第149話・アリアの機嫌がいい
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「お帰りなさいませ、カイト様!! 調査は済まれましたか!?」
「えと・・・・いや、明日もかな?」
暗くなったので今日の地盤調査は止め、屋敷のあるベアルへと戻ってきたカイト。
するとアリアは、大変上機嫌で彼を出迎えてくれたのであった。
正直、怖かった。
この二年、アリアがここまで機嫌が良かった事など、一度も無かった。
何かあったのではないか・・・・
カイトはこの事態に、薄ら寒さすら感じていた。
アリアが聞いたら、いつも通りにぶっ飛ばされる事であろう。
機嫌のほうも急降下間違いなしだ。
「そうですか。 明日もどうぞ、がんばってくださいませ。 妻として、応援させていただきますわ。」
「!?」
アリアは満面の笑みで、カイトを労った。
いつも怒ってばかりで忘れがちだが、彼女はかなりの美人である。
カイトはこの笑顔で二年前、陥落したのである。
そのせいでベアル領主となり、現在に至る。
傍から聞くと、実にわけの分からない話である。
そしてカイトは、この事態に頭の中では警報が鳴り響いた。
『危険だ!!』
カイトの何かしらの本能が、そうささやいた。
だが彼女は現在、カイトに笑みを浮かべて労っているだけである。
感謝してしかるべきであろう事は、カイトでも分かっていた。
「ありがとう、アリア。 何かいいことでもあったのかい?」
せめて、機嫌がいい理由だけでも知りたい。
ヒカリが、大人しくしてくれたとかかもしれないし、何か他に、楽しいことがあっただけかもしれない。
しかしアリアは、少しもったいぶる素振りを見せた後、説明を始めた。
口の近くに手を持ってくる辺り、王女時代が偲ばれる。
「最近になって、わが領は大変な高成長を見せ始めております。 これが喜ばずにいられるでしょうか?」
「ああ・・・そういう事ね。」
二年以上前の事を考えるとアリアの言うとおり、この領地はかなりの成長を見せていた。
動機が不純だったとはいえ、街は国内有数の都市にまでなった。(らしい)
この功労者は、紛れも無いアリアである。
彼女が街の発展を喜ぶのも、無理は無かった。
というか、カイトがその辺り、無頓着に過ぎた。
「カイト様が王都へとつながる街道を整備したおかげで、物流がスムーズになりました。 そしてカイト様の提案のおかげでこの街に、産業もできました。」
「・・・・。」
前にも考えたが、俺が一人でやったことは何も無い。
提案も然り。
アリアのこの言葉は、カイト的には何とも言えなかった。
これでは、自分一人が、手柄を横取りしているみたいである。
否定をすると、長くなるので突っ込み入れないが。
「その上で、今はかねてからの『てつどう』なるモノを造るための、調査をされているのですよね? それをお造りになれば、物流がさらに円滑になるのでしょう? さすがはカイト様ですわ。」
「まあ・・・・」
もともと、この領地をどうにかしようとしたのも、これが原動力だったりする。
日本にいたときにテツだったカイトは、鉄道の無いこの世界に、大変なショックを受けた。
そして決めたのだ。
『無ければ、作ろう』と。
だが、金が無い。
その『金』を作るため、カイトはここまで頑張ってきたのである。
それを褒められると、なんだかある種の罪悪感のようなものが、カイトの中に渦巻いた。
「何より、グレーツクとの交易が嬉しい限りですわ。 商人たちも、喜び勇んでおりますわ。 あの地方は、連邦から独立したと聞いたので、新しい国王でも立って交易を推進して下さっているのでしょう。」
「・・・・・。」
アリアは知らない。
そのグレーツクのトップが、何かの力が働いて、カイトであることなど。
この領地とグレーツクの交易が、円滑になって当たり前である。
トップが同一人物なのだから。
カイトはバカなので、怒られないためにこれを、アリアに隠したのである。
バレたらもっと怒られるであろう事を、考えはしなかったのだろうか?
いまさら、後の祭りだが。
「カイト様、暇な時間を見つけて今度、グレーツクの新しい国王に、ご挨拶へ伺いませんか? 領主として、一度もご挨拶に赴かないなど、礼がなっておりませんわ。」
「いやいやいや!!! そういうのアイツ、嫌いじゃないかな!? ここは大人しく、感謝しているだけがいいと思うよ、俺は。 うん!!!」
赴かれては、非常にまずい。
実はあちらにも屋敷はあって、ドワーフたちで構成される自警団が見回ってくれている。
カイトはタマに時間を見つけては、鉄鉱石の採掘現場などを視察し、彼らを労ったりしていた。
ベアルの経験の、賜物である。
そんなところへアリアと行けば、確実にカイトのことがばれる。
だがここでカイトは、ある種の墓穴を掘った。
「おや、カイト様はもう、挨拶へ赴かれたのですか?」
「うう・・・!? うん! もちろん。 忙しそうにしていたから、当分は会えないんじゃないかな!?」
「そうですか・・・・・ では日を改めて、またご挨拶に伺いましょう。 私も一目、お目にかかってみたいですわ。」
そのときまでに、何かの対策を練らねばならない。
何回も手紙を跳ね返したら、さすがにマズい。
カイトは、無い頭をめぐらせた。
彼はここで非常に、無駄な労力を割くのだった・・・
なお彼に、『もうこの事は、打ち明けよう』という考えにはならなかった。
最初から破綻している隠し事がこの先どうなるのか、非常に見物である・・・・
アトで、ヒドイ目にあう予感がする・・・・。