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オタクはチートを望まない  作者: 福島 まゆ
第6章 この街に新産業を!!
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閑話・バルアの伯爵様その1

長いけど、続きます。

バルアの街にはかつて、バルカンと言う、悪領主がいた。

税金は七割。

街の整備などはロクにやってくれず、賄賂わいろ好き。

『最低』を具現化したような領主様だった。

住民たちも、そんな背景があって、貴族が嫌いだった。

嫌いだが、逆らえばバルカンは、容赦ようしゃなく処刑していった。

・・・それがたとえ、子供であろうとも。

だから、住民たちは貴族には、ビクビクした様子で、接していた。


それは、新しい領主になっても変わらなかった。


新しい領主は、ノゾミといって、赤目赤毛の小さな女の子であった。

年齢のせいもあってか、監督官もあてがわれ、彼女に似た、赤い大公様がその役職についたらしい。

その甲斐あってか、税金も大幅に引き下げられ、住民たちは、大いに喜んだ。


前領主のせいで、財産を失ってしまった民は、べアルという街へ、出稼ぎに行った。

今回の領主様たちは、いい人らしいことは住民たちも分かっていた。

だが、彼らも所詮は『貴族』。

いつ、バルカンのときのようになるかは、分かったものではなかった・・・・・・


そんな複雑な感情うごめく中で、赤目赤毛の、白い礼服を着こなした貴族風の少女が、バルアの露店などがごった返す街道をゆっくりとした足取りで、歩んでいた。

その片手には、串に生野菜が刺されたモノを、複数持っていた。

そのすべてには、緑色のドレッシングがかかっている。



「おいしーーーーー♪」


いま、私はバルアって言う街に来ている。

カイトたちは、『せーしょくしゃ』とか言う人に会うとかで、私は一人にされちゃった。

つまらないから、バルアの街に来て、お散歩することにしたんだ♪

そしたら、何人もの騎士さんたちが、付いてこようとした。

あの人たちが来ると、動きにくくなってしまうので、『来るな』って言ったら本当にこなかった。

言ってみるものだ。


そして私は今、バルアの街を散歩しながら、『昼食』をとっている。

屋敷の紺色の女のメイドに渡された、お金で買ったものだ。

串屋というところで、購入した。

具材はセルフサービスだったので、生野菜と、美味しそうなドレッシングをチョイスしてみたのだ。

これがもう、本当に美味しい!!

ああ、もっと買っておくんだった!!


いつの間にか、ノゾミの手に握られていた野菜の串はすべて、串ごと無くなっていた。

説明するまでもなく、一緒に食べてしまったのだ。

串にもドレッシングが染み込んでいたので、美味しくて食べてしまったようである。

よいこの皆は、決してマネしてはイケない。


「ああ、お腹いっぱい。 運動したいな・・・」


周りの住民は、ノゾミがこちらを向くたびにビクッと体を震わせているが、ノゾミは気がつかない。

彼女は今、腹ごなしに街を走って、五周ぐらいしようかと考えていた。

そのとき、街の喧騒けんそうの中から、怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。

そこには、人だかりが出来ている。


気になったノゾミは、腹ごなしは後にして、人だかりをき分けて、これを覗いた。




「貴様! うちの品物を盗んだな!?  早く出せ!! そうでないと、警備兵団に突き出すぞ!!」


「何度言ったら分かる!? 俺はあんたの店の品物なんか、盗んじゃいない!!」


二人の男が、『盗んだ、盗んでいない』と、言い争いを続けていた。

辺りは人だかりが出来ており、注目の的となっている。

ノゾミは好奇心から、この二人がどうして言い争っているのか気になったので、聞くことにした。

本人たちに。


「ねえ、何があったの?」


「こ・・これは、領主様!! いえ、店先に並べていた魚が数匹、少し目を放した隙に無くなってしまったのです!!  そのとき、目の前にはこの男がいました。 盗んだに違いありません!!」


及び腰で、ノゾミにそう説明する店主。

質問したノゾミは、そうなんだー、位にしか考えていなかった。

別に気に留めた様子もなく、ノゾミは、今度は容疑をかけられている男性に向き直った。


「盗んだの?」


「じょ・・・冗談じゃねえ!! 漁師が魚なんか盗むかよ!!」


こちらも及び腰で、釈明しゃくめいをする。

周りは、領主様が現れたとかで、さらに人だかりが大きくなっていた。

その中心で、う~~ん、と首をかしげるノゾミ。


が、そんな彼女の嗅覚に、何か気になるにおいが捉えられた。

魚、人間、それ以外。

そのにおいをたどってみることにしたノゾミ。


「ねえ、ここでちょっと待っててくれかな?」


突然の彼女のそんな発言に、『ああ・・・』と、生返事しか返せなかった二人。

途端にノゾミは、海のあるほうへと歩を進めた。

人壁になっていた街の住民たちも、彼女に道を空ける。


においの元は、そう遠い場所ではなかった。

だからノゾミも、ゆっくりとした足取りで、慎重に犯人と思しき匂いを残していった者の元へ、向かった。

住民たちの一部も、そんな彼女の意味不明な行動に、付いていった。


しかしそんな彼女の足が、ある路地裏で止まり、しゃがんだ。

住民たちが彼女のそんな行動に、首をかしげた。

すると・・・・



「ニャアア・・・・」


路地裏の小さな壁の穴から、小さな子猫が出てきた。

灰色のトラ猫で、生まれて間もないのか、その体躯たいくはとても小さい。

そしてその猫の口には、魚の身の様な物がついていた。


微笑ほほんだ顔を浮かべている領主のノゾミを傍目はために、住民たちが壁の中を覗いてみるとそこには・・・



◇◇◇



「領主様。 金なんか要りませんよ。」


「ううん、私が好きにしたから、その迷惑料なの。 あと、出来たらあの猫ちゃんたちに魚を・・・。」


「そういうことなら、遠慮なく・・・ あんたも、疑って悪かったな。」


「なあに、ああいうことなら仕方ねえさ。 疑いだって晴れたしな。」


魚の犯人は、母猫だった。

どうやら、子猫たちの乳を出したくて、魚を盗んで食べていたらしい。

それを見つけたノゾミは、けんかをしていた二人のうち、店主のほうに、『お金は払うから、あの猫たちに魚を定期的に与えてほしい』と申し出たのだ。

実にノゾミらしいと言える。

微笑ましいものを見せてもらった彼は、そのお金を受け取ろうとしなかったが、やっと、折れた。


住民たちも、思いがけない犯人に、驚きと微笑ましさが入り混じった顔をしている。



この後、この街が別名、『猫の街』と呼ばれるようになった由縁ゆえんは、この辺りにあったりする。




ごめんなさい、思ったより長くなったので、二部構成にします。

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