第131話・大時化
今日は鉄道の日です。
日本に、最初の鉄道ができた日のようです。
ばんざーい、ばんざーい!!
そして今日、鉄道開通のつもりで書いていたのに、鉄道開通のメドは、立っておりません。
くそーくそーくそー!
何とか、早期の鉄道工事着工に移りたいと考えています。
今日は、俺たちが本格的にベアルへと、戻る日だ。
もともとこの町の崩落した箇所は、すべてカイトの魔法で直した事もあり、無傷に近い状態であった。
ならばなぜ、カイトたちが、復興支援に携わっていたかというと、
半分は好意で。
半分は打算で。
ごく僅かだけ、この国への面目でだ。
好意は、言わずもがな。
打算とは、カイトの領地のボルタの発展のためだ。
カイトの夢の『異世界鉄道計画』遂行のためには、どうしてもボルタとの貿易相手として、ここグレーツクが必要だったのだ。
そこが機能停止をしてしまえば、整備したての発展途上都市のボルタは大打撃である。
だから、復興の手助けをしたのだ。
いや、手助けどころではない。
寸断された街道の新ルート整備や街の新体制作りなど、おおよそ他国の人間がするようなことではないことまで、カイト達はした。
もちろんその間、本来の領地のベアルでの仕事もあったので、まさに目の廻るような忙しさであった。
だが、それも今日で終わりである。
この街の、あらかたの復興整備は終わったし、昨日、連邦政府から派遣されてきたという、やたら太った頭悪そうな・・・いや、健康で無垢な感じの、お肌ツルテカ貴族様がやってきたのだ。
お肌がツルテカなのは、その全身から、脂が吹き出ているためと思われる。
ダリアさんが、「食べてもまずそうですね。」と問題発言をしていた。
人間を食った事が、あるのだろうか?
恐ろしくて、聞けません。
最後の、この国への面目。
これは、『貿易相手として、少しの手助けもないのか』とこの国の他の領の者に思われないようにするためだ。
この国のトップ、『大帝』なる人にも要請された事なので、これを無視したら、エライ事になる。
結果としては、正直なところ、やり過ぎなぐらい手助けをしたので、これも問題はない。
この街の住民たちも、かなり俺には好意を寄せてくれていた。
ここに来る前は、この街は、ガメツい奴ばかりかと思っていたが、割と普通な感じだった。
『ドワーフ族』という事以外は、人間と変わりなかった。
俺が、この街ですることは終わった。
後は、この国がどうにかしてくれるだろう。
という事でカイト達は、転移で帰る事にしたのだが・・・・
ここで、問題が発生した。
「おいおい、小僧!! このまま帰る気か!? あんたがこの街の面倒を見てくれるんじゃないのかよ!?」
「そうだ! あんな何もしてくれなかった、ゴミ連邦から来たブタ州長なんざ、こっちから願い下げだ!!」
「この際、戦争けしかけて、この土地を連邦からぶんどってくれよ!!」
「そうだ、俺たちもやるぞ!! いい機会だ!! 連邦から独立してやるぞ!!!」
おおーーーーーーーーーーー!!!
と、住民たちから喚声があがる。
彼らは、本当にやりそうだ。
大地震から復興して、少ししか経っていないのに、もうこの元気だ。
離れる側としては、大変うれしく思う。
だがいささか、元気すぎる。
「待ってください、俺は別の国の、一領主です。 あなた方が一揆を起こしても、俺はこの地の面倒は見られません!!」
不安そうな表情をしていたアリアも、カイトのこの言葉に安堵のため息を漏らした。
しかし住民たちは、とても残念そうに顔をうつむかせる。
何人か、ブツブツと話しているが、きっと残念な気持ちを、分かち合っているのだろう。
軽いカイトは、自分の今の言葉だけで、すべては丸く収まったと思い込んだ。
血の気が多いドワーフが、これで収まりが利くわけがない。
気配察知魔法を使っていないカイトは、これが分からなかった。
「皆さんの街の復興の手助けができて何よりでした。 これからも、よい貿易相手として末永く、よろしくお願いいたします。」
昨日からアリアと練習した、『それらしい挨拶』を済ませたカイトは、今いるアリアやそのほかの使用人たちと一緒に転移をして、この街を後にした。
後に残ったのは、今回の地震で生き残った、千人を超えるドワーフ達だけであった。
◇◇◇
「カイト様、大変、お疲れ様でした。」
「ああ、ありがとう。」
帰宅早々、アリアが俺を労ってくれた。
毎日訪れていたはずなのに、この家がすごく懐かしく感じる。
なんだかこう・・・・『帰ってきたー!!』って感じだ。
なんやかんや言って、この世界に来てもう二年。
なんだかもう、今では日本にいた頃が、夢だったのではないかとさえ思う。
俺はもうすっかり、この世界の住人だ。
「アリア、今日この後って最優先で片付けなきゃいけない仕事とかってある?」
「おや、珍しいですわね。 いつもであれば、『疲れた』と申されて、執務室のベットへ直行されるのが常ですが。」
「今日はさ、なんだかぜんぜんまだ疲れていないんだよ。」
廊下の真ん中で、ガッツポーズをとるカイトに苦笑を浮かべたアリアは、カイトと共にこれまで先延ばしにしていた仕事の片付けへと向かって行った・・・・・
◇◇◇
カイトがグレーツクを離れて半月後。
スラッグ連邦の邦都グラードの御殿。
重厚な趣のこの御殿内で、武装した兵士のような男が、平伏姿勢をとっていた。
その彼の前には、十二単のような、重そうな服装の偉そうな男が、一段高いところにある椅子に深く、腰掛けていた。
「『地響きの戦士』よ、報告せよ。」
「ははっ、大帝陛下にご報告申し上げます!! グレーツクの住民の反乱は、現在はグレッドの谷で沈着しております。」
『地響きの戦士』と呼ばれた兵士からの報告に、大帝はしばし、思案気になった。
ちなみに報告する兵士は、終始平伏の姿勢のままである。
それが、この国における、礼儀作法であった。
「ふむ・・・・ 奴らの要求は何だ? 国家の転覆か??」
「いえ、違うようです。 おそれながら、州長を拘束した彼らは、『カイトを州長に!!』なる旗を掲げ、かの領の国境を、占拠しております。」
「『カイト』とは、いかなる者だ? そやつ、よもやクーデターを企てているのではあるまいな?」
「恐れながらご報告申し上げます。 グレーツク反乱の総指揮を執っている者の話によりますと、『隣国のベアルから来た、自分たちの復興をすべてしてくれた者』だと・・・・」
大帝と呼ばれる男は、すぐの判断は出せなかった。
彼らを殲滅するのは、容易い。
だがそれだと、かの地は金にならなくなる。
大帝は、この国の富の事だけに、執着していた。
「後日、追って沙汰する。 それまで反乱者どもは、一人として殺さぬように!!」
「ははっ!! わが連邦に、恒久の幸あらん事を!!」
嵐の予感がする。
むむ・・・・?
大帝陛下、出てきちゃいましたよ??
どうしましょう。
今の時点では、アーバン法国の国王様以外、マトモに出てきていないはずだったのに・・・・