第115話・規格外
これからも、がんばっていきます。
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先日から、この街の街道にて、レッド・ウルフによるものと思われる旅人や商隊への、襲撃が多発していました。
そこで私たちは、カイト様にこの被害の収集を、一任することにしました。
本人もノリノリでしたし、ノゾミも一緒に行くとのことだったので、彼らに任せることにしました。
・・・・正直、あの二人でこの事態をいったい、どうやって収拾するのかが気になって仕方がありませんでしたが、護衛の者をつけようとしたら難く断られたので、任せるほかありませんでした。
まあ、この二人なら大丈夫だろうと、漠然とした安心感のようなものがあったので、それはいいです。
が、カイト様は帰ってくるなり真剣な表情で、私に話があると言って来ました。
まさか、事態の収集に失敗したのでは・・・・
いえ、無いですね。
私の旦那様は、失敗されたら夜まで帰ってきませんから。
今は昼過ぎなので、その線は薄そうです。
「どうしたんですか、カイト様。 改まって『話がある』だなんて。」
「うん、少し相談があって・・・・・」
カイト様の表情が、より一掃引き締まりました。
・・・・・あ。
これは、何か厄介ごとを抱えて帰ってきた感じですかね?
カイト様には、女難の相が出ていますからね。
レッド・ウルフの件で森に行った際に、行き倒れていた少女を拾ったとか・・・・
私は、不安からカイト様の背後にちらりと、視線を向けました。
「ん、俺の後ろに誰かいた??」
「・・・・・・。」
私の視線に呼応して、カイト様も後ろを振り向きました。
この部屋にはいないようですね。
ですが、疑いはまだ、あります。
ここは鎌をかけてみましょう。
「カイト様。 また、何かありましたわね?」
「おお、ダリアさんから聞いた!? そうそう、そんな感じ。」
決定ですわ。
なぜ、ここでダリアの名前が出るのかが分かりませんが、厄介ごと決定です。
領主の仕事に、関係ない方向で。
ここは、冷たい視線で責めつつ、温かい心で受け入れて差し上げましょう。
「カイト様、怒りませんわ。 怒りませんから、正直にお答えください。 いったい今度は、森でどなたをお拾われになったのですか? 状況を、その本人をここへ連れてきてお話ください。」
「待ってくれ!? 何か誤解してる!! 俺は誰も拾ってきていません!!!」
オドオドしながら、カイト様が私に向かって、必死に弁明しています。
拾ってきていない・・・・
つまり、連れて来たのでは・・・・
アリアの、カイトに対する疑いが最高潮に達したところで、彼は話の本題を切り出した。
アリアの顔が、最高に怖かったので。
「話っていうのは、ボルタのことだよ!!?」
「ボルタ・・・・ですか?」
カイトから『ボルタ』という単語を聞いて、キョトンとするアリア。
瞬間、アリアの周りに見えていた、赤黒いオーラが消滅した。
カイトを威圧する空気も軽くなる。
ホッと、安堵のため息をつくカイト。
「実は、アリアに相談したいって言うのは、ボルタの整備のことなんだ。 あそこが使えたら交易に良いなと思ってさ。」
「なるほど・・・・・・そういうことですか。」
腕を組み、考え込むアリア。
カイトの瞳は、期待に満ちている。
これでは、どっちが領主なのかが分からない。
アリアは澄ましたような顔をしているが内心、かなり驚いていた。
カイトから、こんなに領地のことを考えた提案が、聞けるだなんて思っても見なかったので。
この地の特産品のソギクは、今やいろいろな地へ交易品として輸出されている。
その交易相手として、海を挟んだ向こうの大陸を牛耳っている、スラッグ連邦がある。
ここは鉱山だらけの地で、作物の栽培には向かない土地が多い。
そのため、この国は、食品はかなり、輸入に頼っていた。
その代わり、武具などの原料となる、鉄鉱石を多く輸出する。
この街の、大事な交易相手である。
このルートは、アリアの提案によって、ベアルからバルアへ馬車で運んだ後、船で連邦へ至る。
この領地では領内の改革などは大抵、アリアが提案している。
本当にどっちが、領主なのかが分からない。
「ですがカイト様、前にもお話したとおり、ボルタは海賊が出ます。 その被害のせいで、かの地が廃都になってしまったのは、覚えておいでですね?」
これは、かなり重要だった。
ボルタが廃都になったのは、海賊被害のせいで、交易が滞ってしまったからである。
つまり、それが払拭されていなければ、結果は同じということ。
「いや、海賊に関しては問題ないと思う。 前に見に行ってみたけど、あの辺りの海には船一隻、浮かんでいなかったようだから。」
「・・・・・あなたは、いつの間にボルタへ向かわれていたのですか?」
カイトのトンデモ発言に、再び頭を抱えるアリア。
彼は、二日以上屋敷を空けたことは無い。
つまり、日帰りで馬車で数日かかる場所へ、出向いたことになる。
転移魔法が使えることは知っているが、あれは城の王宮魔導師でさえ発動すると、数ヶ月は使い物にならなくなるぐらい魔力を消耗するものなので、あまり使ってほしくなかった。
「実はさ、街は更地にして置いたんだよ。 ついでに元の道沿いと街道に、魔力灯を点けておいたんだ。 後は、アリアの許可だけなんだけど・・・・」
「・・・・・。」
アリアの不安なぞ何のその。
上目遣いにアリアに、ボルタ整備の嘆願を出すカイト。
毎度のことだが、彼は規格外すぎる。
毎回毎回、今日は生きているか、とヒヤヒヤさせられる。
だが、彼は、こちらのそんな気持ちはちーーーーとも、分かっておられない。
訴えても、ほとんど効果は無し。
疲れる。
このままでは、こっちが過労死してしまう。
全身から力が抜け、天井を仰いでいたアリアが彼にかけられる言葉は、これだけであった。
「・・・カイト様、ここの領主様はあなたです。 ただの妻である私の許可が、必要ですか?」
まだまだ、問題は山積みです。