第127話・うまくいかないな
この世界では現状、武具はかなり高価です。
一生ものの買い物と言えます。
だから『冒険者』は、大抵借金があります。
武具が壊れたら、修復ができる魔導師へ持っていくなどします。
普通、武具には『強化魔法』が付与されているので、壊れるなど滅多には無いのですが・・・・
ちなみに、ギルドでは武具の貸し出しも行っているので、それを利用する者もかなり多いようです。
「アリア、何でボルタは発展しないの?」
「カイト様、かの街をお造りになってから、まだ三月と経っておりませんわ。」
カイトの疑問に、尤もな感想を述べる、アリア。
ボルタを貿易港として造成して三ヶ月。
今では、この街からは一週間に一度ほどは、海の向こうスラッグ連邦の港町、グレーツク行きの交易船が出帆していた。
行きは、主にべアルで収穫された、ソギクを満載にして。
帰りは、この大陸では希少となる、精錬された鉄鉱石を満載にして。
これら鉄鉱石は、冒険者の装備や、馬車の部品、教会の鐘などになる。
カイトはこれら貿易で、ボルタを大きくする心積もりであった。
だがふたを開けてみると、行きは貿易の品で、船が満杯になっているのに対し、
帰りはかなり僅かな鉄鉱石しか、船に乗せていないのだ。
商人たちに聞くと、彼らはあまり多く、鉄鉱石を売ってくれないらしい。
端的に言うと、出し渋りして、値を吊り上げているらしかった。
だから、現状で限界だとの事だった。
毎回商人達が持ち帰ってくる量は、本当に少ないのだ。
これでは盾を二つ作れば、終了である。
船の積載スペースの、十分の一も活用されていない。
かなり、もったいない。
だが、売ってくれないのならば、どうしようもなかった。
「アリア、俺は・・・・」
「『てつどう』ですか? いくらかかるのか分かりませんが・・・・ ここボルタからベアルまでならば距離も遠くはありませんし、なんとか・・・・・」
「いや・・・・今はいい。」
「・・・・よろしいのですか?」
「ああ。」
よろしいのだ。
本当はよろしくないが、鉄道建設は、問題が多すぎる。
問題として、貿易量が少なすぎる。
これでは、輸送量が少ないのだから、鉄道なんか要らない。
造っても、すぐに廃線になるだけである。
領主の何とやらで、廃線は回避できるかもしれないが、何も運んでいない鉄道など、見ても悲壮感漂うだけだ。
ならば、造らないほうが、ずっとマシである。
俺は鉄道が大好きだが、金持ちの道楽で負の遺産を作る気は無いのだ。
かねてからの夢は、とどのつまりを見せた。
アテが外れたな・・・・
「カイト様、ボルタはこれからもっと、きっと大きくなりますわ!! 私も精一杯、ご尽力差し上げます。 ベアルも、あそこまで大きくなったではありませんか!」
「ありがとう、アリア。」
俺の落胆を払拭するように、アリアがベアルのことを話し出す。
アリアの言うとおり、ベアルはかなり大きくなった。
二年前には人口38人しかいなかった、村みたいだったところが、いまや人口3000人を超える、大都市だ。
毎日1000人以上の巡礼者が訪れる、大陸の西側唯一の、マイヤル教の巡礼都市でもある。
街道整備の甲斐もあって、交易の馬車がひっきりなしに行き交い、いまやベアルは大陸一の、先進都市とか言われているらしい。
急成長とは、まさにこの事を言うのだろう。
しかし・・・
「ベアルが大きくなったのは、俺のおかげなんかじゃないよ。 アリアやノゾミ、イリスさん・・・みんなのおかげであそこまで大きくなったんだ。 俺一人だったら、今頃あの街は、廃都になっていたよ。」
率直な気持ちだ。
国王様のおかげで、バルアと言う領地の監督官になった。
ノゾミのおかげで、この街に、『開拓団』を呼ぶことができた。
何より、何もわかっていない俺の代わりに、アリアが公務をこなしてくれたおかげで、今があった。
ダリアさん、イリスさん、クレアさん、それに・・・・いや、騎士のゼルダさんはいいや。
とにかく俺は、みんなに助けられてばかりだ。
領主なんか、ヤメろよと言われても仕方ないぐらい、何もしていない。
・・・・こう考えると、俺はいったい、この領地の何なのだろうか??
今更だが、辞退を申し出ようか?
今度、国王様あたりに相談でもしてみよう。
そんな俺にアリアは、とても深いため息をついてきた。
アリアのこれは、大抵俺に、『あなたは何もわかっていない』と、物申すときの仕草である。
確かに俺は、わかっていないことが多いが、事今回に限ってみれば、正解に近いはずである。
「それを申されるのであれば、私一人であっても、あの街はきっと、今頃廃都ですわ。 私一人でできることなど、あまりにも少ないのです。 知っていますか? 他の領地や、諸外国のものたちがカイト様をどう呼んでいるのか。」
「どうって・・・・・冒険者上がりの、アホ領主?」
考え込むようにして言う、カイト。
自覚があったようだ。
確かに彼は、そう呼ばれている気がしなくも無い。
だが、アリアはかぶりを振る。
まあ、これは呼ぶと言うか、陰口を叩かれているというのが相応しいので、当然だろう。
「・・・あなたは、おバカ過ぎますわ。 ええ、それはもう、完膚なきまでに。」
真剣な表情で、『バカ』と言われてしまったカイトは、そこそこのダメージを負った。
いつものように、苦笑を浮かべて言われるよりずっと、深く心に突き刺さった。
ぐうう・・・・・痛い。
ダリアさんとガチンコバトルして、大怪我負ったときよりも痛い。
間違いない。
アリアには、ドSの神様が憑いている。
ますますバカな事を考えているカイトを、戒めるようにアリアが、話を続ける。
「いいですか、カイト様。 確かにあなたは完膚なきまでにおバカな方ですが、それだけであれば、ベアルが大きく発展することなどありませんわ!! 言いたくはありませんでしたが、あなたを他の者達はですね・・・」
ここまでアリアがしゃべったところで、その言葉は、ボルタの騎士によって遮られた。
「大公様、緊急事態です!! グレーツクの街が・・・・」
「「え?」」
アリアと、俺の声がハモッた。
この後に聞かせられた衝撃的なことに、俺達は今まで、何を話していたかなんて彼方へ飛んでいってしまった・・・・
グレーツク、どうしたの?
ええ、これのせいで、鉄道が遅れたんです。
話数的には。