第152話・大砲分解
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ここでおさらい。
今カイトはここベアルに、この世界初の『鉄道』を敷こうと考えている。
それもひとえに、カイトが無類の鉄道好きだったことに他ならない。
それが項をなして、なぜかベアルという街も、人口38人の村から、人口3,000人超の、大都市になった。
この地は、帝国とのメインとなる交易路であり、ボルタも開いたことで、グレーツクという国との玄関口にもなった。
これは遠く、ゴルバ連邦の交易路にもなっている。
連邦への交易には、ボルタを通る道が使われている。
しかしこの街道は、廃れて獣道のようになっていたものを、応急的に使えるようにしたもので、狭くて、デコボコな道だった。
とても多くの馬車が行き交うには、不都合が多かった。
それは、交易の物資の輸送量に大きく響いていた。
ボルタからグレーツクへは、多くの穀物や国中からの品々が。
グレーツクからボルタへは、多くの鉄鉱石が国中へ。
それぞれ輸出入されていた。
そこに白羽の矢を立てようというのが、カイトの考えだ。
鉄道ならば、多くの物資を、一度に多く運ぶことができる。
そのためにカイトはあえて、この街道をちゃんと整備しなかったのである。
随分と迷惑な話だ。
しかしそんな計画も、あるところで頓挫してしまった。
理由は、『鉄道をどう、動かせばいいのかが分からない』ということ。
かなり深刻だった。
普通なら話はこれで終わりだ。
しかしカイトはここで、権力を大いに活用した。
鍛冶職人の多いドワーフたちにこの地へ来てもらい、話を聞いてみることにしたのだ。
彼らにこの地を見てもらい、活用できそうなものはないか聞くことも考え、『交換留学生』として、この地へ彼らを呼んだのだ。
それが約、半月ほど前。
名目上、彼らに穀物の栽培方法なども教えつつ、本来の目的である意見交換を、今まさに始めようとしていた。
そして今は、夜だ。
起きている者も、ほとんどいない。
カイトは、グレーツクから連れて来た、『交換留学生』の前に、あるものを出した。
「小僧、こりゃ一体なんだ?」
開口一番、交換留学生の一員、ガロフがカイトに質問をぶつけた。
彼は、グレーツクで涙を流しながら、土に埋まった妻子を必死で掘り続けていた、ドワーフのおっさんである。
今回も、カイトから事情は聞いていて、その上で志願をしてきた。
そんな彼の前に、今まで見たこともないような黒くて大きな物体が置かれた。
下面には馬車のように車輪がついており、大きくて重そうだが、どうにか一人でも動かせそうであった。
全体には唐草のような紋様が書き込まれており、一方には、大きな口が開いていた。
この世界では、あまり馴染みがない。
そう、これは・・・
「海賊の船から没収した、『大砲』です。」
「たいほう!!??」
初めて聞く単語に、彼らは疑心暗鬼といった雰囲気であった。
『たいほう』なんてもの、聞いたことも無い。
そう、これは海賊『自由国家コレット』の船に積んであった、あの大威力の攻撃兵器である。
空気中の魔素を吸収し、凝縮して火炎などを打ち出すのだ。
これは今は失われた技術、『魔術』によって生み出されて物らしかった。
詳しいことはそれ以上は、分からなかった。
カイトはこの兵器を、アイテム・ボックス内に十数個しまっていた。
すべて、海賊船から没収したものである。
カイトはこの兵器の特性が使えないかと、着眼した。
あれだけの威力の攻撃魔法が打ち出せるのなら、鉄道を動かすエネルギーくらい、どうって事無いのではないか・・・・と。
しかしカイト一人ではそれを実行に移すのは、土台無茶な話だったので、彼らに協力を要請したのである。
見返りは、一人につき高級酒三本だ。
彼らはこれでかなり、乗り気になった。
「小僧よ。 つまり俺たちに、これを分解して、その魔力で動く馬車って言うヤツを作れって事かい?」
「お願いします。」
カイトのこの腰の低い言葉に呼応するように、ヤレヤレと、その『たいほう』なる物をいじり出した。
彼らは、鍛治師としても一流な者ばかりだ。
こういったことは彼らには得手分野なので、手馴れた手つきでこの大砲の分解を、開始した。
カイトもその光景を、微笑ましい面持ちで見つめていた。
カイト達の鉄道の建設計画は、着々と進んでいっていた・・・・・
◇◇◇
「闇貴族様、収益が先月の二倍となっておりますです!!」
「騒ぐな、バカ者。 これから我々は今以上の収益獲得を目指していくのだ。 二倍ぽっちで満足などしないのだ!」
ここはボルタの港に並ぶ倉庫郡の一角。
そこに、前より太ったバルカンの姿があった。
彼はつい先日まで、バルアの監獄所にいたのだが、罪の関係で、釈放されたのだった。
この世界において、『誘拐』や『商人襲撃』自体は、あまり大きな罪にはならないのが通例なのだ。
この点、盗賊とは違い彼は、これらをまだ売りさばいたりはしていなかったため、罪が軽くなってしまったのだ。
見張りがゴーレム兵だったのも災いし、手配書を確認されることがなく、王都に通報されずに済んだのだ。
ゴーレム兵の、欠点といえた。
バルカンはこれを利用し、模範囚人に勤め、通常より早く釈放されたのだった。
今は彼は、自らを『闇貴族』と呼ばせていた。
裏世界の帝王になる腹づもりらしい。
そして彼の横にはもう一人、背の低い男がいた。
「いいか、俺はあのグレーツクを乗っ取ってやるために、お前と手を組んだんだ! 交易にうつつを抜かしやがるようなら俺は、お前と手を切るからな!!」
「はいはい、分かっておりますよ、闇大帝様。 その時はぜひ、私にも美味しい汁を飲ませてもらいたく・・・」
「だから、その『闇大帝』って呼び名をやめねえか、このブタ野郎が!!」
スラッグ連邦に君臨していた、クズ大帝もまた、生きていた。
森に捨てられた後、かなりの実力持ちだった彼は、何とかこれを切り抜けたのだった。
同じく捨てられた連邦の重鎮の数人とも、途中で合流した。
彼らは、ドラゴンに復讐を誓った。
そしてまずは、グレーツクから侵略を開始しようと画策していた。
今は、その準備のために資金がほしく、バルカンと手を組んだのである。
ゴキブリ以上の生命力といえよう。
さすがとしか言いようが無かった。
「して闇大帝様、今度は帝国から香辛料を輸入し、それに『高い関税』をかけてですな・・・・」
「バカかテメーは!! それじゃ地に足が着くだろうが!!? それよりその辺の民芸品の布を『マイヤル教の聖布』としてだな・・・」
彼らの黒い算段は、果てしなく続くのだった・・・・
バルカンを、出し忘れていました。
今回はそれを、集約して出しました。
大帝陛下も、生きていたんですね・・・・