第142話・足りないもの。鉄道ではない。
これからも、がんばっていきます!!
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
「カイト、あの店に入ってみたい。」
「ほいきた。 あの店でいいんだな?」
俺が一角にある店を指差すと、ノゾミもそれにうなづくことで答えた。
カラフルで、かなり派手な印象を与える店だ。
看板には、『薬屋』と書いてある。
彼女は、少し教えはしたものの、未だ字は読めない。
店の見た目に、興味を持ったのだろう。
別に変な店でもないので、彼女の希望にこたえる。
俺は今、ノゾミと二人きりでベアルの街を散歩していた。
ノゾミが、『最近カイトは、私を置いて行ってばかり。 今日ぐらい、一緒に居たい!』と俺に直談判してきたのだ。
目にわずかに、涙を浮かべながら。
そういえばここ最近、イロイロな事情で屋敷を空けてばかりで、彼女には構ってやれていなかった。
それに彼女は、怒ったようだ。
そこで俺は、今日は仕事は休みにして、ノゾミと共にこの街を見て廻ることにした。
この街が出来てから、すべてを廻ったことは無かったので、いい機会である。
絶対に連れて行くと約束された、護衛、メイド、ヒカリも今回は付いてきていない。
これは、ノゾミたっての希望である。
街を決して出ないと言うことで、彼ら彼女らの了承を得た。
それで、現在に至る。
「こ・・・これは大公様!! なぜこのような薬屋に!?」
「いやー・・その・・・迷惑だった?」
「いえいえ、とんでもございません!! どうかご存分に、店内をご覧ください!!」
ご覧くださいって言われても、飾り用の見本の薬しかないけどね。
でもノゾミにはその薬が、色鮮やかなキレイな水にしか見えていないので、案外楽しそうだ。
まあ、あくまで『見本』なので、実際そうだし。
これは、薬の劣化を防ぐためだと聞いたことがある。
「・・・・・?」
店主が、俺の背後で首をひねっている。
先ほどから、このような事ばかりである。
一軒入っては不思議がられ、一軒入っては『何事か』と騒がれ、一軒入っては首をひねられる。
そうですよね、疑問しかないですよね。
ノゾミは(見るからに)どこかの領主、俺はこの街の領主。
そんなヤツが、街を二人だけでフラフラしていたら、怪しいですよね。
無論、バルアから来た者もこの街には多いので、ノゾミを見て『あっ!!』と声をあげる者も多い。
カイトは、改めて自分達のこの街における、『立場』と言うものを認識させられた。
「カイト、このお水作れる? 私の部屋に飾るの!」
彼女が指差すのは、赤い水。
むろん、売っているのはホンモノの方。
つまり・・・・
「うん、作ってやるよ。 見た目が近いやつをな。」
やったーと、バンザイするノゾミ。
彼女はどうしても、これが飾りたくなったらしい。
『風邪ポーション』
風邪を引いたときに飲むと、治りが早くなる薬。
ようは、かぜ薬。
こんなのを部屋に飾るなぞ、とんでもないことだ。
主に、もったいないと言う意味で。
ポーション系は、値段が高いのだ。
「あの・・・・ポーションをお出ししましょうか? お代は結構ですので・・・」
「いや、いい。 それは教会にでも寄付してくれ。」
飾る目的で高価な薬をもらうなぞ、出来ようはずも無い。
それならば、教会の救命施設にでも寄付してくれた方が、実に有効的である。
「カイト、次の店に行こう!! 次はあの店がいいな!!」
「ああ、あれか。 じゃ、すんません、お邪魔しました。」
「いえ、こちらこそ、何もお構いが出来ませんで・・・・」
次にノゾミが目をつけたのは、羽の看板の、『ペン屋』。
俺たちは、薬屋を後にし、足早にその店へと向かった・・・・・
◇◇◇
「カイト、今日は楽しかったね。」
「そうか、それなら良かった。 俺も楽しかったよ。」
夕方。
陽も傾き、あたりは茜色に染まっている。
街ではすっかり、長い時間を過ごしてしまったようだ。
俺もおかげで、この街が結構、何でもそろっていることに驚いたものだ。
二年半前にこの街に来たとき、民家十数軒しかなかった頃が懐かしい。
それもこれも、アリアやイリスさんのおかげだ。
この街に教会ができたおかげで、なぜか知らんが、信者っぽい人が多く来た。
それに触発され、宿屋や、料理屋が出来た。
それに呼応して住民も増え、店もどっと増えたのだ。
賑やかなのは、素直に楽しい。
しかし、何かがまだ、足りない気がしてならなかった。
王都やシェラリータなどでは必ず見た、何かが・・・・
首元まで出掛かっているのに、重い浮かばないな~~。
そんな風にカイトが悶々としているのを知ってか知らずか、ノゾミがこんなことを言ってきた。
「カイト、私また、『ギルド』とかで前みたいに、カイトと一緒に依頼を受けてみたいな。 今日は見つけられ無かったけど・・・・また今度、探して行こうね。」
「・・・・・あ。」
思い出した。
この街に未だ、無いもの。
『冒険者ギルド』
これが無い。
どうりでこの街では、ほとんど冒険者風の人間がいないと思った。
ギルドが無いのでは、依頼が受けられないので、居ようはずも無かった。
いろんな意味で平和すぎて、気がつかなかった。
と、言うより普通、冒険者が解決するような事件を、この街では領主自らが解決していた。
街道整備が然り。
家の建設も然り。
何かの損壊も然り。
農業被害も然り。
海賊も然り。
お手伝いなども、地域住民同士で助け合って解決する。
ギルドが無くて、不便を感じなかったのが、主たる原因である。
だがこの先のことを考えると、何かと便利な『冒険者』は、この街に居て欲しかった。
冒険者と言っても、仕事はいろいろあるのだ。
迷子探し。
街の清掃。
店のピンチヒッター。
家庭教師。
などなど・・・・・・
居るのと居ないのとでは、だいぶ違う。
カイトの方針が、決まった瞬間だった。
「アリア! 冒険者ギルドを呼んでくれー!!」
「あ、カイト! 置いて行かないでよ!?」
この日の夕方、発展を続けるベアルの街に、馬よりも速いスピードで走る二人の貴族の姿が多数、目撃された・・・
もう少しで本題・・・
になるといいな。