閑話・バルアの伯爵様その2
これからもがんばっていきます。
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「じゃあ、お願いね??」
「おう、おう!!」
ノゾミのお願いに対し、敬礼で返すゴーレムの警備兵。
その右手には、ボロボロの状態の、男の姿があった。
先ほど、魚屋での盗難事件解決から早いもので数時間。
ノゾミはこの日、五人目の逮捕劇を繰り広げていた。
あれから、街の周りを走ろうと、城壁へ向かっていたノゾミ。
その際、割とよく見かけたのが、『スリ』や『置き引き』。
これらを目撃したノゾミは、片端からこれをした犯人を追跡、捕縛していった。
もちろん、犯人たちも捕まらないよう、必死で逃げた。
・・・が、魔石で強化されているトビウサギの俊敏な動きに、かなうはずも無く、これら犯人たちは、手も脚も出ないままノゾミに戦闘不能にされ、警備兵に突き出されていった。
「いい運動になったなー♪」
ノゾミも、大変ご機嫌だった。
感覚から、悪いことを考えている人たちを追跡し、捕まえると、なぜか周りの人たちは喜んでくれるし、自分もいい運動になる。
さっきは、住民の一人に、きれいなアクセサリーをもらった。
とってもきれいだ。
あとで、カイトに見せよう!
よくは分からないが、いい事だらけだった。
ちなみに今は、悪いことを考えている人間は、いなさそうである。
もう少し、運動したかったけど・・・・
やっぱり、街を一周ぐらいしようかな??
ズシャン!!!
「ぎゃあああああああああああああ!!!!」
ノゾミがそんなことを考えていたとき、後方から大きな音と、誰かの叫び声が聞こえてきた。
ノゾミが振り向くとそこには・・・・
「待っていろ! すぐに助けを呼んでくるからな!!!」
「あぐ・・・・う・・・・・」
馬車が倒れた。
商会の前で、商人が荷物の積み下ろし中、馬車につないでいた馬が、突然暴れだした。
虫が鼻先にでも来て、嫌がってこれを追い払おうとしたのだろう。
馬が大きく体を身じろぎさせた。
この縦横の激しい動きに、転がっていかないように車を地面に固定していた馬車は、耐え切れずにそのまま横転してしまったのだ。
このとき、商会の従業員の少年が運悪く、倒れてきた馬車の下敷きになってしまった。
幸い、つぶされたのは片足だけだったようだが、抜けない。
倒れてしまった馬車は、重さは軽く3トンはあるだろう。
このままでは、少年の命すら危ないかもしれない。
馬車の持ち主の商人は、大慌てで人手を集めにいった。
事は一刻を争う。
そんなところに、ノゾミが通りかかった。
「この馬車を起こすの?」
「あああ、この街の領主様ですか!? 申し訳ございません!! この一件は私が・・・」
通りがかったノゾミの姿を見て、その服装から彼女を領主様と知った彼は、いの一番に彼女に謝った。
街の住民は、領主様のものだ。
その住民に、予想できなかったとはいえ、こんなことをしでかしてしまったのだ。
ほかの街だったら、この商人は無事では済まなかったかもしれない。
・・が、ノゾミはそんな事はどうでもよかった。
「この馬車を起こすんでしょ??」
人が、馬車に挟まれているように見える。
匂いから、血が出ているのも分かる。
すぐ馬車を起こしたほうが良さそうだが、起こさないほうがいい可能性だってある。
アリアちゃんに、『出血多量』と言うものを教えてもらったノゾミは、そこを危惧していた。
カイトのトリ頭とは、エライ違いである。
「ええ・・・しかし、この馬車は私一人では起こせません。 今すぐ人手を・・・」
ゴスン!!
商人がここまで言い切ったところで、ノゾミは何食わぬ顔で馬車を起こした。
特に、問題は無かった。
カイトと前に倒した、ガーベア十頭を担いだときより軽かった。
商人は、口をパクパクさせている。
が、ノゾミの目には、下敷きになった少年の右足が捉えられていた。
その右足は、大きく損傷し、彼はもう、歩けない体になってしまったであろう事は、容易に想像がついた。
商人は、絶望の表情を浮かべている。
しかしノゾミは、すぐに彼が治ると思った。
なぜなら・・・・
◇◇◇
「おわ!? ノゾミ、その子誰!??」
「大怪我していたから、連れて来たの。 ・・・・・治してあげられる?」
アリアに尋問されていたカイトは、突然ノゾミが連れて来た少年に、驚きおののいた。
彼の足は、血だらけになっていた。
しかし、カイトの治癒魔法であれば、問題は無い。
「分かった、治すけど、今日はもう遅いからこの男の子は、ここに泊まっていってもらおうな?」
「うん。」
後日、足を治してもらった少年を雇う商会からは、ベアル出店についての打診が舞い込んできた。
これはずっといい返事をもらえてこなかった、初の商会の誘致成功例となった。
なお、これらバルアでの出来事により、住民たちがノゾミに気安くなったことをここに記しておく。
副産物としては、例の『串野菜』が、『領主様御用達』として大繁盛したらしい。
後に、これはこの街の名物化する・・・・
好き嫌いが、非常に大きく分かれる名物だ。
あと、二話くらいで閑話終了です。