第120話・忍ぶ者
これからも、頑張っていきます。
感想など、ありましたらどんどんお寄せください!!
ボルタから転移でベアルへ戻ってきた後、まず俺は、交易船の生存者を、この街の仮設の治療院とやらに入れた。
これは、日本で言う小さな病院のようなものだ。
俺の治癒魔法で彼らは、怪我は無くなったが、大事をとって、このようにした。
病院は、大事だ。
その後、屋敷に戻るまで間に、俺は考えた。
なぜ、居ないと思った海賊が出没したのかは分からない。
だが、彼らは間違いなく現れ、そして交易船を襲った。
しかし、魔法で調べてみても、それらしい船影は、見当たらなかった。
気配隠蔽魔法を行使しているのかもしれない・・・・
だとしたら、探しようが無い。
砂漠の中で、一本の針を探すくらい難しいことだ。
ではどうすればいいか。
簡単だ。
自分を、囮にすればいい。
そうすれば、探さなくとも、あちらから出向いてくれる。
ダリアさんが造ってくれたあの大きな船を、交易船っぽく偽装して、あの海を行くのだ。
偽装といっても、大した事をするわけではない。
俺のアイテム・ボックス内にあるガラクタを、テキトーに船倉にでもぶちまけて、ゴーレムの乗客を乗せる。 むろん、武装はさせない。
それだけだ。
これだけでも、一応それらしい交易船には、見える気がする。
このときに、俺のほかには、誰も連れて行かない。
この作戦は、死亡フラグ過ぎるのだ。
自らを囮にして、海賊を調査する。
その際、決して武装していてはならない。
武装すると、下手をすれば討伐隊と勘違いされ、彼らは出てこない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか彼は、自分の執務室へ付いていた。
腹は決まった。
これから転移でボルタへ向かって、船で早速、現場海域へ向かおうと思う。
夜に出ないと、ボルタなどで騎士さんたちに見つかりまた、止められてしまう。
自分も付いていくとか言われては、目も当てられない。
犠牲は俺だけで十分だ!!
・・・いや、死にに行くわけではないけどもさ。
女神様の『不死』の加護は、数メートル単位での転移でしかないのだ。
もし海に投げ出されれば、転移の間に、溺死してしまうだろう。
これから俺がする事は、それだけ危ないのだ。
あくまで『調査目的』なので、海賊は見つけ次第、殲滅。
それが目的だ。
ちなみにだが、それを『調査目的』というのは、明らかな間違いである。
「え~~っと、この部屋のタンス、使ってないんだよな。 それも積むか。」
カイトは、これから出航させる『交易船』に積む物品の見繕いを始めた。
といっても、あまり追加などは出来ないのだが。
アイテム・ボックスに入っている分だけでも、相当な量なので、十分だろう。
ベットと机以外、何もなくなった彼の執務室は、かなり殺風景になった。
物品はすでに、アイテム・ボックスへと入れている。
これで準備万端だ。
「さて、では転移をーーー・・・・」
「そんな事だろうと思いましたわ。」
「----・・・・・え?」
今まさに転移を発動しようとした瞬間、肩に手を置かれた。
カイトの身を包んでいた転移の光も、途端に収束する。
アリアだ・・・・・
ドアをノックする音は、聞こえなかった。
もちろん、扉が開く音も・・・
なぜ彼女がこの部屋に居るのか、まったく分からないといった顔をするカイト。
そんな彼に、ヤレヤレとため息をつきつつ、彼女は眼光鋭く、カイトを見据える。
「アリア、何でここにーーー・・・・・」
「カイト様、いったいこんな夜中にどちらへ向かわれるおつもりだったのですか?」
悪戯っぽい微笑みを浮かべ、彼の胸の辺りをトンと、押すアリア。
それは・・・・と、答えを出しあぐねるカイト。
予想外の事態に、答えを用意していなかったカイトは、挙動不審になってしまった。
するとアリアは、分かった風にふう・・・と、ひとつため息をつくと、今一度彼の肩に右手を乗せ、こう切り出した。
「行き先は分かっておりますわ。 ボルタから船で出航して、自らを囮にして海賊の調査へ出向かわれるのでしょう?」
「!!?」
あまりに的確に、図星を突かれてしまったカイトの顔は、驚愕に包まれた。
だが、彼女の言葉はとまらない。
「私の部屋にも、使っていない品ならありますわ。 少しでも交易船らしく見せなくては、もし現れなかったらとんだ、骨折り損ですからね。」
「あ・・・ありがとう、恩に着るよ・・・・」
彼女からの意外な言葉に驚きつつも、ホッとするカイト。
見つかったときは、てっきり行くのを止められると思ったのだ。
図星を突かれた時は、なおさら・・・・
これにはカイトも、安心した。
「もちろん、私もあなた様に同行させていただきますわ。」
「な・・・!? それはダメだ、危険すぎる!! これは俺だけで・・・」
「あなただけでは危険だから、私も付いていって差し上げるのですわ。 お目付け役として。」
カイトが声を荒げたのを、モノともせず、アリアは毅然とした態度をとった。
その言葉に、一分の迷いも無い。
だが、これは危険な任務なのだ。
彼女を連れて行くなど、論外すぎる。
必死で、カイトは彼女の説得を試みる。
「アリア、今回の件は俺一人に責任がある。 落とし前は、俺一人でつけたいんだ。 もし何かあっても、犠牲は俺一人だけで・・・・」
「おや? あなた様はただの『偵察』に赴くのに、犠牲になるのですか??」
彼にジト目を向けつつ再び、カイトの胸の辺りを軽く、トンと、押すアリア。
対するカイトはここで、ウッと言葉を詰まらせる。
カイトの力量であれば、何とか偵察だけであれば、逃げ切ることも出来る。
だが、それではほとんど、意味が無いと、カイトは思っていた。
アリアはこの辺りをしっかり、理解していた。
「私が付いていけば、あなた様はきっと、必死でボルタにお帰りになろうとするはずですわ。 お目付け役として、私は適任ではないでしょうか?」
自信ありげに、胸を張るアリア。
彼女の説得は無理なようだ。
さらには・・・・
「転移を始めようとしたら、ボルタに連絡して船を出航できないようにするつもりだろう?」
「おや、分かっているではありませんか。 さすがはカイト様♪」
これまで見せてきた中で、最高の笑顔を見せてくるアリア。
分かっているも何も、転移の技術を応用して俺が作った、魔導電話である。
遠くでも、すぐに魔力を流し込むだけで相手と話が出来る。
なおその際、相手の魔力と顔をイメージしなければ、つながらない。
記憶力のいいアリアは、ボルタに居る騎士の顔と魔力くらい、覚えている。
彼女が活用しないはずがないのだ。
「あああ・・・もっと早く、転移しておくんだった・・・・」
「無駄ですわ。 私はカイト様がこの部屋で『タンスがどうの・・・』と仰っている時にはこの部屋に居たのですから。」
ガクッと肩を落とすカイトに、畳み掛けるようにそう言い放ったアリア。
最初から全部、彼女にはお見通しだったようだ。
誰も連れて行かないつもりだったのに、まさかのアリアを連れて行くことになってしまった。
最悪だ。
どうにかできないものか。
「さあカイト様、時間がありませんわ。 早く出発と行きましょう。」
「はあ・・・・分かったよ。」
無理そうだ。
なんとか、彼女には危害が及ばぬよう、全力で事に当たろう。
カイトは固くそう決意し、転移でアリアとともにボルタの港へと向かった・・・・
カイトが、部屋でガサゴソやっている音にまぎれて、アリアは彼の部屋に侵入したらしいです。
このとき彼は、まさか誰か入ってくるとは思っていなかったので、魔法は使っていませんでした。
鍵も寝るときですら、いつも掛けていなかったので・・・・
カイト、ウカツ過ぎます。