第132話・大帝のお呼び
え~~、まもなく『カイトの不幸』駅に到着いたします。
停車話は、数話を予定しております。
それを出ますと、次は、予定では『本腰に』に停車いたします。
(たぶん)
「早急に、赴かねばなりませんわ。」
「え、どこに?」
朝、寝ぼけ目をこすりながら、アリアの真剣な表情を、軽くあしらうカイト。
ここ二年半、こういったことは毎日のようにあった。
そしてそのすべてが大抵、ロクでもない事であった。
そして今回は、カイトはどこかへ行かねばならないらしかった。
・・・・正直、いやな予感しかしない。
「スラッグ連邦の大帝陛下から、直々にお呼び出しですわ。 カイト様にお会いしたいとか・・・」
スラッグ連邦の大帝とは、この国で言う国王のような者だ。
一ヶ月前、グレーツクで大地震があったときには、何もしなかった。
その上、カイトにまるで、『救援して当然だろ?』と言わんばかりの書状を送りつけてきた。
あれはほぼ、命令口調だった。
尊大な上に、いざとなったら何もしてくれない。
カイトの彼に対する評価は、最悪だった。
当然、そんな奴に会いたくはない。
「パス。」
「できません。」
カイトの拒絶の意思は、バッサリと切り落とされた。
間髪入れないアリアの返答に、たじろぐカイト。
もちろん、アリアもあの国のクズ大帝に、いい感情などこれっぽっちも抱いていない。
だが、そこには国家間の問題というものもある。
「カイト様、これはカイト様お一人の問題ではございません。 我々がこれを『行かない』などと突き返せば、かの国の面目は丸つぶれです。」
「・・・ええ~っと・・・いいんじゃない? あんな尊大な態度の国家元首が治める、国のプライドなんて。」
カイトの言い分は、一応だが筋は通っている。
だが、考えがまだ浅い。
「良くなどありませんわ!! それが原因で、連邦とわが国が戦争になどなったら、どうなさるおつもりですか!? この領はまず間違いなく、戦場と化しますわよ!?」
「おひょおおおおおおおおおおおお!!????」
アリアの衝撃的な発言に、アホカイトは、声にならない雄叫びをあげた。
そう。
突き返せないのは、外交的な問題である。
もしカイトがこれを突き返せば、あの尊大なクズ大帝は、きっと宣戦布告してくるであろう。
当然、彼らは裕福な地・・・つまりベアルを占領しに来る。
人口三千を越える大都市は、一夜にして戦場だ。
事はカイトが考えているほど、甘くはない。
まあ・・・戦争になっても、カイトとダリアさんが居れば、まずこの地が戦場になる事は無いともいえるが、そこは考えてはいけない。
それをやるのは、魔王ただ一人である。
魔王じゃないカイトは、平和的に解決する事にする。
「仕方が無い・・・・ なるべく穏便に、それでいて相手のプライドをそのままにして、お断りを・・・・」
「できません。」
どうしても行きたくないカイトは、穏便に、お帰り願う事とした。
書状の内容としては、
『あなたが神々しすぎて、私のような下賎の者では、あなた様のお足元に居る事すら、許されませぬ。』
これで完璧である。
バカだ。
それがダメだと言っているアリアの言葉が、まるで分かっていない。
カイトはまだ、平和だった日本人感覚が抜け切れていないようだった。
というか、頭の中が平和すぎる。
カイトの頭の中には、脳みそではなく、ハトが住まっているに違いない。
さすがのアリアも、これには呆れ顔だ。
「カイト様、なぜそこまで嫌がられるのですか? かの国の大帝と言えば、自ら人を呼ぶなど、決してしない事で有名な方なのですよ?」
「嫌なものはいや。 アリアだって、あの一ヶ月前の書状には、怒ってたじゃないか。」
「それは・・・・・」
カイトの思わぬ反撃に、どもってしまうアリア。
これは、図星だった。
特に『滅んでしまえ』と言う感情が芽生えたのは、絶対に秘密である。
もちろん、彼にそんな事は悟らせない。
「いいえ、カイト様。 それは関係ありませんわ! 事は、国と国の問題にもなりかねないのです。 期日の規定はありませんが、今すぐ、ご出立くださいませ!!」
「ええ~~~~???」
露骨に嫌悪の感情をさらけ出すカイト。
一領主としては、ありえない態度である。
それが彼の特徴でもある。
この事に関しては、アリアは特に言う事は無かった。
こういった露骨な態度を彼は、社交の場ではしないので、それで十分だったのだ。
多少の問題は、カイトの持つ『何かしら』で、なぜか丸く収まっていた。
だが今回は、それでは収まらない。
相手は、プライド家で有名な、『スラッグ連邦の大帝陛下』である。
一国の王の申し入れですら、低姿勢で無いと断りを入れてくるような常識外れっぷりだ。
かの国は、戦闘に特化した者が多いので、そういった上から目線を取れていた。
他の国々もそれは知っていて、なるべく相手にしないようにしていた。
ようは、スラッグ連邦は、世界の嫌われ者だった。
ただし今は、魔王との戦いもあるので、なるべく波風を立てるのは皆、避けていたのだった。
それが数百年続いた結果、現在のような構図が出来上がった。
「アリア、俺、そのグラードってとこに行った事無いよ。 転移が使えないから止めよう?」
「冗談は止めてくださいませ!! グレーツクまで転移して、そこから馬車で向かえばよいのですわー!!」
「え~~~~!?」
カイトの不幸(?)は続く・・・・・
やっと、先が見えてまいりました?
とは言え、見えてきたのは物語の一つ目の結び目。
残り最低十個ほど、結び目があります。(あくまで予定)
長い目で、よろしくお願いいたします。