリアは、地図の上に指を置いた。
そしてカイトに、もう一つ、質問をした。
「このルート上にある橋の工事が、何も書かれていないまま完成していたと言う話を、現場から聞いたのですが・・・ご説明いただけますね?」
「・・・・ハイ。」
奴隷に関しては、後で考えることにした。
今は、現状を乗り切ることで、精一杯のようなので。
◇◇◇
「ふむ、朗報だな。」
港の辺りに、鉄道敷設用の大きな空き地が造成され、『駅』になる予定の建物の建築も開始した港湾都市、ボルタ。
その港の一角の倉庫の中で、バルカンが満足そうな顔をしていた。
「はい闇貴族様、近々この領でも、奴隷の取引が解禁されるとの事です。」
最近まで、この領地では奴隷の取引が禁止されていた。
金になる商売ができなかったことで、バルカンには不満が募っていた、
そこで、この報告である。
うれしくない訳が無かった。
「おいブタ、それなら大量に発注しろ!! 今はグレーツクを攻めるための、兵がいるんだ。」
「お待ちください、闇大帝様。 解禁まではまだ、日があります。 今動いては、われわれの動向がバレてしまいかねません。」
バルカンの言葉に、不満を募らせつつ何も言い返せない元、スラッグ連邦の大帝。
だがバルカンとて、何も行動を起こさないわけではない。
「おい、おまえ! ちょっと王都まで行って、いい奴隷を見繕って来い! 闇ルートのをな!! 解禁され次第、すぐに出荷ができるようにするのだ!!」
「お任せください、闇貴族様!!」
闇ルートとは、誘拐や売買などで仕入れられた、奴隷のことである。
これを認めていない国は多く、それらは闇ルートで取引されていた。
ようは安く、手に入る者たちなのだ。
それを彼らは、帝国などに『正規品』として、高く売って、大もうけするつもりなのだ。
その資金で武器を買い、奴隷兵を育てる心積もりだ。
まさに相も変わらず・・・であった。
彼らの黒い算段は、続く・・・・・
あと、十話以内に鉄道を開業させたい・・・・