~迷子6~
その瞬間
「どーーーん」
近くで何か大きなものが落下したような低い、地鳴りのような音「どーん、どーん」さらに数回、音が鳴る度に伝わる大地の揺れ、音と揺れがさらに激しく、大きくなる。第六感と言うのだろうか。私の本能が危険だと知らせている。「逃げなくちゃ…。」咄嗟の判断。それ以外に出来る事はない。疲労と空腹で重くなった身体に鞭をうち、さらに上へと木を登る。
「もう少し。もう少しで頂上だ。」
これだけ高い木だ。頂上まで登れば大丈夫だろう。頂上付近の太い枝に腰を下ろす。登るのに必死だった為、気づかなかった。音と振動が止んでいる。安心したのか、ぼそっと独り言を漏らす。
「もぉー!何だったのよぉ!怖かったぁ…」
軽く探検に出たつもりが、道に迷い、狼に襲われ、更には得体の知れない音と振動に襲われる。私の精神状態は既に限界に来ていた。その上容赦なく襲う空腹と睡魔。恐怖と安堵が混ざり合い怒りへと変わっていく。何に対しての怒りなのか。わからない。ただただ意味の無い怒りなのだ。自分を落ち着かせようと、カバンから、水の入ったペットボトルを取り出し、最後の1口をゆっくりと味わう。空になったペットボトルを怒りにまかせて投げようと構える。