第121話・囮作戦
これからも、頑張っていきます。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!
カラ~ン、カラ~ンと、街の大聖堂の、鐘の音が町中に鳴り響きます。
この鐘の音を合図に、この街の住人たちは、畑へ出向いたり、検問所を開いたり。
各々(おのおの)の仕事に就くようです。
人間とは、本当に面白い生き物です。
毎日これでは、いつか嫌になったりはしないのでしょうか?
ちなみに私は、現状楽しいので、特に飽きたり、嫌気がさしたりはしません。
なんと言っても、私は誇り高きドラゴンです!!
自分で言い出した以上、百年は続けるつもりです。
『メイド』
なかなかやってみると、面白いものです。
まあ、この辺りのメイドのよさたる説明は、また今度といたしましょう。
「大公様ーーーーーーーーーー!!!!」
「奥様、どこに居られるのですか!!????」
「お姉ちゃん、どこお!!?」
「カイトォ、アリアちゃん、どこ言ったのーーー!?」
「ど・・・どこにもいないーーーーーー!!????」
いま、この屋敷内は、蜂の巣を突いたような騒ぎです。
昨夜頃から、カイト殿様たちが、行方知れずとなりました。
朝になってもお帰りにならなかったので、『お二人は何かしらの事件に巻き込まれてしまったのではあるまいか!?』と、スゴく突飛なことを言い出す者まで現れ始めました。
思い出すだけで、笑えます。
カイト殿様が、巻き込まれる事件があったとすれば、それは世界滅亡級です。
ドラゴンの私でも、きっと生き残れないでしょう。
大騒ぎなど、意味もありません。
実は私は、彼らの足取りを知っています。
彼らは昨夜、この屋敷から転移でボルタに行ったようです。
そこからは移動速度が遅いので・・・・
船でしょう。
私の作った船で、海賊とやらと、遊びに行ったのでしょう。
楽しそうです。
私もその遊戯に付いていきたくはありましたが、夫婦の営みとして、何かしらの儀式なのかもしれません。
だとすれば、メイドの私はそれを黙って見送り、見守るのが役得です。
彼らが騒いでいるのも、付いていきたかったに違いありません。
足取りを教えては、付いていきかねませんね。
ここは、『知らぬ、存ぜぬ』で通しましょう。
これは、カイト殿様から教えていただいた言葉です。
知らん振りすることを、こう言うそうです。
響きがいいので、覚えました。
「ダリア、あなたは大公様方の、行き先は知らないのですか?」
「いいえ、存じ上げません。」
聞いてきたのは、先輩メイドのクレア様です。
クレア様は、私にメイドの何たるかなどを教えてくれた、神様です。
彼女に逆らったら、私でも死ぬかもしれません。
・・・ですが、ここは夫婦の営みを優先して、『知らぬ、存ぜぬ』で通します。
死ぬかもしれませんが、困るクレア様の顔も見てみたくはあるので、こうしておきます。
「そうですか・・・、あなたはいつもの業務にお戻りなさい。」
「かしこまりました。」
一礼して、いつもの朝の日課・・・
朝食の準備に移ります。
この数百年の戦いに明け暮れていた生活とは違い、大変に新鮮な気持ちのなります。
じつに、毎日が楽しいです。
でも・・・・
カイト殿様。
出来れば今度でいいので、私も『遊戯』に連れて行ってください。
妻にはなりませんが、タマには戯れもしたいので。
◇◇◇
「うげえええええええええええ・・・・・」
「カイト様? さっきから一体、何をなさっているのですか??」
船の舷側で、ゲッソリしているカイトに、アリアはジト目を向ける。
彼女の後ろには、カイトの風魔法を頼りに、船の帆を動かすゴーレムたちがいる。
そのどれもが、カイトに『大丈夫か?コイツ』という感じの視線を向けていた。
カイトは、ズバリ船酔いをしていた。
出航の際は威勢よく、『海賊よ! 貴様を叩き潰す!!』とか言っていたのに、今や彼は、完全にグロッキー状態だ。
これでは海賊どころではない。
船酔いを治してから、再出発することをお勧めする。
「船酔いですかね? カイト様の魔法で、どうにかならないのですか??」
「あうげふ・・・・したよ・・・・・したけど・・・うぶほ!?」
「・・・・・・。」
したけど、回復魔法で治しても、治した端からまた船酔いするので、効果が無かったのだ。
カイトが、魔法を明確にイメージできなかったのも、船酔いが続く原因だ。
カイトはもう少し魔法学などを、勉強をするべきである。
「海賊・・・・・ 早く出て来い・・・・ 出ないとこのままでは俺が・・・・」
「・・・・・・。」
カイトの背後で、彼の背中をさすりながら、苦笑を浮かべるアリア。
こちら側の戦力は、あっという間に失墜である。
本当に、帰ったほうが良い。
こんなに船が揺れるのは、外洋と言うのもあるが、大きな理由は近くをずっと泳いでいる、クザーラと言う、大型の海洋魔獣のせいでもある。
この魔獣の巨体のせいで、波が出来、船が揺れやすくなっていたのだ。
これは自然現象なので、どうすることも出来なかった。
戦闘に備え、魔力温存を図るカイトにも、手の下しようは無かった。
「海賊よ・・・・早く・・・・・・はやく・・・・・・・・!!!!」
「・・・・・。」
カイトの船酔いはもうしばらく、続くのだった・・・・・
ダリアさん、まだ言葉遣いぎこちないですね。
だいぶクレアさんたちの手によって、矯正されてきていますが・・・・
さすがは、ダリアさんな考え方でした。