第138話・大帝ヤメます。
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数百年も昔、スラッグ大陸には大小さまざまな国々が存在した。
その国々の住民の大半は、ドワーフと呼ばれる好戦的な、小人族であった。
領土拡大をもくろむ彼らは、血で血を洗うような、戦いを幾度となく続けてきた。
だがある時、『大帝』という存在によって、この大陸は、初めてひとつにまとまることになる。
それが、『スラッグ連邦』である。
『スラッグ』とは、現地語で『富み栄える』という意味の言葉だ。
初代大帝は、多数の国と連合を組み、ひとつの国とした。
ドワーフの力の象徴たる『ドラゴン』に任命された、選ばれし王ともなれば、反対する者も少なかったようで、大きな戦になることは無かった。
要するにこの国は、多くの国々が寄り集まってできた、細胞のような国ということだ。
しかしそれは、ひとつの前提・・・・
つまり、『ドラゴンに任命された、選ばれし者が大帝』という事。
ここ数百年間、ドラゴンは現れていなかったので、これは子孫が受け継いでいた。
だが、その前提は今、崩されようとしていた・・・・
「この国を解体し、すべてを独立させ、貴様は大帝をやめよ。 それが約束されれば、我はここを立ち去る。」
「な・・・・・!!」
目の前のドラゴンに、突如としてそう、告げられてしまったのだ。
『大帝をやめよ』
ドラゴンは、神の使いとされる。
この言葉を受ければ、素直に従うほか無いのが、常識とされている。
・・・が、数百年の間に、『ドラゴン信仰』もだいぶ、形骸化し始めてきていた。
「お・・・お待ちください、ドラゴン様!! なにゆえそのような事を・・・!!!」
大帝は、言い返した。
この大陸が平和を保っているのは、自分がいるからだ。
そう思っていた彼にとって、このドラゴンの言い分は、まったく理解ができなかった。
「あまりにも自己中心的な政策や高圧外交で、おまえは周辺国家を翻弄させた。 あまつさえ、自国の民に対する、その命を軽視した姿勢。 我々はこの国に対し、制裁を加えることとした。 しかし民に罪は無い。 そこで貴様にのみ、制裁を下すこととする。」
ドラゴンの言葉に、大帝を不安げな面持ちで見やる兵士や側近たち。
しかし当の大帝は、身に覚えが無いといった風の態度をとる。
「この国は、大帝たる我々の存在のおかげで、ここ数百年の間一度も大きな大戦は起きていません。 もちろん私も、現在も粉骨砕身・・・・」
胸を張る大帝。
しかしそのあまりにも豪胆な態度も、もう一体の赤い竜が咆哮とともにブレスを吐いたことにより、中断させられる。
先ほどから話しているドラゴンの視線も、さっきよりも険しいものとなっている。
「いま、ここで貴様が大帝を辞するというのであれば、その命、助けてもよい。 どうだ?」
「・・わ・・我は、先祖の造りしこの国を・・・・」
いまだ、ビクつきながらも毅然とした態度を崩さない大帝。
ドラゴンも、これはだめだと思ったのか、顔を上げその右手を、遠くの山へかざす。
この大陸でもかなりの高さを誇る山で、その頂には、雪を冠している。
何をするのか、この場のもの全員がそう考えたところで、事態は次のステージへと進んだ。
ドオオオオオオーーーーーーーーーー・・・・・・ンン!!!!!
山の雪を冠していた部分がすべて、吹き飛んでしまった。
あわれその山は、ほかの山々とほぼ、同じ高さまで低くなってしまった。
いまや見る影も無く、崩壊している。
火山ではなかったのが、不幸中の幸いといえた。
だが、この場の者たちに『恐怖』を植えつけるには、十分であった。
「この国、すべて焦土に変える。 まず手始めに、この都市を破壊する。」
「な・・・ま・・・・・!!」
大帝の制止の声は、もう一体のドラゴンの巨大な咆哮で遮られた。
その声に呼応するように、グラードに隣接する森の一角が、ざわめき始めた。
よく見るとそれは、森の木々自体が動いているようだった。
「た・・・大帝!! 森の木々がグラードの街に向かってきております!!」
「なんだと!? ど・・・ドラゴン様!!」
信じられない見張りの兵士の報告に、大帝は焦りを見せる。
森の木々は、統率されたように、街の入り口へ向かい、集結していった。
よく見るとその中心には、妖麗な女性が、こちらを見据えて立っていた。
彼女の胸元には、赤黒い魔石が胸元に光っている。
言うまでもない。
彼女は魔族だ。
それも、こちらに敵意をさらけ出しているのが確認できる。
何か、恐ろしいことがこの国に起ころうとしている事が、彼にも理解できた。
当のドラゴンは、ニヤリと笑みを見せた。
「わが眷属に、民の街を破壊させる。 どうなるかは、彼女次第だ。」
「そ・・・そんな・・・・!!」
魔族が、街を襲う。
どうなるかだなんて、想像に難しくは無い。
魔族は、他種族をゴミ位にしか考えていないのだから・・・
ドラゴンも、それを分かってこうしているのだろうと考えられた。
逃げようにも、ドラゴン二体がいるこの状況では、逃げ出せなかった。
逃げれば、あっという間にこのドラゴンたちに、食い殺されてしまうだろう。
万事休すだ。
この状況で、自分たちが助かる方法は、一つしかない。
大帝も、そこにようやく、思い至ったようだった。
「ドラゴン様!! 『大帝』の地位は返上いたします!! ですからこの命だけは・・・!!」
しかし、大帝の悪夢は、これからだった・・・・・
長くてゴメンなさい。