閑話・バルカン転落
これからも、がんばって行きます。
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「バルアの町の治安が悪化しているですって!?」
「・・・・は! 物盗りなどは軒並み、減少傾向なのですが、ここにきて誘拐事件などが多発しております。」
バルアの警備兵の一人からの報告に、アリアは絶句した。
ここまで、ゴーレム警備兵や、ノゾミの活躍もあって、バルアでの犯罪事件の発生件数は、ベアルを除けば国で最低となった。
これは実に、誇れることであるといえよう。
だが、なぜかここ最近、誘拐事件が多発しているのだという。
いつも夜に。
必ずといっていいほど、標的は若い女性。
この国では合法とされる、奴隷商も襲われているらしかった。
この連続性と、共通性から、犯人は同一人物。
しかも、規模などから組織で行動していると考えられてた。
しかし、それ以上の有力情報は、無かった。
「分かりましたわ。 あなた方は引き続き、街の警備をお願いいたしますわ。」
「了解しました。 必ず、犯人逮捕を成し遂げて見せます!」
一礼して、警備兵は再び、街の警邏へ戻っていった。
ゴーレム警備隊ですら捕まえられぬ犯人像・・・・
アリアの胸中は、不安で渦巻いていた。
◇◇◇
「きゃあああああああああああああ!! 誰か助けてーーーーーー!!」
「出して! ここから出して!!」
「もう終わりだわ・・・・ 人生おしまいよ・・・・・・・・・」
ここはバルアのとある家の地下室。
そこからは、多くの女性たちの悲鳴や、絶望の声が聞こえてきていた。
しかし彼女たちの救いを求める声は、地下室内を反響するだけで、外の人間には、聞こえていなかった。
彼女らの首や手足には、自由を奪うように、枷がはめられている。
これは、奴隷となった者に対し、はめられる物だ。
ここには、奴隷商から奪った『奴隷』もいはした。
だが、叫び声をあげ続ける女性は、この街の市民・・・・
誘拐され、奴隷化された者たちが大半を占めていた。
そんな女性たちの前には、ただ一人、下卑た笑みを浮かべる、小太りの男がいた。
これからのことを考え、悦に入っていたようだ。
そんな彼の横に、荒くれ男といった感じの、ハゲがやってきた。
「バルカン様、明日には、この人間たちの運び出しのメドが立ちました。」
「ふうむ・・・ なかなか手がかかったからな、代金は上乗せせねば。」
さらに下卑た表情を見せるバルカン。
先日彼は、この街のこの部屋で、自分の隠し財産を心待ちにしていた際、ゴーレムが入ってきた。
その胸元には、警備兵団バッチがきらめいていた。
心当たりしかなかったバルカンは、これから逃亡。
だが、逃げ切ることはできず、街の城壁のところで追い詰められた。
「ここまでか・・・・」
そう、彼が思ったとき、ゴーレムが出したのは、一枚の金貨であった。
実は、ゴーレムがしようとしていたのは、落し物を届けることであった。
バルカンがこの街へ落ち延びたとき、その腰の布袋から、金貨が落ちてしまっていたのである。
焦っていたせいで、バルカンはこれに気が付かなかった。
それをゴーレムが発見し、あらゆる感覚に敏感な彼は、持ち主を的確に見つけ出した。
それを、届けに来たに過ぎなかったのだ。
結果、バルカンはこの地下室に戻り、金儲けをしてからズラかる事にしたのだった。
ちょっと、欲が出たのだ。
「この女共は高く売れる。 そうすれば、私のこれからの貴族生活も安泰だ!!」
わっはははは!!
と、バルカンの笑い声が地下室をこだまする。
女性たちの叫び声は鳴りを潜め、その表情は絶望の色へと塗り換わった。
・・・が、ここでバルカンの視界の中に、入り口に土色の巨大な人形がいるのが目に入った。
ゴーレムである。
なぜか彼は、部屋の入り口でボサッとしている。(風に見えた。)
一瞬、警戒をしたバルカンとハゲ。
ハゲが、襲いかかろうとするのを、バルカンは止めた。
実は今日も、バルカンは金貨を数枚失くした。
彼はきっと、それを届けにきてくれたのだろう。
そう思い至ったバルカンは、ニコニコ顔でゴーレムへ歩み寄った。
「いやはや、ゴーレム殿。 お勤めご苦労様です。 今日は、どういったご用件ですかな?」
そう言って、さりげなく右手を差し出すバルカン。
もちろん、金貨を受け取るための手である。
・・・・が、ゴーレムは少しうなり声を上げた後、バルカンたちに襲い掛かって言った。
「おひゅふぉおおおおおおおおおおお!??」
「ば・・・バルカン様!? うああああああああああああああ!!!!!」
奇声を発しながら、ゴーレムに捕らえられるバルカン。
ハゲも、抵抗空しく捕らえられてしまった。
女性たちは何がおきたのか分からないのか、呆然としている。
そのゴーレムの手には、確かに金貨数枚が握られていた。
これは、昼間にバルカンが街で落としたものである。
バルカンの予想は、当たっていたのだ。
だが、この部屋に入った瞬間、ゴーレムは絶望に打ちひしがれる多くの女性を見た。
これで、ゴーレムは一瞬、自分がすべき優先順位を模索したのだった。
動きを止めたのは、そのためである。
守銭奴バルカンは、後ろの奴隷のことを、すっかり忘れていたのだ。
かくして、バカなバルカンとその一味は、あっという間にゴーレムに捕縛されていった。
それと同時に、囚われていた女性たちも、解放されていった。
こうしてこの事件は、一気に解決となったのであった。
なお、副産物として、『過渡期の臨時兵』として置かれたゴーレム警備兵たちは、この功績もあって『常駐兵』へと格上げされた。
後日のアリアからの辞令をもらう際、「おうーーーーー!!」と、ゴーレムがガッツポーズをとったというのは、街では有名な話である。
◇◇◇
「金貨三枚出す!!」
「こっちは金貨五枚だ!!」
異性の良い声あちこちから聞こえてくる。
ここは、バルアの競り市場だ。
競りといっても、この街の特産品の、魚のではない。
人間や亜人・・・ つまり、奴隷の市場である。
この国では、奴隷貿易は合法とされる。
そして彼らは、労働力や愛玩用などとして、売られていくのだ。
この国ではある一定水準、奴隷でも人権は保障されている。
しかし・・・・
それは、表ルートで取引される、『人間の』奴隷に対してのみの適用だ。
「けっ!! また売れ残りやがって・・・・ 少しぐらい、客に媚を売ったらどうだ、あ?? いつも暗い顔しやがって、ちっとも売れやしねえ!!」
「・・・・・・。」
奴隷商に、顎をつかまれ、グイッと顔を上へ向けさせられる少女。
その体は真っ黒に汚れ、着衣もボロボロだ。
世界に絶望したかのように、顔からは、生気が感じられない。
「いいか、次の競りでそんな顔しやがったら、お前の体からは赤い液体が噴出すことになるからな!?」
シターンと、地面へ鞭を打ち付ける男。
だが、少女の表情に、変化は無い。
興味を失くしたかのように、奴隷商は少女から手を離し、投げ捨てるように少女を牢屋の中へ入れた。
地面に転がる少女。
疲れからか、起き上がるそぶりを見せない。
その腰には、ふわふわした灰色の尻尾のようなものが、少女の背後から回り込むように包んでいた。
そしてその髪の間からは、灰色の狼のような耳が見え隠れしている・・・・。
バルカンの女性狩りは、魔法使いを使ってやっていたようです。
魔法で相手の感覚を狂わせ、寝ている隙に誘拐、もしくは襲撃する。
これだと、ゴーレムの察知能力にも引っかかりません。
ちなみに昼、バルカンは変身魔法をかけてもらって外出したようです。