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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第7章 ボルタと貿易
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第117話・ボルタ計画

これからも、がんばっていきます。

感想など、ありましたら、どんどんお寄せください!!

今まで、ここベアルで栽培されたソギクという、パンの原料となる穀物の輸出は、主に馬車で行われていた。

これからも、そうなるだろうと思っていた。

・・・・領主様以外は。


領主様・・・

つまりカイトが、ボルタを復興させることにしたのは、何も領地の豊かにすることではなかった。

それは副産物に過ぎない。

彼がボルタを気に掛けていた真の目的、それは・・・・・


「ふふ・・・・鉄道が近い、近いぞ。」


領主邸の一室で、黒い笑みを浮かべるカイト。

見た感じは、時代劇によく出てくる、悪役代官そのものである。

本人は、これにまったく気が付いていない。

内容からして、そんなに腹黒いものではないのだが・・・


「ボルタで交易ができれば、たぶん俺が思っている以上に発展する。 そうすれば、輸送量が増える。  鉄道が、敷ける!!」


ムフフと変わらず、黒い笑みを浮かべるカイト。

このために、ボルタへの街道は、あえて整備はせずに、魔力灯を設置するにとどめたのだ。

途中、川の急流などで、大きく迂回うかいしている道も、橋は架けずにそのままだ。

ボルタを、がんばって整備したのも、それに起因する。


・・・前言は撤回てっかいだ。

こいつは、腹黒い。

バルカンが『金の亡者』なら、こいつは『テツの亡者』だ。

すぐにしょっぴいた方が、世界経済のためになるかもしれない。

しかし残念ながら、ここは自治領なので、彼をさばける人間は存在しない。

まあ、有事には、彼の妻にクーデターでも起こしていただくとしよう。


そんな腹黒領主様の部屋の扉が、コンコンと、ノックされた。

すぐに表情を引き締め、入るよう促すカイト。

アリアの熱血指導により、アホカイトも、前に比べて少しは、領主としての貫禄かんろくが出てきているかもしれない。

彼の頭に寝癖ねぐせが無ければ、立派な領主様に見えた。

相変わらずのカイトだった。


「失礼します、大公様。 『アスターズ商会』の荷物は無事、ボルタを出航し、スラッグ連邦の港へ向かったとの事です。」


報告に来たのは、家の警護を任せている騎士の一人、ゼルダさんだ。

彼は二年前、王宮で自殺しかけていたところを、カイトに助けられた過去を持つ。

今まで名前を聞く気は無かったのだが、そのせいで先日、ちょっとした不都合が生じたので聞いた。

ちなみに、その節のメイドさんの名前は、セリアさんというらしい。

名前まで似ているんだね、君たち。

ちなみに二人は、未だ付き合い続けているらしく、たまに二人で街中を歩いているのを見かけることがある。

傍から見ていると、ラブラブカップルだった。


それを見かけるたびに、カイトは彼らに対し、呪詛じゅそを吐いていた。

リア充絶頂のカイトこそ、世の男性に呪詛を吐かれるべき対象ではあるまいか?

まあ、領内には誰もそう思っている人間がいないのが、せめてもの救いだ。


「・・・・あの、どうかされましたか?」


カイトから返事が無いのを不思議に思った彼は、カイトに声をかけた。

ちなみにカイトは、この忠義あふれる騎士に対し、現在進行形で呪詛を吐いている。


「・・・大公・・・様??」


「あ・・・ああ、何でもない。 そうか、船は出港したのか・・・ よかったよかった。」


現実世界へ戻ってきた逆恨み領主様は、船の出航を素直に喜んだ。


試運転で、あの大きな船でボルタの港内を一周したのが、一週間前。

まだ、ほとんど設備が整っていないボルタであったが、そこから今日、記念すべき第一号のスラッグ連邦行きの交易船が、出帆したのである。

ちなみに船は、商会の注文に合わせて、ダリアさん新たにこしらえてくれたものである。

彼女はあれ以来、船造りが趣味になった。

おかしな趣味と思われるだろうが、作っている最中の彼女の幸せそうな顔を思い浮かべると、何も言うことはなくなってしまう。

ドラゴンの魔力で作っただけあって、小さくてもかなり頑丈な船ができた。

多少の嵐なら、遠洋に出ても、問題は無いだろうと思われる。

これからも、これは続けていくつもりだ。

ダリアさんが、造り続ける間は。


「わざわざ報告してくれてありがとう。 これからもよろしくね。」


「はい!! 精一杯、勤め上げますです!!!」


カイトのねぎらいの言葉に、敬礼をしてピシッとした格好で部屋を退出していくゼルダさん。

彼は、こんな大公様を、大変尊敬していた。

どこが尊敬できるのか、疑問に思うだろうが、彼にはそんなことは関係ない。

尊敬した者にかけられる、自分へのねぎらいの言葉。

彼が、感無量となるのも、無理は無かった。


カイトは、つゆほども気が付いていない。

『相変わらず空回り気味の、騎士の一人』程度の認識であった。


ゼルダさんが退出したことで、再び静寂せいじゃくを取り戻したカイトの執務室。

カイトは、先ほどの『ボルタ鉄道計画』が順調に進んでいるらしいことに、ほくそ笑んだ。


この世界に来て早いもので、もう二年。

つらかった。

鉄道が無い世界って、こんなにつらいのかと思った。

だが、まもなくそれも終わり。

これからは、俺にはバラ色の将来が待っているのだーーーーーーーーーーーー!!!!!!!


ここまで彼の心が叫び散らかしたところで、再び部屋のドアがノックされた。

心なしか、さっきより戸をたたく力が乱暴な気が・・・・・

今度はなんだろうか?

入室の許可を出す前に、ゼルダさんとは別の騎士さんが、慌てた様子で入ってきた。

相当急いだのか、息を切らしている。

まずはお落ち着くよう、席を勧めようとカイトが立ち上がりかけたところで、騎士が報告を始めた。


「大公様、緊急事態です!!  先日ボルタを出港しました『アスターズ商会』の船が、海賊に襲撃されたとの事です!! かなり深刻な被害が出ているとのことでございます!!」


「・・・・え・・・・・・・・・・?」


カイトの、『ボルタ鉄道計画』が、崩れていく音がした。

バラ色の未来は、常闇とこやみ地獄じごくへと化した。



海賊、登場?の回でした。

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