閑話・教会その2
もう何話か、閑話が続きます。
本編開始まで、しばらくお待ちください。
カイト様が、教会建設を許可する旨の、書状を書かれて一週間。
大抵、ああいった書状が届いた後は、その後に建設を行う人材を募集して、それから出発することになります。
マイヤル聖国から、この領地まで早馬でもせいぜい、半月ちょっと。
教会ができるのは、随分先になることでしょう。
まあそれでも、カイト様が知り合いの、転移魔法が使える方に(実はダリアさん)、届けるよう言ってくれたようなので、その分は早く、あちらも行動に移れたでしょうが。
・・・なーんて、つい三日ほど前までは思っておりました。
朝日が差し込む二階の窓から外を見やれば、すでにこの屋敷ぐらいの大きさまでになっている、縦に長い大きな建物が聳え立っているのが見えます。
今は朝が早いのでいませんが、もう少しもすれば、建設魔導師十数名が簡易宿舎から出てきて、再びあの建物の建築を始めることでしょう。
そうです。
あれが、この街にできるという、教会のようです。
『この屋敷ぐらい大きい』と言いましたが、まだ、あの建物は建築途中です。
完成したら、王都にある、『大聖堂』並みに大きくなることでしょう。
『大聖堂』とは、教会の上の存在・・・・
いわば、マイヤル教の布教活動の中心地ともなりうるモノですわ。
遠く、聖地のマイヤル聖国の『王聖堂』へ行けない者たちの、代わりの巡礼地ともなる場所です。
山脈よりこっち側には未だ、このようなものはありません。
もし完成すれば、山脈からこちら側に住む民・・・
帝国や、共和国の巡礼者でこの街は、ごった返すことでしょう。
要するに、この街には不釣合いなほどあの教会は、巨大なのですわ。
巨大だし、見た限り設備も・・・・・
別に大きさについては、制限などはなかったので、問題はないのですが・・・・
あと、つい大きさばかりに目がいきがちですが、工事着手が早すぎます。
先ほど申し上げたように、書状を送ったのが、つい一週間前。
工事開始が三日ほど前。
この到着の早さはつまり・・・・
「ふああ・・・・あ、おはようアリア。 起きるのが早いんだな。」
「おはようございます、カイト様。」
「わあ・・・、教会も、随分大きくなったものだね。」
容疑者のカイト様が、眠そうに目をこすりながら起き出してきました。
髪の寝癖が、彼が寝起きだということを説明してくれます。
部屋を出るときは、寝癖とパジャマくらいは・・・・
彼に、注意を申し上げたくなってきました。
おっと、そうではありませんでした。
このネボスケ領主様には、聞きたいことがあるのです。
「カイト様、つかぬ事をお聞きしますが、あの建設のものたちは、カイト様の魔法で、お連れになったのですか?」
「・・・へ、違うよ? 俺はあの書状にサインして知り合いに届けてもらっただけ・・・・ それにしても早いよねーー。 書状届けて一週間でこれって。」
窓の外の、建設中の教会を見て、目を細めるカイト様。
なるほど。
カイト様はシロのようですわ。
彼はこんな所では、ウソはつきませんから。
とすると、考えられる可能性はひとつ。
それは・・・
『許可』を見越して、すでに建設魔導師をベアルへ、派遣していたということ。
特に問題はありませんわ。
許可を受けたら、一年以内ならたとえその場ででも、建物の建設を始めてよい事になっていますから。
まして、今回は『教会建設の許可』。
これに許可を出さない者など、いませんからね。
どこかの『カ』から始まる名前の、おバカな領主様を除けば。
カイト様は、『マイヤル教』すら知りませんでした。
ここから考えると、カイト様が、許可を出さなかった確立もあったわけです。
・・・・そう考えると、体が震えてきますわ。
背筋が凍りつきそうです。
もし、そうなっていたら、やって来た建設魔導師たちと言い争いになって、『教会に恥をかかせた』と、国際問題にまで発展しかねませんでした。
戦争だって、ありえました。
「この街で一番大きな建物になるな。 むははははは!!」
カイト様、笑い事ではありませんわ。
一歩間違えれば、この領地は・・・この国は・・・・・・
「あれ、アリア? 震えてる・・・風邪か??」
「・・・何でもありませんわ。 ご心配には及びません。」
「そっか、健康には気をつけて。」
カイト様が、笑顔で私の健康を気遣ってくれます。
でも、私の健康より、あなたはこの領地のことを気遣ってくださいませ。
言っても、きっと無駄なので言いませんが。
「お、人間だ、人間だ。 建設の人かな?」
そんなことを話している間に、建設魔導師の者たちが、仕事を始めるようです。
それにしても、さすがプロですわ。
十数人いるとはいえ、たった三日ほどで、この屋敷並みに大きな教会(?)を造り上げてしまうのですから。
「すごいな。 三日であんなに大きな建物を造り上げちゃうなんてさ。」
「・・・・そうですわね。」
あなたも、結構大概な事をしていますけど。
カイト様の彼等への評価は、どこか皮肉に聞こえてもきます。
彼が、そんなつもりで言っているわけではない事は、分かっているのですが・・・・
自画自賛しないのは評価できますが、他人が聞いたらイラッとしかしないので、気をつけてください。
そんな彼の評価も、後日、私は『-100』をつけさせていただきましたわ。
マイヤル教は、この世界最大の宗教です。
ほかにも、土俗的な小さな地方宗教などはありますが、ここでは多くの者は、万国共通でこの宗教を信じるのが、主流となっているようです。




