第163話・建設状況・・・の前に。
これからも、頑張っていきます。
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今日の天気は、晴れ。
空には雲ひとつなく、山脈から吹き下ろす風はこの上なく、心地よい。
まさに、絶好の『鉄道建設日和』である。
・・・・どんな日和だろうか?
そんな事お構いなしに、カイトは大きく深呼吸をした。
「大公様、お呼びになりましたか?」
「お、早いね。」
背後からクレアさんの声がして、カイトは窓から眺めていた、外の景色から視線をはずし、室内のドアの方へ顔ごと向けた。
それに呼応するように、一礼するクレアさん。
彼は先ほど、用事があって出掛ける事となり、その為にお付きの者を手配したのだった。
カイトは、これまでの数々の愚行により、その行動を、厳しく制限された。
それが、この『お付の人の手配』に他ならなかった。
ちなみにカイトはタマに、これを忘れては、皆に怒られる。
「残念ながら、本日は私は大公様に付いていく事はかないません。 代わりに手の空いていた、セリアを向かわせようと思っていたのですが、よろしいですか?」
「ん・・あー。 セリアさんね・・・じゃあ、護衛は・・・・・・」
クレアさんから出てきた、『セリア』と言う女性の名前。
この屋敷のメイドの一人である。
三年ほど前、騎士様の剣で怪我をしてしまった、もと王宮のガーデナーメイドさんである。
ちなみにこの屋敷でも、王宮時代同様の仕事を主に、こなしていた。
初見のときのインパクトが強くて、カイトの脳裏に焼きついていたのであった。
いまさっき、彼女の名前が挙がったとき、カイトが言葉を濁したのも、この一件が大いに関係していた。
それは・・・・
「って事は・・・・護衛の中にゼルダさんがいるね?」
「よく、お分かりで。」
ビックリしたような表情を浮かべるクレアさん。
やはりか・・・・
セリアさんと、ゼルダと言うこの屋敷の護衛さんは、いわば恋人であった。
三年前から付き合っている。
それも、先ほどの『騎士様の剣で、怪我をした。』あたりが関係していた。
この二人は相性がいいのか、行動がよく、リンクする。
なぜか使用人たちに与えている休日は、この二人がいつも被っている。
メイドさんと、護衛の騎士さんでは、休日パターンを変えているにも関わらずに・・・だ。
そして今回もそう。
どうしてこの二人はこう・・・・
カイトはこの、ラブカップルが苦手であった。
職務中にも、桃色のオーラが見えてくる。(よう気がする)
完全に、彼の人間の選り好みである。
「あの・・大公様? 何か不都合なことがあれば、仰って頂ければ・・・・」
「いや、何でもない。 もう少ししたら出発するから、玄関に集めてくれるかな?」
「かしこまりました。」
クレアさんはそれだけ言って彼に一礼すると、部屋を退室していった。
それを見送り、さて、とカイトも外出の準備を始めた。
◇◇◇
今日これから向かうのは、この街に最近できた、治療院・・・つまりは病院である。
ここには、王都で買ってきてもらった、奴隷数人が静養していた。
あまりに衰弱が激しかったり、子供だったりした者が、ここに居るのである。
奴隷にこの待遇は普通、ありえないものであった。
しかしカイトを含め、関係者各位はその事を、気にも留めていなかった。
彼らには、『人権』を与えるつもりなのだから、この待遇は当然だ。
それが、共通の認識であった。
そしてカイトが今日、ここへ赴くのは、彼らの『視察』をするためであった。
彼らが仮病を使って居はしまいか、治療経過などはどうか。
それを調べるためだ。
・・・と言うのは、建前。
するのは、『ごあいさつ』だけである。
彼らだって、なりたくて奴隷になったわけではない。
治療院に居るものたちからもその辺りの『生の声』を聞くため、こうして赴いたのだった。
今まで忙しくて、一度も顔合わせをしたこともなかったので。
ちなみに、ヒカリ達は『つまらなそう。』の一言で、付いて来る事はなかった。
「ん?? あの人は・・・??」
治療院の視察中にカイトは、治療院に居るその奴隷たちの中に、見知った顔があるのに、気がついた。
相手は女性である。
この世界に来てまだ三年。
知り合いなんてそう、居はしないので、見間違いかもしれない。
そう思って、顔を覗き込むと・・・
「!!!!!! あ・・あなたは・・・!! お・・お願いでございます! あの暗い部屋にはもう、入れないでくださいまし!!」
俺と目を合わせた途端に、カッと目を見開き、すごいスピードで後ずさりをしたその女性。
茶色の髪に、赤く染まった双眸。
その瞳は、『恐怖』の色で染まっている。
俺は、この女を知っている。
そう、彼女は・・・
ルルアム・ラウゼン。
アリアの従姉であり、元公爵家令嬢である。
三年前、アリアの暗殺を企て、俺がその後に拉致した人間である。
その後、王宮の騎士たちにしょっ引かれ、裁判にかけられたとか何とか・・・
少なくともこんなところに、居るような人間ではなかったはずだ。
いったい彼女の身に、何があったと言うのか?
「な・・・なんで、アンタがここに居るの?」
「すみません、もうあのような事は致しません!! ですからどうか・・どうか!!!」
ダメだ。
三年前にイロイロしてしまった副作用で、すっかり萎縮してしまった頃と何も変わっていない。
彼女から何か聞くのは、無理そうだ。
そこで後ろに居るゼルダさんに聞いてみる。
「は! あの者は、三年前に極刑級の罪を犯した、元ラウゼン公の娘、ルルアムでございます。」
それは知っている。
聞きたいのは、その後。
「彼女は、裁判にて死罪を申し渡されたのですが、国王陛下の情状酌量で、身分剥奪のみが成されましたようです。」
身分剥奪とは文字通り、身分を没収されると言うこと。
この身分剥奪は滅多に行われず、執行されるとその身分は、最低のものになる。
つまり、『奴隷』だ。
彼女の首には、『奴隷の証』たる枷がはめられている。
これは魔法で縛りがされており、主人以外は外す事はできない。
死罪になるぐらいのケースだったのだから、これは妥当な判断ともいえた。
だが。
「おねがい・・・お願い・・・・・!!」
「・・・・・。」
あちこちが汚れ、衰弱した体。
なるほど、買い付けに行かせた使者が連れて来たのも、うなづける話だ。
目の前に居るのは、もうあの時のゴミカスだった、傲慢な貴族娘ではない。
傷心の、ボロボロになってしまった女性である。
「んーー、見て見ぬ振りはちょっとなーー。」
彼女がこうなってしまった一端は、自分にある。
カイトは一応の、責任を感じていた。
だが屋敷には、『被害者』のアリアが居る。
ルルアムをどうにかするには、まずアリアに配慮をしなければならなかった。
「大公様、何をお考えなのですか?」
「いや・・・う~~ん!!」
まさかこんな事が起こるなんて・・・・
俺って本当、呪われているんじゃなかろうか?
問題が、ひとつ増えてしまった。
同時進行で今現在、いくつの『モンダイ』がある事やら・・・・