第99話・ベアル造成中
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「大公様。 ありがとうございます。 このごろ雨が漏ってたので、困っておりましたのです。」
「あはは。 いえいえ、お安い御用です。 こちらこそ勝手なことを言ってすみません。」
「大公様。 ワシのほうも、いい家にして下さり、ありがとうございますだ。」
「わたしも、今の家に住みたいという年寄りのわがままを聞いてくださり、ありがとうございます。」
カイトは今、この街の住人たちの家を魔法で建てていた。
一人ひとりの要望にこたえつつ、この街のこれからの整備計画について話し、家を移ってもらった。
住民たちには、家ごと魔法で移動をしてもらったのだ。
住む場所については、あまり依存はなかったそうで、住民は皆、快(心よ)く快諾してくれた。
住民たちの家々は、みな損傷が激しいものばかりだったので、カイトの魔法で修理をした。
ほかに、これからバルアからやってくるであろう、開拓団の人たちの家々。
それらを、すべて街の南側に造成中の団地に建設していっていた。
建築資材は、魔の森から。
カイトの魔力が天井知らずな事もあり、工事は着々と進んでいった。
「アリア、家って、あと何軒必要なの?」
若干、変わり映えのない作業に飽きを感じたカイトが、アリアに質問をした。
疲れてはいないが、気疲れがたまってきたのだ。
するとアリアは、手元の資料に目を落とし、何かを護衛の騎士と打ち合わせた。
「今ので223軒目ですので、残り最低でも277軒ですわ。」
「まだ半分にも満たないのかよ・・・」
落胆を隠しきれないカイト。
先ほど、既存の住民たちの家の移築は終了したので、いまはその、開拓団たちの家々を立てている。
街の北側に広がる魔の森を切り拓いて、広大なソギク畑を作る予定のベアルでは、多くの入植者が必要だった。
そのために、新たに治めることになってしまったバルアでも入植者を集ったのだ。
うたい文句は、『家を無償提供』である。
一世帯あたり、一回の応募までが、条件であった。
それを目指してか、応募はバルア以外からも着々と集まっており、その数は千を越えていた。
一世帯あたりの人数を集計して、人数をはじき出すと、その数は約三千二百人。
これは、前のシェラリータの人口に匹敵する数であった。
もちろん、中には動機が不純な者や、何か下心あって応募している者たちもいる。
そこを今、面接などをして、ふるいにかけているのだった。
今のところ二百世帯中、八十世帯が合格となっていた。
その統計から、余裕を見て五百戸の家を、ベアルの街の南側に建設していたのだった。
もちろん、足りないようであれば、この造成している団地はどんどん、広げていくつもりだ。
屋敷のある街の中心は、今は一部の建物が建っていた場所が更地となっている。
誰も住んでいないことを確認したうえで、持ち主不明の場合は順次、そこにあった建物は解体していったのである。
持ち主がいても、行方知れずな事が多く、なかなか思うようには進まないものの、これからも更地化を推し進めるつもりである。
すべては、街を発展させ、願わくば鉄道を造るためである!!
それをはじめたのが二日前。
まだまだ先は遠い・・・・
「カイト様。 家が飽きたというのならば、北側の魔の森に着手してくださいませ。 あちらもまだ、半分も済んでおりません。」
「うわあああああああ~~~~、あっちもあるのかよ~~~~~~~~・・・・・。」
開拓団誘致、うたい文句その二。
『ソギクを育てる土地は、領主が開墾をする』
こちらは、今の街全体の広さの、三倍の面積を開墾する手はずとなっている。
今済んでいるのは、そのうちの三割ほど。
やっぱり、先は遠かった。
「カイト様。 お疲れなのは分かります。 ですが、これもベアルの街を大きくし、大陸有数の貿易都市とするための足がかりです。 どうか、ご辛抱ください。」
アリアが、スパルタです。
ここ二日、ロクに休ませてもくれません。
休めるのは、夜に寝るときだけです。
「カイト様。 これが済めば、あなたの言う『てつどう』とやらを造って頂いてかまいませんわ。 それまで、どうかがんばってください。」
「・・・・。」
そしてたまに、こうしてアリアは俺に有効な発破をかけてくる。
これは、絶対に狙って言っているに違いない。
そして。
「ああ、もうひとがんばりするか!」
ん~~!!っと、体を伸ばし、ヤル気を見せる俺。
悲しいかな。
アリアのこの作戦(?)に俺は、まんまとはまっていた。
アリア、恐ろしい女性である。
◇◇◇
「づがれだ・・・・・・。」
バフッと、布団へ倒れこむ俺。
一時的な魔力切れのようなものである。
結局この日できたのは、南側の街の家百五十戸の建設と、中心街にある家十軒の解体。
それに、魔の森を少しだけ開墾した。
ヒカリにも、この開墾作業の内の、森の木を抜くなどの作業を、手伝ってもらった。
おかげで、少しは楽ができた。
が、普通魔法使いが家一軒建てるのに、一ヶ月はかかるのである。
それを、一日で百五十戸。
そりゃ、疲れて死にそうになるのも当たり前だ。
アリアも、『お疲れ様です』とか、労いの言葉をかけてはくれるが、明日も、明後日もこの一連の作業は続く。
さらには、開拓団に応募してきている者たちへの面接も行わなければならない。
そう考えると、気が滅入ってしまう。
すると、コンコンと、扉をたたく音がした。
最近カイトは、家に帰ったらすぐに、風呂にも入らず布団へ倒れこんでいる。
そのため、メイドさんが頃合を見計らって、食事をこの部屋まで持ってきてくれるのだ。
だが、今日はいつもに比べて訪問するのが早い気がする。
そう思って扉を開けると、そこにたたずんでいたのは、あろう事かダリアさんであった。
◇◇◇
「バルカン様!! 緊急事態です!!」
「何じゃ、騒々しい!」
ここは、ベアルの廃屋の地下。
そこには、元バルア領主のバルカンの姿があった。
彼は護送の途中、護衛の騎士に賄賂を渡し、こっそり逃げおおせていたのだった。
逃げ先は、隠れ拠点のあるベアル。
そこを任せていた男が、突如として部屋に血相を変えて入ってきたのである。
バルカンの背中を、嫌な汗がじっとりと流れる。
「警備兵団の摘発です!! 大勢の騎士どもが、こちらに向かってきています!!」
「なんじゃと!!?? いかん!! 早く荷物をまとめよ!! この街を出るのじゃ!!」
大慌てで荷造りをはじめるバルカンたち。
しかし、ベアルの騎士たちはすでに、廃屋の地下への入り口近くまで迫っているのだった・・・・
バルアでも、ベアル同様に税率が五分とされました。
住民たちは、大歓喜だったようです。
それまでは、ここも税率が七割でしたから・・・・