第118話・海賊被害
説明不足でしたので、こちらにて。
『アスターズ商会』の交易船が向かっていた港とは、スラッグ連邦属領グレーツクの『サルボ』という漁村です。
国と交渉はしたのですが、ここしか交易船の入港は、認めてもらえなかったようです。
これから先、あまり出てくるような村でもないので、こちらで書く事としました。
報告からすぐにボルタへ向かったカイト。
いつもはいるアリア達も、今回は連れてきていない。
あまりに突然のことだったので、自分と、報告に来た騎士の二人だけで、転移魔法を使って大急ぎでボルタへとやって来たのだ。
港に到着するなり、ボルタに常駐させていた騎士三人と、数体のゴーレム兵が、カイトに駆け寄ってきた。
雰囲気からして彼らは、誰しもが焦っているようだった。
「何があったんだ!?」
開口一番、カイトは起きた事について彼らに聞いた。
今は、出没したという、『海賊』とは、どういうことなのかを聞きたかった。
いや・・・カイトは、起きたことを信じたくなくて、質問をした。
だが、彼らはうつむいたまま一言も、発さなかった。
直感として、最悪な事態を感じ取ったカイトは、彼らの横を通り過ぎ、港のある方へ急いだ。
しかしそこには、ダリアが作った船の姿はなかった。
あるのは、港に係留されたボロボロになった救命いかだと、港から騎士たちの詰所へ点々と続く、血の痕だけだ。
よく見ると、救命いかだの中は、血のりだらけだ。
この光景に、カイトは、顔をしかめた。
突然全力で走り出したカイトに、騎士たちがやっと、追いつきかけたところで、再びカイトは走り出した。
騎士たちの詰所へ。
いかだがあるという事は、生存者がいると考えられる。
カイトは本人たちに、直接話を聞きたいと思った。
いったい、洋上で何があったのかを聞きたかった。
詰所内へ、駆け込んだカイト。
そこには、担架に二人の男性が寝かせられていた。
一人は、全身が包帯で巻かれ、見るからに大怪我をしているようで、寝かせられていた。
もう一人は、あまり大きな怪我をしている様子はなかったが、衣服などはボロボロであった。
ほかに、人間は見当たらなかった。
カイトには、今おかれている状況が、さっぱり飲み込めていなかった。
そんな彼の背後には、いつの間にか先ほどの騎士たちが集まっていた。
その表情は、誰しもが暗い。
これだけで、商会の船がどうなったのかは、分かった気がした。
だが、聞かずには居れなかった。
「他の人間はどうしたんだ? どこか別のところへ搬送しているのか??」
カイトの質問に、ひと時の静寂が訪れた後、消え入りそうな声で一人の騎士が、起きたことの説明を始めた。
それは、聞くだけで背筋が凍りそうな、凄惨な事件であった。
二日前、ボルタから一番近いスラッグ連邦の都市、グレーツクへ向かっていた交易船は、風もちょうど良い具合に吹いており、順風満帆だったという。
だがここで、突如として血ぬれの、ボロボロな黒い帆船がはるか沖のほうからこちらへ、近づいてくるのが見えたという。
瞬間、巨大な火炎が船を貫き、商会の船は一瞬にして火の海に包まれた。
船は、数分と経たずに沈没した。
何隻か浮かんだ、救命艇につかまり、九死に一生を得た乗組員たちに見えたが、かの船は、その救命艇に乗り組み、人間を惨殺して行った。
残った乗組員たちは、大急ぎで救命艇を走らせたが、間に合わなかった。
今いるものは、その襲撃された救命艇に乗っていた二人だ。
惨殺寸前で波でいかだが揺れて、相手の男が海に落ち、その隙に大急ぎで逃げたのだとか。
何度か、先ほどの火炎攻撃にもさらされたが、洋上に浮かぶ木の葉のようにあおられるいかだに、なかなか照準が定まらず、逃げ切ることができたらしい。
運が良かったというしか、言いようがなかった。
この話は今、休んでいる比較的軽傷の男から聞いたのだという。
生き残りは、この二人だけである。
カイトには、にわかには信じられなかった。
二年前、ダリアとこの海域を魔法で調べたときには、魔獣位しかいなかったはずだ。
てっきり、数十年前にこの街を廃都に追い込んだ海賊は、廃業したのだろうと考えてしまった。
その結果が、このザマだった。
自分の調査ミスで、多くの犠牲を出してしまった。
カイトは、怒りに打ち震えた。
何が鉄道だ。
俺のバカな妄想のために、何人もの人間が命を落としてしまった。
では、ボルタはこのまま閉鎖するのか?
それでは、数十年前と一緒だ。
何も変わりはしない。
彼らが何者なのか、数十年前の被害との関連性があるのか、調べなければならない。
そして、徹底的に壊滅させなければならない。
そしてカイトは、決意を固めた。
「報告してくれてありがとう。 俺は調査に行ってくる。 何日かしたら帰るから、アリアたちにはそう、伝えておいてくれ。」
「大公様? どちらへ??」
「おれは、この船で調査に行ってくる。 この事態の落とし前は、俺がつける!!」
そう、調べなければならない。
さっきの事と、何よりドラゴンが作った堅牢な船が、轟沈するほどの威力の、攻撃というのを。
カイトは前にダリアさんが作ったもう一隻の大きな船を指差した。
これで、現場海域へ突撃を敢行する。
だがそれはつまり、調べに行くという、カイト自身も危険にさらされる確率が高いことを意味する。
「おやめください、危険です!! 相手が何者なのかも、現時点では分かっておりません!!」
「それを俺が調べに行く! このままじゃ、またこの街は、廃都だぞ!?」
少し言いよどんだ後、騎士の一人が、口調を少し荒げて、カイトを諭した。
「大公様、あなた様はこの領地の、領主様です。 あなた様に万が一があっては、この領は再び、路頭に迷ってしまいます、今はこらえてください!!」
「・・・・・。」
その剣幕に、カイトは何も答えることができなかった。
幾人かの騎士が、涙を流し始めた。
そのすすり泣く声は、外のさざ波によって、かき消されていく。
海へ目を向け、再び探索魔法をこの海域全部へ行使してみるカイト。
しかしここの海域は前と同じように、船は一隻も航行していないようだった・・・・
海賊編、短い予定でしたが、長くなってしまうかもしれないです・・・・
また、イロイロな予定が遠のきます・・・・