第106話・はじめの一歩
大変、失礼しました。
こちらの不手際で、書き途中のものを投稿してしまいました。
この場を借りて謹んで、お詫び申し上げます。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。
明日はとうとう、ベアルへの開拓団が、バルアを出発する日。
同時に、このベアルの街へと来る日。
俺の転移魔法で、この街へと送る手はずになっているのだ。
当然、人数が多いので、一度に全員を転移させる事は難しい。
そこでカイトは、前に屋敷でしたように、この街の家の一軒と、バルアの城門付近とをつなげたのである。
保安上、ここは開拓団通過後は、ふさぐ予定だ。
そんなわけで、俺たちは今、受け入れの最後の準備を推し進めていたのだが・・・・
「カイト様? 本当に大丈夫なのですか? 確かにお力添えさせていただくとは話しましたが、正直な話、ベアルへ至る道は、かなり・・・・」
「大丈夫です、心配ありません!! だから、一定期間ごとに商隊を寄越しては来てくれませんか?」
バルアの屋敷に一室。
俺の前に座っている人物は、商人のハントさんだ。
彼には、ベアルへ時々、商隊を寄越してほしいと頼んだ。
このために、俺は今日までがんばってきたのだ。
商隊を誘致し、店が無いベアルでも、買い物が出来るようにする。
すべては、開拓団の人たちに、ベアルに定住してもらうためである。
最初こそ、渋ったハントさんであったが、俺の熱意に根負けし、しぶしぶといった感じだがこれを、了承してくれた。
よかった。
それでも断られたら、どうしようかと考えていたのだ。
ハントさんの懸念材料らしい街道は、ダリアさんの尽力もあり、昨日やっと全通(?)した。
その甲斐が、あったというものだ。
部屋を退出していくハントさんを横目に、今まで押し黙っていたアリアが、不安げな様子で、俺の顔をのぞいてくる。
「カイト様? 『今日のこうしょうは、任せてほしい』との事だったので、何も言わずにおきましたが、本当に大丈夫だったのですか? あの商人も言っていたとおり、ベアルの街道は、大変な悪路です。 あなたもご存知でしょう??」
もちろん、ご存知です。
あのときの、馬車に受けた尻の痛みと、楽しい商隊との晩餐は、忘れようったって忘れられない。
「もし、あの商人が『ベアルの街道は、領主が大丈夫と言ったのに、まったく整備されていない』と吹聴したら、あの街は終わりなのですよ?」
今まで見せた事が無いくらい、不安げな表情を見せてくるアリア。
それくらい、この事は重要という事だ。
街道がボロくては、商隊は来ようとはあまりしないからな。
その上、俺は『大丈夫だ』と公言してしまったのだ。
アリアの不安は分かる。
だが、俺とダリアさんで整備した新街道は、伊達ではない。
・・・そういえば、アリアやノゾミたちにはまだ、整備が終わった新街道をまだ、見せていなかった。
もう、情報を解禁してもよかろう。
むふふと、下卑た笑いを見せるカイト。
それを引き金に、アリアの不安が一掃、増長する。
「アリア、今日はこの後、時間作れるかな?」
「え・・・? まあ・・、街の最終点検も済みましたし、少しくらいであれば・・・・ いったい今度は、何をする気ですか??」
疑うような、何かを探るような目を、こちらへ向けてくるアリア。
ふふふ・・・・・びっくりしてくれるかな?
喜んでくれるかな??
カイトは、これから彼女が見せるであろう、驚き、そして歓喜の声を上げる姿を想像し、ほくそ笑んでいた。
アリアは、カイトのその一挙手一投足に、さらに不安を抱くのだった・・・・
◇◇◇
「あなたは、こんな事を今まで隠していたのですかーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
「へぶう!!???」
谷には橋が架かり、崖にはトンネルが掘られているベアルの新街道を見せた瞬間、カイトはアリアに、盛大にぶっ飛ばされた。
アリアは、驚いて歓喜の声をあげる前に、カイトの右頬をひっぱたいてきたのだ。
・・・・結構、力強く。
カイトの楽観的で願望的な想像は、見事に打ち破られたのだ。
「カイト様? いったいこの整備に、いくらかかったのですか? 怒りませんわ。 怒りませんから、正直にお答えください。」
ゴゴゴ・・・・と、背後に炎をたぎらせ、般若のような顔でカイトに近づくアリア。
今、現在進行形で怒っているのは、火を見るより明らかだ。
だが、彼女が怒っている原因は分かった。
つまり、正直に言えば、文字通り怒られる事は無い。
「待ってくれアリア!! お金はかかっていないんだ!! 全部ダリアと俺だけで、この数日だけで・・・」
「それでは、この街道は、整備にはびた一文、かかっていないと・・・?」
アリアの迫力を前に、ビクついて首を縦に振る事しかできないカイト。
だが、ウソはついていない。
何より、お金がかかっていないから、怒られるような部分も無いはずだ。
これで、一件落着である。
「そんな事が、出来るわけが無いからこうして問い詰めているのですわ!! よろしい。 あなたが本当のことを言うまでは、決して、あなたからは離れませんわ。」
とたんに、顔が青ざめるカイト。
本当のことを言ったのに、怒られてしまった。
アホなカイトは、べアルの街道整備へ至る経緯を彼女に、話し忘れていたのに気がついていなかった。
これを話してさえいれば、アリアも納得したはずである。
ダリアさんの、ドラゴンである事を伏せるのはたぶんに、難しかっただろうが・・・・
ともかく、本当のことを言ったのに、カイトはアリアに、文字通り一日中、問い詰められる事になってしまった。
一件落着どころではなかった。
この後、アリアがこの事態を理解して、カイトの身を解放するのは、日付をまたいだ真夜中の事である・・・
◇◇◇
「バルカン様!! 大丈夫でございますか!?」
「ええい! 大声を出すな、バカ者!! 見つかってしまうではないか!!!」
ここは、ベアルの南に広がる開拓団用の団地の近く。
バルアの元領主、バルカンとその側近は、この街から逃げる方法を考えていた。
先日、この街の騎士たちに、隠れ家を発見されそうになったときにはヒヤッとしたが、幸いその隠れ家には通常出入りするものとは別に、隠し通路があった。
これのおかげで、彼らはお縄につかずに済んだのだった。
だが、明日には、この街には人間が沢山、来るらしい。
このまま、ここにいるのは危険だ。
そう、判断した彼らは、ここは捨て、このまま別の街へ落ち延びる算段をしていた。
むろん、街の見回りの騎士に見つかっては、元も子もない。
彼らは見つからないよう、慎重に歩を進めていた。
そのときに、大声を出したりなんかしたら見つかってしまう。
しかし、バルカンの腰に下げた袋からは、ジャラジャラとお金の音がした。
かなりの額の、お金が入っているようだ。
大声なんか関係なく、移動していた彼の腰からは、ジャラジャラと、そこそこ目立つ音がした。
これには、側近の男も、呆れるほか無かった。
これでは、街を出る前に、確実に見つかってしまう。
逃げるなら、その腰のお金を、どうにかしてほしかった。
側近の男は、見つからぬよう、周りによく気を配りながら、少しずつ、慎重に進んだ。
そこで彼は、違和感を感じた。
伝っていた壁に、不自然な布がかけられていたのだ。
もしかしたら、馬車でも入っているのかも・・・
そんな淡い期待から、布をめくった彼の前には、信じられない光景が広がっていた。
「ば・・・・バルカン様!!!!」
「バカ者!! 大声を出すでない!! 見つかってしまうでは・・・?」
布をめくったまま、固まっている側近の男をたしなめつつ、バルカンも、彼が見ている布の向こう側を覗いてみた。
「・・・!?」
とたんに、側近の男同様に、言葉を失うバルカン。
彼らの目の前には、よく見慣れた街、バルアの市街が広がっていた・・・・
バルカンは、これからも、ちょくちょく出します。