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~迷子3~
「アオーーーン」
遠くで遠吠えの声が聞こえる。いよいよ狼達が狩りを始める時間だ。
「焦るな。大丈夫。まだ遠い。大丈夫。絶対なんとか出来る。」
いっそう独り言が増していく。
焦っているのだ。
焦りをひた隠すように独り言をつぶやき続ける。焦りに気付かないフリを続ける。
ピンチになった時に誰かが助けに入る。よくある物語だ。しかしそうはいかない。これは物語ではないのだ。
人間と獣の力くらべなのだ。
焦りを消すため自分の腕に爪を立てる。痛みで思考が戻ってくる。
ふとおじいちゃんの言葉が頭をよぎった。
「人間の最大の武器は閃き、そう、ピンチの時に出る閃きこそが人間の最大の武器なのだ。けして思考力などではない。」
その言葉を思い出し、考えるのをやめた。
何も考えず辺りを見渡す。今まで気付かなかった。少し離れたところに一本の大きな木がある事に。
「おじいちゃん!ありがとう!」心の中でそう叫び、木に向かって一直線に走り出す。