第126話・晴れやかだったワケ
これからも、がんばっていきます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
海賊船事件から、早いものでもう三ヶ月。
開始早々に滞ってしまった、スラッグ連邦との交易に関する商人の見解も、やっとやわらかくなり始め、再び交易船が出してもらえる兆しが見えてきた。
死んでしまった、商人たちの家族も、『商人の間でそういったことは日常茶飯事だ』と、俺を責めてくるようなことはまったく無かった。
今その人たちは、それぞれが残された店や業務などを切り盛りしているとの事。
この街は、本当にいい人ばかりである。
だが、いい事ばかりがあったわけではなかった。
つい先ほど、あの事件に対する、連邦からの回答が王都から届いた。
最初に読んだらしい、アリアが封書ごと持って、執務室へやってきた。
その表情は、いつに無く暗い。
きっと、いい内容ではなかったのだろう・・・・
「・・・読み上げさせていただきますわ。 『本件、スラッグ連邦のほうとしても、大変に遺憾に思う。 直ちに調査隊を派遣して、この事実関係を調べ、犯人たる州長を我々は、逮捕。 本国の法律に則り、死罪申し渡した。」
「・・え・・・・?」
死罪って・・・
処刑したの!??
ダメじゃん!!
それじゃあ、事件の全容が闇の中・・・
しかしまだ終わってはいないようで、アリアはこちらに視線を向けた。
その目には、はっきりと怒気が見えた。
「『なお、賠償金についての件だが、本件でわが国が被った被害もかなり大きく・・・・ これを払うことは、かなえることができない。』」
取ってつけたような、文章である。
連邦のお国柄が、はっきりと表れている気がした。
自分の被害が大きいからって、他人様に迷惑かけたのに、『痛み分け』の申し入れである。
どこのガキ大将か。
国王様も、少し怒ったらしい。
そうだろうな。
「『なお、こちらに落ち度があったのは事実なので、貴行の領地からの交易船が、グレーツクへ入港、貿易することを許可する。』・・・以上ですわ。」
ここで、終了らしい。
アリアが、広げた文書を、クルクルと巻き、俺へと差し出す。
「・・・・それって良い事なの?」
文書を受け取り、机の引き出しに入れた俺は、疑問を口にする。
なんか聞こえ的には、『鎖国していた日本が、ロシアに長崎への入港許可をくれた』みたいな内容にも聞こえるが、そもそもスラッグ連邦は、鎖国なんかしていないはずである。
「そうですわね・・・・ 悪い話ではないのですが、事この件で持ち出されたのは、何とも形容しがたいことですわ。」
嬉しさ半分、やるせなさ半分といった所か。
もともと俺たちは、今名前が出てきた、『グレーツク』という港で貿易をしようとした。
しかし、これは許可されず、外れの漁村に変えさせられた過去がある。
過去といっても四ヶ月も経ってはいないけど。
それが許可されたのだ。
なるほど、俺も嬉しい気持ちが出ては来た。
・・・・・だが、なんとも言えない。
本当に、あまり嬉しくは無い。
アリアの方を向くと、「それと・・・」と、何かを付け加え始めた。
他にも何か、ビミョーな申し入れでもあったのだろうか?
「実はこれは、バルアで聞いた話なのですが、『リグスクの州長』は、死罪を申し付けられたものの、死罪にはならなかったようですわ。」
「は? どういうこと??」
死罪なのに、死罪になっていない??
連邦が、かくまったとか?
それは最悪だな。 どうしようもない国である。
そんな俺の感情を汲み取ったようで、アリアがかぶりを振る。
「いいえ、カイト様。 彼はすでに、死んでおります。 その確認は取れております。」
資料はこちらに・・・と、再び俺の机の上に、書類が置かれる。
結構、膨大な量のようで、厚さがかなりある。
読むのは、大変そうだ。
「スラッグ連邦の調査隊がこの領に入る少し前、リグスクの街では自然災害があったようです。 それに巻き込まれ、彼は死んだようですわ。」
「は~~~、ずいぶんとまあ・・・・・」
タイミングよろしいというか・・・・
運の悪いヤツというか・・・・
「自然災害って何ナノ? 高潮とか??」
嵐の高潮に、呑まれたのかな?
そんな気がした。
だが、アリアはかぶりを振って、トンデモ無い報告を上げてきた。
「ドラゴンが、この街を襲ったようですわ。 タマにこういった事もあるのですが・・・なんとも口惜しい限りですわ。」
「・・・・。」
本当に悔しそうに、地団駄を踏むアリア。
カイトは、嫌な予感・・・ いや、たぶん大正解が頭をよぎった。
「突然、街の真ん中に、赤い飛竜が転移でやってきたようですわ。 目的は分かりませんが、その竜は、一直線に州長邸へ突っ込み、これを口から吐いたブレスで消滅させ、またその姿を消して行ったようですわ。 きっと、戯れにでも来たのでしょう。」
それにしても、なぜ州長邸だけを襲ったのかが、分からないと、腕を組んで考え込むアリア。
俺は三ヶ月前あの日、ダリアさんが転移するのを止められなかった。
結局あの日は、ノゾミと海賊船から『大砲』を降ろして終わった。
屋敷に帰ると、先程とは打って変わって、『お帰りなさいませ、カイト殿様』と、笑顔で出迎えられてしまったので、質問することはヤメにしたのだ。
ちなみにそのときの彼女の頬にあったモミジマークは、勝手に俺のそばから離れた罰として、クレアさんから食らったものだったらしい。
それでもなお、あそこまで晴れやかな笑顔を俺に向けて来た訳・・・・・
聞くべきだった。
聞いたところで、どうしようもなかったけど、聞くべきだった。
どうしようもない罪悪感が、俺を包み込む・・・
「・・・カイト様、どうかしましたか??」
連邦へのブーイングなど、とてもできない状況となってしまった。
イロイロな理由で、秘密だけど。
言うまでも無く・・・・
リグスクを襲ったのは、ダリアさんです。
ええ、メイド時代に培った『自制心』とやらで、州長邸だけを、襲ったようです。
ちなみに彼女はこの後、カイトに問い詰められました。
当然、答えは「YES」で・・・・・