第158話・必要なもの
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「カイト様、先日は話がそれてしまいましたが、結局あなた様は、どこへ何をしにいっていたのですか?」
「・・・え?」
カイトが部屋でこのあたりの地図とにらめっこをしている際、アリアが入ってきた。
そうして、開口一番に言ってきたのが、『この間、何をしていたか』であった。
先日アリアたちに一晩中説教され、後始末に負われたカイト。
この一件で、カイトが『どこで何をしていたのか』が、話題に上らなかったのであった。
なぜ彼が怒られたのかは、省く。
「カイト様のことです、何かしてきたのは分かっておりますわ。 包み隠さずお教えくださいませ。」
「いや、『包み隠さず』って・・・特に大した事はしていないよ?」
それからアリアに、自分がしてきたことを説明するカイト。
してきたことは、かなりシンプルであった。
『鉄鉱石を、いっぱい送ってくれ。』
それだけ。
鉄道建設に際し、車輪やレールなど、鉄は必要不可欠であった。
これを大量注文しに行ったのである。
さすがはカイト。
『鉄道』が絡んでいるだけで、行動力が段違いだ。
問題はその調達に、どこへ行ったか。
カイトは、さも当たり前と言った感じで、『グレーツクに行ってきた』と言った。
彼にしてみれば、おかしなところなど何もなかった。
だが、前提が違う。
カイトは、あくまでここの領主であり、グレーツクは、他国である。
そんなところへ単身で、ホイホイ行っていいはずもなかった。
この点、カイトはウカツであった。
「そうだったのですか、まあ、それならば・・・でも、これからはあのような行動は、慎んで下さいませ。」
「分かっているよ、アリア。」
アリアはこの点、察しがついていたのだが、あえてそれは口に出さず、サラッと流すことにした。
『カイトが、グレーツクを治めているのではあるまいか?』
そんな疑惑がここに来て、さらに色濃いものになったが。
これに関して彼女は、彼が自分に話してくれるまで、知らない振りをすることに決めたのだ。
「それで、うまくはいったのですか?」
「もちろん。 必要なだけ、鉄鉱石は送ってくれるようにするってさ。」
カイトは上機嫌にアリアにそう、報告をした。
アリアもこれには自然と、頬が緩んだ。
なにより、彼が喜んでいる姿を見ているのは、彼女としてもうれしい事であった。
タマにそれで、周りが振り回されて迷惑することもあるが。
「あなた様の言う『てつどう』には、鉄がそんなにも必要なのですか??」
「強度の問題とかからね。 強化魔法じゃ心もとないから。 なるべく車体には、木を多用しようとは考えているよ?」
鉄は高価なので、できうる範囲で森から木を伐採して、それを利用する腹積もりではあった。
これは、強化魔法の万能性なども実証実験した上で、考えていくつもりである。
カイトから聞かされたこの考えに、当のアリアは驚きを隠しきれなかった。
「カイト様、とてもイキイキされていますね・・・・ ここまで来てそんなお姿を拝見するのは、初めてかもしれませんわ・・・・」
「ん~~、そうかも。 だって純粋にうれしいんだもの。」
デレッと鼻の下を伸ばすカイト。
『だらしない』といつもなら戒めるアリアも、今回ばかりは注意するのはヤメた。
彼が本当に、嬉しそうだったから。
頬に続いて、顔の筋肉までほころんでくる。
が
アリアも、何もこんな話だけをしにここへ出向いたわけではない。
彼女は彼女で、ある案件の報告に来たのである。
ちなみにこれも、件の『てつどう』絡みである。
「カイト様、私からもご報告があるのですが、大丈夫でしょうか?」
「ん、何かあったか?」
一転、顔の筋肉を引き締めるカイト。
彼は身構えているのだ。
いつもここまで来て、『問題』が発生するのが通例だった。
前回の魔石事件もしかり・・・・
あれは、結果が良かったに過ぎない。
今度何かあったら・・・・・
カイトが身構えた態度をとるのも、無理はなかった。
だがここで、アリアは彼に笑顔を返した。
「そこまで、身構えるようなモノではございませんわ。 カイト様、奴隷をこの地へ、招きませんか?」
「え、ど・・・奴隷!??」
カイトも知っている。
この世界に、『奴隷』が存在することを。
彼らは身売りされたり、誘拐されたり、犯罪者から落ちてきた者たちである。
元日本人の彼としては、とても理解ができない裏の世界につながる話だった。
だからカイトは、この領地内での奴隷の取引は未だ、認めていなかった。
アリアも当然、そのことは知っている。
それをあえて、呼ぶとはどういうことだろうか??
「カイト様、奴隷たちは劣悪な環境化に置かれる事が少なくありませんわ。 カイト様が奴隷商をお認めになっていないのも、理解できます。」
アリアのこの言葉に、うなづくカイト。
分かっているなら、なぜそんな話が出てくるのか?
「ですから、カイト様が法律を制定なされば良いのです。 ここは自治領です。 その点は自由ですわ。 カイト様が、奴隷たちの人権をお認めになる法律を制定なされば良いのです。 この領地で。 今度呼ぶ奴隷たちは、その先駈けです。 『てつどう建設』に従事させる名目で、この地へ連れてくるのですわ。」
「うわお・・・・」
『その手があったか!』と言わんばかりに目を見開くカイト。
鉄道建設がそこにつながるなど、考えても見なかった。
この受け答えを予想していたかのように、アリアは更に、笑顔になる。
鉄道の工事着工は、もう、まもなくになるかもしれない・・・・
そんな気がした。
『奴隷』
ちょっと大事。
今後の展開上で。
あまり、大きくはありませんが・・・・