第114話・二年後・・・・・
新章です。
ある節目を迎えるので、こういった形をとらせていただきました。
感想など、ありましたら、どんどんお寄せください。
ベアルに程近い森の中。
木々の間からは、日差しが漏れ、森の中は暗くはない。
べアル近くの森は、かなり広大な範囲がソギクの耕作地へ変わり、街の拡大に伴って森は、二年前に比べ、かなり狭くなっていた。
しかしこの辺りはまだ、開拓はされておらず、森のままだ。
しかしここも、前と違い街道には、この街の領主が設置した魔力灯が林立しており、夜でもかなり明るい。
大抵、旅人は夜になれば野宿をしていたが、ここの街道を通過するものたちの中では、そのまま夜通しで進むものも少なくはない。
そんな街道の中を、冒険者装備の二人が歩んでいた。
「話が分かるヒトで助かったなー。」
「カイト、あれはただの口約束だよ? 守るかどうかは・・・・」
「大丈夫、大丈夫! きっと守ってくれるって!!」
赤目赤毛のどこか馬鹿っぽい男性・・・・ これがここ、ベアルの領主様。
その横にいる赤目赤毛の少女・・・これはここから、山脈を越えた向こう側にあるバルアという街の領主様だ。
彼らは最近、この辺りで街道を通る旅人を襲うというレッド・ウルフの群れの長に、これを止めてもらうよう、話に行ったのだった。
彼らも、別に好きで襲っていたわけではなく、ただこちらに危害が及ぶ前に、自衛目的で襲われるのを未然に防いでいたに、過ぎなかった。
『ただ、逃げればよかったじゃん。』とカイトが言いかけた際、ノゾミには肘で小突かれた。
結局、この話し合いの中心は、ノゾミが済ませたといっても過言ではない。
とんだ領主様であった。
何はともあれ。
彼らは、人間は襲わずに自分たちも、街道や街には近づかないと約束してくれたのだ。
もちろん、彼らがこれを守ってくれるかどうかは不明だが、心配だからといってレッド・ウルフの群れを殲滅して良いわけでもないので、ノゾミもこれ以上の追求は止めた。
話している間に森を抜け、今は穀倉地帯の真ん中を歩いている。
たわわに実った、ソギクの穂が、重さで下へ垂れている。
まもなく、これらも収穫の時期である。
そして視線を前方へ移せば、そこには大きな建物がある街が見える。
これが、二年前まで人口38人しかいなかった村のような街だったベアルである。
二年の間にカイトをはじめ、この街に携わる者たちで
街に産業を興し、
この街へいたる街道を整備し、
無くなっていた警備兵団も復興し、
商会や教会を誘致し、
ここまでベアルを大きくした。
今は、住む人間も3000人を越え、町の中心部にいろいろな商店の建築ラッシュが巻き起こっていた。
まだ発展途上な街だが、これからもっと、大きくなっていくに違いなかった。
カイトたちも、その街をその眼で確認すると足取りも軽くなり、そこそこ距離があるにもかかわらず、あっという間に街の検問所まで着いた。
ここでは、身分証明書の提示の上で、通ることになっている。
普通、こういった街には城壁があり、検問も城門で行うのがステータスなのだが、この街の方針の、『街はどこまでも大きくなりうる。 城壁は、それの障害にしかならない』というもので、城壁はなかった。
その代わり、領主が造ったという魔防壁で、検問所以外からの進入は不可能にした。
さすがに、この世界では治安上、街を取り囲むものが何もなくては、危険なのだ。
下手な城郭都市よりは、この方がずっと安全で、効率がよかった。
「あれ? ちょっと待って。 俺、ギルドカードをどこへやったっけ??」
ガサゴソと、服のポケットや袖などを探るカイト。
彼はここを通る際、しょっちゅう、こういった事態に陥っていた。
その光景をよく見ている検問所の騎士は、苦笑いだ。
ちなみにノゾミは、すでに身分証明書は提示済みである。
「大公様、お通り頂いてかまいませんよ? 伯爵様の身分証明書は見せていただいておりいますし、私も大公様の顔は、見間違うはずがありませんから。」
「ま・・・待ってくれ!! 確かこっちに・・・・」
大公様とはカイトのことであり、伯爵様とはノゾミのことである。
普通、領主というものは、自分の領地では顔パスである。
しかしセキュリティー上、問題だ!!
と、この街の領主様が申したせいで、誰もがこの街での検問所通過では、身分証明書の提示が義務付けられていた。
今、領主様はそれに自ら引っかかっていた。
『ミイラ取りが、ミイラになる』とは、まさにこのことである。
まあ、検問所の人も頑なに通さないわけではないので、これはカイトの無駄な『こだわり』の副産物とも言えるんもだが。
「あった! これこれ!! はいどうぞ、見てください!!」
彼のギルドカードは、弁当箱に挟まっていた。
これには、騎士さんも苦笑いを隠しきれない。
「はい、確かに。 どうぞ、お通りください。」
カイトのギルドカードを確認し終えると、検問所の人は、彼らに通行許可を出す。
よくこんなやつが街の領主なんか務まるなと思われそうだが、周りの人たちの助けと、彼の信じられない運のよさで、すべてはよく分からないが、丸く収まっていた。
本当によく、分からないが丸く収まっていた。
一歩、街の中へ入れば、道の両脇では、多くの建物の建設の真っ最中であった。
これらはまもなく出来る、商店街の建物である。
その一角には、一年前に出来た『商会ギルド』のひときわ大きな建物がある。
この施設のおかげで、商店街建設のメドが立ったのだ。
これの誘致には、大変な苦労があったとアリア・・・彼の妻は言う。
カイトは土俵の外だったので、よく知らない。
そして先ほど、街の外から大きく見えていた建物は、近くで見ると、その存在感は圧巻であった。
その周りには、巡礼に隣国などから来た者たちなどが、ひしめき合っていた。
この大きな建物は、この街に一年半ほど前に建てられた『教会』である。
教会だが、その大きさと、司教様の知名度から、ここは『大聖堂』として扱われている。
『大聖堂』とは、遠く、聖地へ巡礼に行けない者が、代わりに巡礼先として向かう場所のことである。
山脈を越えた西側には今まで、これが無かった。
これが完成して三ヵ月後には、帝国などから多くの巡礼者がこの町に詰め掛けた。
そのおかげで、この街には多くの宿が林立している。
商店街建設が決まったのも、この辺りが大いに関係している。
「おや、カイト様。 何か御用ですか?」
カイトが大聖堂の前でポカーンとしていると、白い修道服に身を包んだ女性が声をかけてきた。
彼女は聖女のイリスさん。
この大聖堂の、司教様を勤めている。
王都でのカイトの命の恩人で、今では友人のようなものだ。
たまにこうして、街であっては、少し雑談とかをしていく。
割とこれが、楽しい。
・・・---っと、あぶない、あぶない!!
今は、一刻も早く屋敷に帰らねばならないのだった。
俺には、しなければならないことが控えているのだった。
「すいません、イリスさん。 今日は急いでいるので、また今度時間を見つけてお話しましょう。」
「そうですか・・・、領主様というものも大変ですね。 また会えるときを、楽しみにしております。」
これだけ伝えると、カイトは再び、ノゾミと共に屋敷へ足を向けた。
イリスさんは、彼らに一礼すると、大聖堂の中へ戻っていった。
家には、鬼嫁が待っている。
・・・彼女の前で言うと、ヤバいので言ってはいけない。
その彼女に、あることを相談せねばならないのだ。
実は昨日、準備は整った。
だが、タイミングが悪くて言えなかったのだ。
あとは、説明をするだけである・・・・・・!!!
閑話を読まずとも、分かるように構成してみましたが・・・・
正直、不安です。
閑話も読んで頂ければ幸いです。




